2019年GS開幕
全豪オープン・テニス
観戦ガイド
2019年テニスのグランド・スラム(以下、GS)の第1戦、全豪オープンがメルボルン市内のメルボルン・パークで1月14日から27日まで行われる。今大会においては、18年全米オープンを制した大坂なおみがGS連続優勝を果たすかに世界の注目が集まる。また、男子では昨年全豪を制したフェデラー、全仏のナダル、復活して全英と全米で優勝したジョコビッチ、ATPファイナルで優勝した新鋭のズベレフの4人の戦いが見逃せない(文中敬称略)。(世界ランクは2018年12月3日付)
19年全豪最大の見どころ、大坂なおみ
全米で偉大な女王セリーナ・ウィリアムズ(アメリカ、37歳、16位)を破って、GSで初優勝した大坂なおみ(21歳、5位)が昨年、一躍時の人となった。全豪でGSを連覇して、新女王の座に就くのかが今大会の1つの焦点となる。
その前にまずは、世界を驚愕させた大坂の昨年を振り返ってみたい。
全豪では世界72位で、とても優勝を狙える位置ではなかったが、4回戦まで進出してトップ20選手2人を破り実力を見せた。3月のインディアンウェルズ・マスターズは、GS(優勝2,000ポイント、以下P)に続く最高ランクの大会(1,000P)であるが、大坂はノー・シードながらWTAツアー初優勝を飾った。1回戦でマリア・シャラポア(ロシア、31歳、29位)、2回戦で実力者のアグニエシュカ・ラドワンスカ(ポーランド、29歳、現役引退)、準々決勝でカロリナ・プリスコバ(チェコ、26歳、8位)、準決勝でシモナ・ハレプ(ルーマニア、27歳、1位)に勝利、決勝ではダリア・カサキナ(ロシア、21歳、10位)にストレートで勝利して、プレミア大会(1,000P)で優勝した初めての日本人女性となった。この勝利でランキングが22位まで上がり、続くマイアミ大会(1,000P)では、最多優勝記録を持つセリーナ・ウィリアムズに1回戦で6-3、6-2のストレート勝ちを収めた。
全仏と全英は3回戦まで進出し安定してGSで戦える実力があるところを見せ、「目標はGS優勝」と公言するなど照準がはっきりした。第20シードで迎えた全米も、3回戦ではダブル・ベーグル(1ゲームも落とさないこと)を達成するなど絶好調で、4回戦で第26シードのサバレンカ(ベラルーシ、20歳、11位)を接戦で下すと、準決勝では第14シードのマディソン・キーズ(アメリカ、23歳、17位)をストレートで破った。
決勝は大坂が憧れる第17シードのセリーナ・ウィリアムズ(アメリカ、37歳、16位)であった。第1ゲームは、大坂が6-2と簡単に取った。第2セットは、セリーナが第1ゲームをキープ。第2ゲームで大坂が40-15となった時点で、セリーナのコーチ、パトリック・ムラトグルーが禁止されている試合中のコーチングをしたとして警告を受けた。これに激怒したセリーナは、ラケットをコートに叩きつけて壊し1ポイントの反則を取られた。4-3と大坂がブレークしてリードした時点で、セリーナは執拗に抗議し主審を侮辱したとして、1ゲーム剥奪の重い反則を取られ、5-3と大坂がリードした。レフェリーを呼ぶなど猛烈に抗議するセリーナを応援する会場の異様な雰囲気の中で、大坂は冷静に戦い、チャンピオンシップ・ゲームを迎えた。精神面での動揺もあったと思われるが、サーブで冷静にコーナーを突いて、追いすがるセリーナを振り切って勝利を勝ち取った。
この大会で大坂が失ったセットはサバレンカ戦の1セットだけと、終わってみれば大坂の強さが光った。
こうした大坂なおみの強さには、大きく2つの要因が挙げられる。まずフィジカル面にある。ハイチ出身の父のDNAにより強靭でしなやかな肉体を持っている。200キロを超える超高速サーブが、緊迫した場面などでも的確にコート・コーナーを捉えてサービス・エースを奪える。逆にスピードを抑えることで、中央や左右へのボールの打ち分け、ダウン・ザ・ライン(ストレートにサイド・ラインを狙うこと)、相手コートのエンド・ラインぎりぎりに深い球を打つなど自在なコントロールができるようになった。練習の成果でフットワークも大幅に良くなってきた。
