
知ってると知らないでは大違い!
日豪プレス 法律相談室
第11回
“砂漠の勇者”の出演俳優に3,300万ドル?! 後編
前回お届けした映画『砂漠の勇者』の出演俳優ジョン・ブレイクの、自動車事故(1986年)の賠償請求についてのお話の続編です。
賠償額算出の際にはいくつもの関連要因が考察されますが、その中でも、ブレイクの将来の収入に関する予想(事故に遭わなかった場合)は、難題の1つでした。事故当時のブレイクは28歳という若さで、事故に遭っていなければその後25年間は映画界で定期的に仕事をしていた可能性がありました。もし彼がメル・ギブソンのようにハリウッドでスーパースターになったとしたら、その収入も著しく上昇したと考えられます。
しかし裁判所が悩んだのは彼が「映画界のスーパースターになる」ことに、確実性がなかった点です。複雑な考察が重ねられた結果、裁判所は以下のような判決を下しました。
判決において、スーパースターになっていた可能性が全否定されなかったことは、極めて大きな意味があります。
ちなみに裁判所は最初、数学的アプローチ(成功の可能性×成功した場合に得られる所得額)によって、ブレイクが将来成功する可能性とそれに伴う所得額の算出を試みました。しかし絶対的成功を確証することはできず、成功の可能性は非常に限られていると判断したのです。
また、「スーパースターになれるかどうかは、移り気な公衆の反応を含め多くの不安定要因が影響するが、それでもブレイクの素質を鑑みれば、将来成功の可能性が全くないわけではない」と裁判所は考えました。
結局、裁判所はブレイクの成功確立を数字(パーセンテージ)で表すことはできないと判断。ブレイクが退職年齢に達するまで働くことを前提に、予測がつかない事態(事故当時よりも映画界ではるかに活躍するなど)の可能性も加味しました。その結果、将来25年間の所得損失に対する賠償金は、3,300万ドル以上と算出されました。
上記判例について補足すると、現在は州法によって賠償金の限度額が設けられています。つまりジョン・ブレイクのケースのように若者の生活を奪ってしまう大事故でも、多額の将来の所得損失に対し、裁判所は限度額までしか賠償を命じることができなくなりました。

ミッチェル・クラーク
MBA法律事務所共同経営者。QUT法学部1989年卒。豪州弁護士として24年以上の経験を持つ。QLD州法律協会認定の賠償請求関連法スペシャリスト。