コロナ禍前後のファーム・ジョブ
コロナ禍の数年、ファームは人手不足で、私自身も人材確保にはすごく苦労しました。オーストラリアから出ていく人ばかりで、入国する人がいなかったからです。どのくらい大変だったかというと、収穫時には、約20人のワーカーが必要なのですが、たったの4人。私も夫もピッキングし、箱を運び、寝る暇がない日々が続きました。6歳の娘がトラクターを運転するほど人手が欲しかったです。そのため、コロナの時期は、私の住むミルデュラでは、1日500ドル稼ぐ人も多く、知り合いのファーマーさんは、俺もファームを売って、ピッキングにでも行きたいくらいだと言うほど稼げました。
現在は、人手が多すぎて、ファーマーやコントラクターが人材を選べるようになってきました。コロナ禍は、10個くらいの求人サイトに掲載して、やっと見つかったのが4人。現在は1つのサイトに求人を載せると、1日30件くらいの応募があり、求人を載せなくても、どこからか探して、メールを頂くこともあります。
これだけ、競争率が高くなってくると、なかなか仕事を得るのも大変になってくると思います。私のファームでは、きちんと人材を選ばせて頂いています。なぜかというと、教えるというのも、すごく時間と根気がいる仕事です。私にとっても、働いてくれる子にとっても、やる気がなければ、教えた時間はお互いにとって無駄になってしまいます。「出稼ぎワーホリ」とメディアで、あたかも簡単に稼げそうな報道に、英語もできず、車もなく、頑張れそうもなく、オーストラリアのワーホリに来てしまう子がいます。農業は、簡単ではありません。1日中、腰を曲げている仕事もあれば、つまらない作業をずっとしていなくてはなりません。そういう作業ができそうな子を探します。私は、自分の時間も、限られたワーホリの時間ですから、働いてくれる子の時間も無駄にしたくないので、慎重に選ばせて頂いています。
応募は、ほとんどがメッセージで送られてきます。その中で、「いくら稼げますか?」と聞いてくる人が、5%ほどいます。30%くらいは、「まだ募集していますか?」「情報を下さい」など。働くことにおいて、報酬は一番大切なことですし、これから働く場所ですから、何の悪影響もありません。ですが、質問の前に、まずは名乗りましょう。頂く応募の半数近くが氏名を告げないと思います。仕事を得る前に、社会人として、私はこういう者です。というのは、当たり前のことです。それは、ファームの仕事だから、ということではなく、どんな職種であっても、仕事でなくても、例えば電話で何かを問い合わせる際にも必要なことだと思います。ファームの仕事はバイト感覚なのかもしれません。簡単に稼げるというコロナの時代は終わりました。まずは、たくさんの応募から選んでもらえる人間になりましょう。そして、社会人としてのマナーを学んでください。
日本人としての誇り
私は、オーストラリアに18年住んでいます。今は経営者ですが、私もワーホリを2年経験し、ワーホリの方々の気持ちは良く分かります。本当に悪徳なファームもあるし、どれだけ騙されてきたか、話を始めたらきりがありません。しかし、だからと言って、自分も人に対して、マナーを忘れて良いかは、別の話です。オーストラリアは、マルチカルチャーで、たくさんの人種がいます。その中で、出会う人は、あなたを見て、日本人はこうだとイメージを作りあげてしまうかもしれません。だから、私は大袈裟ですが、日本代表だと思って、人に接しています。これまで、日本人はたくさんのテクノロジー、車、農業、医療などの分野で頑張ってきました。だから現在の日本があります。
ワーホリをしていると、どこから来たの?と聞かれて、日本と答えると、「Wow !」と言われたりすることはありませんか?ほとんどの人が、日本という国に良い印象を持っている返答をしてくれます。それは、これまでの日本人、日本人のワーホリの先輩たちが頑張ってきた証拠です。それを、私たちの世代が壊すわけにはいきません。英語ができなくても、マナーを持って人と接することはできます。「まずは名乗る」こと。そして「ありがとう」を言う、あいさつをする、仕事に関しては、ドタキャンをしない、きちんと連絡することが大切です。頂いた仕事は、頑張ってするなど当たり前のことをもう一度、見直してみて下さい。当たり前だけど、毎日それらを心掛けるか、しないことで、ワーホリの数年は、大きな差が生まれてくると思います。どうか、皆様のワーホリ生活が充実したものでありますように。
Profile
松﨑絢子
葡萄ファームズ及びBudou Exportの経営者。オーストラリアVIC州で、生食用ぶどうを生産し、日本を中心とするアジアに輸出している。日本では大手スーパーマーケットで販売中。共同通信グループNNAオーストラリア発行の農業専門誌「ウェルス」で、「南半球でブドウを作る VIC州農園ダイアリー」も連載中。一児の母。
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