そして、精神面での成長だ。昨年は、我慢を自分に言い聞かせて成長してきた。17年末からコーチを務めるサーシャ・バジンの影響が強いと言われている。一昨年まではピンチに立つと我を忘れて自滅するのが大坂のパターンで、強いサーブもコントロールできていなかった。
パワーではセリーナと同等以上のものを持ち、精神面が安定してきた。大坂がセリーナの後継者として女王の座に就く可能性は高い。
錦織圭は20代最後の全豪で躍進なるか
期待の星、錦織圭(29歳、9位)だが、一昨年に手首を痛め昨年の全豪まで戦線を離脱して回復に努めたが、世界ランクを39位まで低下させてファンを心配させた。2月のニューヨーク・オープン(250P)から本格的にATPツアーに復帰すると、いきなりベスト4へ進出。モンテカルロ・マスターズ(1,000P)では、マリン・チリッチ(ボスニア・ヘルツェゴビナ、30歳、7位)、アレクサンダー・ズベレフ(ドイツ、21歳、4位)とトップ10選手を次々に撃破、決勝ではラファエル・ナダル(スペイン、32歳、2位)に敗れたが、復活を強くアピールした。全仏では4回戦、全英では自身初のベスト8に進出。全米では、マリン・チリッチを破ってベスト4まで進出して、ツアー・ファイナルにも2年ぶりに参加した。優勝こそならなかったが、トップ10に返り咲いて優勝圏内に復帰した。
年齢的にも20代最後であり、ベテランの域に達した今年は優勝を狙いたい。GS初優勝の課題は何と言っても3強(ジョコビッチ、ナダル、フェデラー)に勝つことである。
女子シングルス
セリーナ・ウィリアムズ、大坂なおみ以外にも女子シングルス優勝の可能性がある選手を挙げたい。全豪キャロリーン・ウォズニアッキ(デンマーク、28歳、3位)、全仏シモーナ・ハレプ、全英アンジェリーク・ケルバー(ドイツ、30歳、3位)、2017年全米優勝のスローン・スティーブンス(アメリカ、25歳、6位)、全英を2度制覇したペトラ・クビトバ(チェコ、28歳、6位)などGS制覇経験者が優勝圏内にいる。
男子シングルス
ロジャー・フェデラー(スイス、36歳、3位)が全豪、ラファエル・ナダルが全仏、復帰したノバク・ジョコビッチ(セルビア、29歳、12位)が全英と全米を連続優勝。結果的に昨年はこの3人で優勝を分け合った。
GS優勝回数は、フェデラー20回(歴代1位)、ナダル17回(2位)、ジョコビッチ14回(3位タイ)であり、過去15年間60回のGS優勝のうちの50回を、この3人で分け合っている。
テニスの歴史を塗り替え続ける3強のハイ・レベルな戦いがいつまで続くか分からないが、今年の全豪もぜひ注目したい。
新鋭では、昨年末のツアー・ファイナルでフェデラーとジョコビッチを破って初優勝したアレクサンダー・ズベレフと新鋭のドミニク・ティエム(オーストリア、24歳、8位)が注目。ベテラン勢では、全米準優勝のファン・マルティン・デルポトロ(アルゼンチン、30歳、5位)とマリン・チリッチも優勝を狙える位置にいる。
その他の注目日本人選手
男子シングルスでは、ダニエル太郎(25歳、77位)が、BNPパリバ・オープン(1,000P)でノバク・ジョコビッチを破る金星を挙げ、イスタンブール・オープン(250P)で念願のATPツアー初優勝を果たした。西岡良仁(23歳、75位)は、深圳オープン(250P)では予選から参加したが、強豪を次々と撃破してATPツアー初優勝を果たした。
松岡修造、錦織圭、杉田祐一に続いて、ダニエルと西岡が日本男子シングルスのツアー優勝者となり、日本テニス界の層の厚さを示した。
