オーストラリア・ビザよもやま話
今月は亡命者・難民ビザ関連のよもやま話をお送りしたいと思います。
「ボート・ピープル」という言葉に対して、多くのオーストラリア人は大変敏感であり、あまり良い印象を持っていません。インドネシアなどのアジア諸国からボートを使って違法入国、亡命を果たそうとする難民がオーストラリアの国境を脅かすと指摘され、このボート・ピープルをいかに抑止、食い止めるかが政府の能力の高さを表すバロメーターと考えられています。
2013年7月にオーストラリア政府は、不法にボートで入国を試みる者に対して難民ビザを認めない、そしてそのまま追い返すという法律を通しました。難民の人権を無視したそのやり方に対して国際的な世論は非常に厳しいものでしたが、国内世論はそれを推す声が多く、結果としてボート・ピープルの数は劇的に減少しました。しかし、難民申請もできないままに、無期限でナウルやマナス島の隔離施設に放り込まれてしまう難民が3,000人以上に上る結果となってしまいました。この施設の難民の問題に関しても政府は有効な策を打てずにいます。
そんな中、最近メディアを騒がせたのは、ボート・ピープルに目を奪われていた5年間の難民申請数の84%に当たる9万5,000人の亡命・難民ビザ申請者がボートではなく、飛行機でオーストラリアへの入国を果たしていたという事実です。今年度は申請開始から7週間で、既に4,037人の亡命・難民ビザ希望者がオーストラリアへの入国を飛行機で果たし、その数はますます増える傾向にあるとのことです。ボート・ピープルを食い止めるために、海上の国境を一生懸命警備していたら、何のことはない、亡命者たちは飛行機で堂々と入国して来ていたのです。そして、現政府が空港から入国して来た亡命希望者たちの人数を全く把握していないことが野党に糾弾されています。
毎年先進国の各国では、国際的な義務として亡命者・難民を受け入れることが決められており、オーストラリアでもその範囲内において難民の受け入れをする準備はあるのですが、申請者の大半以上が亡命者または難民指定を受けるための条件を満たしていないことも問題となっています。条件を満たすことができないにもかかわらず、無理を承知で申請をしたり、却下された申請に対してダメ元で不服申し立ての申請を繰り返しているそうです。そうした手続きに数年間の歳月が掛かることはざらです。そうすることによって、その申請者たちの大半は、申請を待っている間にオーストラリアで働くことができるため、数年の出稼ぎをするために、わざとこうした制度の悪用をするグループもあるということです。また、難民たちに仕事を斡旋して、最低労働条件以下の給料で働かせている組織もあります。政府はいたちごっこの問題に継続して対処する必要があります。
清水英樹(Hideki Shimizu)
QLD州弁護士、ビザ・移民法政府公認アドバイザー(MARN9900985)。「フェニックス法律事務所」筆頭弁護士所長の他、移民ビザ専門コンサルティング会社「GOオーストラリア・ビザ・コンサルタント」、交通事故、労災を専門に扱う「Injury & Accident Lawyers」を経営する