特集
今日もお肉が食べたい!
牛肉天国
オーストラリアの魅力
鮮やかな紅色の身からほとばしり出る、ジューシーな肉汁。空腹を満たす、肉塊の圧倒的なボリューム感……。一仕事終えた後、疲れた体と精神に活力を注入するのに、分厚いステーキや香ばしい焼き肉に勝るものはないだろう。その点、オーストラリアでは、低カロリーの赤身肉から最高級の霜降り牛肉まで、好みや予算に応じてバラエティー豊かな牛肉が味わえる。そんな「ビーフ・ラバーズ・パラダイス」の魅力に迫る。
(取材・執筆:ジャーナリスト・守屋太郎)
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休日の午後、青空の下で友人や家族と楽しむ“バービー”(バーベキューを短縮したオーストラリア英語)は、オーストラリアを代表する伝統的な食文化。その主役はもちろん、キリリと冷えたビールと一緒に頂く、分厚い牛肉のステーキだ。
食生活が多様化し、菜食主義者が約1割まで増えたと言われる現代でも、オーストラリア人の牛肉に対する愛情は変わらない。1人当たりの年間牛肉消費量は18.9キロ(2018年=経済協力開発機構)と世界の主要国・地域で6番目に多い。平均的なオージーは、日本人(7.4キロ)の約2.5倍も牛肉を食べているのだ。
オーストラリアは世界でも指折りの牛肉生産国でもある。総人口とほぼ同じ2,380万頭(17/18年度=豪農業経済資源局=ABARES)が飼育され、牛肉の生産量は221万9,000トン(18年=国連農業食料機関)と世界5位。牛肉の輸出額は98億1,000万ドル(19/20年度予想値=ABARES)と農産品輸出の最大の稼ぎ頭となっており、主な輸出先である日本の食卓でも「オージー・ビーフ」として親しまれている。
牛肉は意外とヘルシー!?
この国の牛肉の選択肢は幅広い。従来からある肉牛の代表的な品種としては、主力のアンガス種の他、ヘレフォード種、ブラーマン種などがある。育て方の違いとしては大きく分けて、①牧草のみを食べさせた、脂肪分の少ない赤身の「グラスフェッド」(牧草飼育)、②出荷前の一定期間、穀物で肥育される、脂肪分の多い「グレインフェッド」(穀物肥育)がある。
あっさりとした低カロリーの赤身を好む人もいれば、サシがふんだんに入った霜降り牛肉が好きという人もいるだろう。好みや懐具合、その時の気分に応じて、豊富な選択肢の中からベストな牛肉を選べる。
国をあげて取り組む「安心・安全」も、オーストラリア産牛肉の特長だ。この国では厳しい衛生管理と水際の防疫体制のお陰で、これまで一度も牛海綿状脳症(BSE)や口蹄疫が発生したことがない。電子タグを一頭一頭の耳に付け、牛の生涯にわたる行動記録も管理している他、厳格な安全基準の下で全頭を生産者の証明書付きで出荷している。
牛肉のヘルシーさも見直されている。牛肉の種類や部位にもよるが、例えば赤身肉には「ホウレンソウの約10倍の鉄分が豊富に含まれており、免疫システムを正常に保つと共に、貧血予防にも効果が期待できます」(豪州食肉家畜生産者事業団=MLA)という。冷え症を抑える働きのある良質なたんぱく質や、造血作用のあるビタミンB12、新陳代謝に欠かせない亜鉛も多く含まれているため、特に女性にとっては「不足しがちな栄養素がこれだけ入っていて、なおかつカロリーも低い牛赤身肉は、まさにダイエットの味方」(同)だとか。
“WAGYU”も幅広く普及
オーストラリアでは近年、日本の和牛の血統が入った交配種の“WAGYU”が人気だ。オーストラリア産WAGYUのルーツは、北海道・白老町の和牛生産者・武田正吾さんらが90年代、米国に流出させた和牛の生体と精液にさかのぼる。畜産業界の関係者によると、米国に輸出された和牛の子孫や遺伝子がその後、オーストラリアに持ち込まれ、武田さんの指導の下で「豪州産WAGYUの父」と言われる豪州人生産者のデービッド・ブラックモアさんらが、豪州の牧場で繁殖させた。
その後、アンガス種などと交配したWAGYUは、オーストラリア産高級牛肉として広く認知され、海外への輸出も拡大した。最近は日本の和牛の血統を100パーセント引き継ぐ「フルブラッド」の生産も増えている。オーストラリア産“WAGYU”の品質は向上しており、「フルブラッドであれば最高級の日本産和牛と遜色ない水準に近づいている」(食肉業界関係者)との声もある。
一方、和牛の生体や遺伝子を海外へ流出させた行動については、厳しい批判があるのも事実だ。ただ、結果としてオーストラリアでは日本の食文化であるWAGYUの認知度は高まった。現在ではレストランやパブ、精肉店などで、ステーキ用食材や「WAGYUハンバーガー」として幅広く普及している。
加えて、18年5月には日本産牛肉のオーストラリア向け輸出が再開され、美しいサシが入った“本場”の和牛も食べられるようになった。解禁後の19年、日本産牛肉のオーストラリア向け輸出量は約35.3トン、輸出額は2億5,200万円(日本の財務省貿易統計)に達した。
それでも日本産和牛は、国内市場全体で見るとまだまだニッチな存在ではある。だが、私たちオーストラリアの消費者にとって、牛肉の選択肢がさらに広がったことは喜ばしい。口の中でアイスクリームのように溶けていく最高級霜降り肉の旨味を、記念日などの特別な機会に堪能してみてはいかがだろうか。
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