残念ながら女子シングルスで本戦出場(100位以内)は大阪以外に1人もいない。日比野菜緒(24歳、114位)、土井美咲(27歳、128位)、奈良くるみ(26歳、102位)、清水綾乃(19歳、199位)は予選出場予定。
女子ダブルスでは、昨年の全仏で準優勝した穂積絵莉(24歳、32位)、二宮真琴(24歳、20位)ペアに期待が懸かる。全仏ではノー・シードの穂積・二宮ペアは、第1、5、8、11シードの上位陣を次々と破り、日本人女子ダブルスとしては初のGS決勝へ進出した。
また車いす部門であるが、昨年の上地結衣(24歳、2位)は全仏で優勝したが、17年のGS3勝に比べると、地味な年であった。全豪では17年以来2度目の優勝を期待したい。国枝慎吾(34歳、1位)は右ひじ痛による故障のため2年間優勝なしとかつて苦闘していたが、昨年は全豪と全仏で連続優勝を飾り見事に復活、ランキングも1位へと返り咲いている。
全豪オープンの楽しみ方
日程
対戦組み合わせは、開幕直前に発表にされる。初日と2日目で男女全選手が登場する。予選は1月9日から12日にかけて行われ、入場は無料。日本人選手も多数参加するので応援しよう。暑いことが予想されるので水分補給、帽子、サングラス、日焼け止めは忘れずに。夜は冷える日もあるので、防寒着も準備しよう。試合経過がリアル・タイムに分かる全豪オープン公式アプリもチェック。
会場
メルボルン・パークには、ロッド・レーバー・アリーナ(1万5,000人収容)とマーガレット・コート・アリーナ(7,500人収容)の2つのセンター・コートと一般コートのハイセンス・アリーナ(1万500人収容)の開閉式屋根付きコートがあり、雨天でも試合が行われる。ショー・コートと呼ばれる観客席を備えたコートなど野外コートが全部で22面あり、一部は選手の練習用に使われる。会場にはビデオ・カメラ、大型望遠レンズ、大きな旗、ガラス瓶などは持ち込めない。
ロッド・レーバー・アリーナ・ガイド付きツアー
全豪オープン期間中にメディア・センターやプレーヤー・センター、歴代優勝者の写真が並ぶ通路、選手控室、選手インタビュー・ホールなど一般観客が入れない場所に入れるツアーがある。錦織や大坂に廊下ですれ違えるかも。詳しくは全豪オープンのウェブサイト参照。
催事場
ハイセンス・アリーナ側のグランド・スラム・オーバル催事場には娯楽テントや、ライブ・バンド演奏のビア・ホール、飲食店など催し物や屋台がたくさん出ている。ガーデン・スクエアでは選手によるサイン会も開かれる。錦織、大坂などトップ選手も登場する。ロッド・レーバー・アリーナの隣にショップがあり全豪会場でしか買えないロゴ入り特選グッズが販売されている。選手のラケットのチューンアップ・ショップを見学するコーナーもある。
アクセス
会場であるメルボルン・パークまでは、トラム、電車、バスなどの交通手段がありトラムは無料。フリンダース駅から歩いて10分ほどでヤラ川の散策を兼ねて歩くのも快適である。
チケット
一般券(グランド・パス:49ドル~)は、2つのセンター・コート以外は全て入れる。午後5時以降に入れるチケットや、週末2日間券、5日券、家族4人券など多種の入場券がある。ロッド・レーバー・アリーナの入場券は72ドルから。一般券は会場でも買えるが初日と2日目は、長蛇の列となるので、ネットで事前購入か、フェデレーション・スクエアで事前購入がお薦め。
Australian Open
会場:Melbourne & Olympic Park Trust, Batman Ave., Melbourne VIC
日程:1月14日(月)~27日(日)
Web: australianopen.com
文・写真=イタさん(板屋雅博)
ジャーナリスト、フォトグラファー、日豪プレス駐日代表
東京の神田神保町で叶屋不動産(http://kano-ya.biz)を経営