Central Queensland Gemfields / Sapphire
サファイア探索4日目にして最終日の朝も、けたたましい鳥の声で目が覚めた。「おや?……鳥の鳴き声!? 」と空を見上げれば、晴れ空。地面に水は溜まっておらず、裏庭には機械の点検をするマイクさんの姿が見える。
朝のあいさつに行くと「今日は機械が使えそうだ」とうれしいニュース。すぐに同行の2人を起こして、朝食をかき込んで再びマイクさんの元へと急いだ。
本日使う機械は、ドラム状の網を回転させ、石をサイズによって分けるトラメル(Trammel)と、石の表面に付着した土を洗い流しながら重い石と軽い石に分けるパルセーター(Pulsator)の2つ。
さっそく、勢い良くトラメルに土を流し込む。するとどうだ、あっという間に2トンほどの土が大(25mm以上)、中(5~25mm)、小(5mm以下)に振り分けられていく。この行程で表面の土がある程度は取れるので、大サイズの石は容易にサファイアかどうか判別できるようになる。
大物との出合いにワクワクしながら大サイズの入った容器を見てみるが、不発。残念! あくまでも本命はトラメルのおかげで400キロほどに仕分けられた中サイズの石なのだが、初心者の2人は、2トン以上の土からサファイア探しに使えるのは1/5以下という、宝石探しの苛酷さを目の当たりにして驚きを隠せない様子だ。
満を持して、中サイズの石をパルセーターに掛ける。パルセーターの機構の核となる部分は長方形(縦50cm x 幅25cm x 高さ10cm位)の鉄板でできており、その底には約2ミリの網、そして長方形は各10センチほどの間隔で高さ10センチの鉄板で溶接され、6区間に区切られている。
この網の下には水が張ってあり、機械で5秒ごとに1回、水を横から押し出す。押された水の水位は、上部の網の少し上まで達して、また戻る。この行程で網の上の石は下から一定間隔で押し上げる水圧による上下運動により洗われ、比重の重い石は下へ下へと溜まって、軽い石は上部に集まるという仕組みだ。
あふれ出た軽い石は仕切りの鉄板を越え、次の区切りで更に重い石と軽い石に選別される。マイクさん自作のパルセーターは、6区画に区切られていて比重の重いサファイア、ジルコンなどの宝石はほぼ全てパルセーターの底に溜まることになる。この機械は、石洗いの基本である手洗いでふるいを上下左右に動かしサファイアを探すのと同じ原理だ。
機械に水を張り電源を入れる。バッバッバッと言う鼓動に合わせて網の下から水が等間隔で押し上げられるその感覚は、その名の通り“心拍”そのもので、機械に命が宿っているかのように感じられる。
トモ君は、マイクさんの指示の下、パルセーターに中サイズの石をゆっくりと流し込み、僕はマコト君とパルセーターからあふれ出した軽い石の中にサファイアが紛れ込んでないかをチェック。念のため、洗い終わり機械から排出された軽い石を2度3度と機械に流し込んで取りこぼしがないようにする。
さすがに専用機械だけあって400キロほどの土がたった15分で洗い上がる。更に網に残された石を掃除機で吸い上げると、山のようにあった土はなんとふるい2杯分ほどに。そのふるいを、ドラム缶に張った水の中で上下左右に動かし、サファイアを探しやすいようにふるいの中央部分に溜めるように集めてから勢い良くひっくり返す。運命の瞬間だ。
すると、そこにはキラリと金色に輝く黒い石。ブラック・スター・サファイアだ! その周りにも小さなサファイアがパラパラと見える。更に期待を込めての2杯目のふるいでの運命の瞬間を迎えるも、あぁ無情……。こちらは、中央部分にキラキラと光ったのは小さなサファイアだけ。
2日掛けて手洗いしてきた量の10倍以上の土をたった小1時間で洗い終えたことには感動したが、あれだけあった大量の土から採れたサファイアの量を見ると宝石探しの厳しさを痛感させられる。
全ての作業後、4日間お世話になった宿を片付け、車に荷物を詰め込む。そしてこんなすばらしい体験をさせてくれたマイクさんに感謝を伝え、再会を誓い、空模様が徐々に陰り始めたウィローズ(Willows)を後にした。
雨と洪水を避けつつ無事に帰宅してから、トモ君の見つけたサファイアをファセット・カットにする。なかなか手強い原石だったが、とても力強い深緑のグリーン・サファイアに仕上げることができた。今回の旅で、宝石探しの過酷さを目の当たりにした2人だったが、旅の記憶を閉じ込めた特別な土産を手にしたその顔には達成感が満ちあふれていた。
このサファイア探索行の後日、とんでもない動画がネット上にアップされた。僕らが初日に散歩したリワード(Reward)で、しかも同じ日に、なんと834カラット、約1万2,500豪ドル相当(日本円120万円相当)の大物サファイアが見つかったのだ。散歩中の投稿者が、指で地表をほじると赤ちゃんの拳大のサファイアがポロリと現れたという。
同じ日の同じ場所、悔しくて仕方がない。しかし、これは今回の苛酷な時期に宝石探しに行ったことが正しかったと証明されたという意味では、朗報だとポジティブに考えよう。
♪あの日、あの時、あの場所で、君に会えなかったら……なんて感じで、まだ出合えていない大物への思いは募る。これだから石探しは止められない。
(この稿、ようやく終わり)
このコラムの著者
文・写真 田口富雄
在豪24年。忙しい中に暇を見つけては愛用のGoProを片手に豪州各地を掘り歩く、石、旅をこよなく愛するトレジャー・ハンター。そのアクティブな活動の様子は https://www.treasurehuntingaustralia.com/に詳しく。宝探し、宝石加工に興味があれば必見。前・ゴールドコースト宝石細工クラブ理事長