グローバル・マネー・フローをつかむ③

夢をかなえる豊かな明日への投資術

第13回 フライト・トゥ・クオリティー

ーグローバル・マネー・フローをつかむ③ー


文=諸星きぼう

欧州財政危機や米国経済の停滞などを尻目にリーマン・ショック後、アジア経済圏のプレゼンスが高まっていますね。1990年代も米国、日本の経済が落ち目の中、アジア経済は輝いており、97年5月まで続いておりました。

しかし、前回書きましたように、95年初めの80円を割るドル安状態から、米国の国策要因により97年には1ドル120円台までドルが戻したことにより、97年5月のタイ・バーツ急落に始まるアジア通貨危機が勃発することになりました。

それまでアジアは「21世紀はアジアの時代」と言われ、日本を中心とした逆雁行形の成長をしていました。

まさに日本の高度成長期のように輸出主導型の高度経済成長だったのですが、この成長は、実は80年代後半の日本と同様、バブルだったのです。詳しく説明すると、こうした新興アジア諸国は資本流入を促すために、自国通貨を米ドルにペッグ(固定)、またはリンクしていたのです。投資する側からすると、対ドル・レートで安定していれば安心して投資できるのです。

かくしてドル・ベース資金が大量に新興アジア諸国に流入していたのです。こうした資金が設備投資などの産業資本を大きくするならば良かったのですが、実際には不動産などの投資に向かいバブルを発生させていたのです。

さらに、こうした資金は短期資本という逃げ足の速い資金であったことが問題を大きくしたのです。

円安により経常収支が悪化

ドル高が進行したため、ドルにペッグ、またはリンクしている自国通貨が対円で高くなりました。ドル資本で生産し、日本に輸出し代金を円で受け取るといった、高くなったドルを安くなった円で返済するという構造的な負債増大サイクルができ上がってしまったのです。そして、その問題を見抜いたヘッジ・ファンドを中心とした短期資本が急速に資金を引き上げたため通貨は暴落したのです。

こうした動きがアジア各国で起こり、香港株の暴落、韓国株、ウォンの急落、インドネシア、マレーシアの株価、通貨の急落などと連鎖していったのです。

一説には、ヘッジ・ファンドの売り仕掛けを問題にした説明も多かったのですが、問題の根本は自国通貨政策の失敗でバブルを作り、しかも自転車操業の資金繰りとくれば通貨価値の急落は自明の理であったでしょう。

さらにここで忘れていけないのは日本です。邦銀はアジア向けに大量の投融資残があったため、既に弱体化していた日本の金融システム不安が起こり、アジア危機と期を同じくして山一證券、北海道拓殖銀行の破綻が起こり、一気に円安の流れにドライブがかかったのです。

すなわち対ドルで、97年5月の120円からロシア危機勃発直前の98年8月の147円まで一気に円安が進行したのです。

このステージの為替の動きは、メキシ コ危機によるドル安と同様「信用リスク 要因」に分類できます。

そして、世界最大の債務国である米国の国債が世界中の資本の逃避先になったのでした。

当時、「最も安全な米国のドル資産に逃げる」という意味で、フライト・トゥ・クオリティー(Flight To Quality、質への逃避)という言葉が使われ、その後発生したロシア危機や中南米危機の際にも使われました。

逃避資金は米国、欧州に流れました。アジア株式の低迷を尻目に米国株やドイツ株などは高騰、通常景気が良くなると売られる米国債までもが上昇しています。

97年5月には7%にも達していた米国10年債利回りは、98年8月には4.5%を切ったのです。こうした流れは、98年8月に起こったロシア危機で反転することになります。

円売り

前述した、97年のアジア危機に始まった危機状況で、日本でも山一證券、北海道拓殖銀行が倒産し、98年には日本長期信用銀行、日本債券信用銀行が国有化、事実上倒産し、銀行株はこれまでにない水準にまで売り込まれていました。

日銀は超金融緩和を余儀なくされており、低金利状況も続いていました。こうした中、世界的な潮流であるフライト・トゥ・クオリティーの状況が続き、日本人もこぞってドル預金や外債購入に向かっていたのです。

特にロシアやアジアでもそうですが、結局、自国通貨を売り叩くのは、自国民なのです。自国通貨が安定しない国民ほどグローバル金融システムを理解し、適切な動きをとりますが、「合成の誤謬」ではないですが、個々の合理的な行動が全体では悲劇をもたらす例とも言えます。

今日本でも、巨大な財政赤字への懸念、大震災後の自然災害への怖れなどから、静かに日本人が海外へ資産を移しています。

まだまだ個人金融資産1,400兆円全体から見れば大したことはないかもしれませんが、何かのきっかけで一気に海外へ資金が逃げるような事態になれば、つまり、自国民である日本人が自国通貨「円」を売り叩くような事態になれば、一気に円安、超・円安といった事態がいつ起きてもおかしくないのです。

こうした事態に対処するためには「転ばぬ先の杖」ではありませんが、円売りが少数派であるうちに、海外へ資産を移して防衛するということが重要です。

 


著者プロフィル もろぼしきぼう

投資教育家。(社)証券アナリスト協会検定会員。1988年東京大学経済学部卒。メガバンク、外資系銀行時代は東京、ロンドンでデリバティブ・トレーディングを実践。独立後、日本人の金融リテラシー向上のため投資家教育を行っている。現在、賢明な投資家の集まりであるインベストメント・サロン(http://www.ideal-japan.com/)を運営、投資アドバイスを行っている。著書に『お金は週末に殖やしなさい』(2010/10)、『大恐慌でもあなたの資産を3倍にする投資術』2009/3)。オフィシャル・サイト: www.ideal-japan.com ブログ「自由人ダンとオーストラリア」: ameblo.jp/daichi-megumi ブログ「諸星きぼうの豊かに生きるための思考法」: daichi-megumi.blogspot.com Facebook: www.facebook.com/#!/kibo.moroboshi

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