第16回 パイン・マウンテンの蛇紋岩
Pine Mountain, South Eastern Queensland / Serpentine
今回の獲物は蛇紋岩(じゃもんがん)。英語ではサーペンタイン(Serpentine)と呼ばれ、豪州各地に分布する緑、黒、灰色をベースにした蛇柄の石だ。硬度は4と柔らかく、割れた部分は鋭利さに欠けるとてももろい石で、扱いづらいのが難だが、磨き上げると美しい色と模様を見せてくれる。その硬度の低さと研磨の難しさ故に、なかなか研磨された蛇紋岩を見る機会は限られてきたが、近年、徐々にアクセサリーとして人気が出てきているようだ。
ある時、どうしても自分で見つけた蛇紋岩を磨きたいと同好の士に話すと「じゃあ、この本を託すよ。俺よりお前が持っていた方が良い」と1冊の分厚い本を渡された。『How & Where To Find Gemstones in Australia & New Zealand』という1972年に初版発行されたその本には、石好きの先人たちがどこでどんな石を見つけたかという情報が500ページにわたり細かく記載されていた。
さすがに50年も前の情報だし、石は1度採ってしまえばそこからなくなってしまうわけで、この本に書かれている場所に行っても石があるかすら分からないが、行かなければお目当ての石を見つけることも不可能のまま……。だったら行く。これがトミヲ・スタイルだ。
その本によれば、ブリスベンの西にあるパイン・マウンテン(Pine Mountain)のタウン・ホールの周りの土壌は蛇紋岩で形成されている、とある。まずはここをターゲットに。
ブリスベンからワリゴー高速道路(Warrigo Hwy.)で西へ向かうこと30分、イプスイッチ(Ipswich)の次の出口で高速を降りて15分ほど北上するとパイン・マウンテンが見えてきた。町の中心にはタウン・ホール、公園があって、その周りに民家がポツポツとあるだけの田舎町。早速、タウン・ホールの前に駐車して周囲を散策してみる。
タウン・ホールの横にある丘は、所々岩がむき出しになっていて、近づいて見てみるとピカピカと太陽に反射する灰色の岩が顔をのぞかせていた。
やった、本に書いてあった通り、蛇紋岩だ! 岩の周りには小さく3~5センチほどに砕けた蛇紋岩がゴロゴロしている。しかし、磨くには小さ過ぎる。もっと大きな、もしくは色が綺麗な獲物を求めて丘の周りをくまなく歩いてみると、どうだ、道端に大きな蛇紋岩が転がっている!
更に蛇紋岩がむき出しになった斜面も発見。その斜面のふもとには1人では持ち上げられないほど大きな蛇紋岩があり、驚きのあまり思わず叫んでしまった。今回の目的は磨く蛇紋岩を探すことなので、灰色よりかは緑色と黒色が強めで加工しやすい掌サイズの石を持ち帰ることにした。
後日、その石をスライスした。ボロボロと石の端が欠けるので慎重にゆっくりと切ると、中から優しいクリーム色掛かった緑色と淡い黒色の模様が現れた。次に形を楕円形に整え、表面をドーム状にするが、とても柔らかくもろい石の加工は難しい。肩の力を抜いて、ゆっくり丁寧に、いつもより時間を掛けて磨いてやった。
石探しはいつもワクワクと驚きの連続だ。特に今回の蛇紋岩の丘は予想外のスケールで、遠出しなくてもこんなポイントがあるのだと驚かされた。「自分で見つけた獲物を自分で加工する楽しみ」、これは他では得難い体験だ。これだから石探しはやめられない。
このコラムの著者
文・写真 田口富雄
在豪24年。忙しい中に暇を見つけては愛用のGoProを片手に豪州各地を掘り歩く、石、旅をこよなく愛するトレジャー・ハンター。そのアクティブな活動の様子はインスタグラム(https://www.instagram.com/leisure_hunter_tomio)で確認できる。宝探し、宝石加工に興味があれば必見。前・ゴールドコースト宝石細工クラブ理事長