グローバル・マネー・フローをつかむ④

夢をかなえる豊かな明日への投資術

第14回 ヘッジ・ファンドとレバレッジ

─グローバル・マネー・フローをつかむ④─


文=諸星きぼう

 

もう1つの分散と集中

前回、信用リスク要因によるフライト・トゥ・クオリティーによって、ロシア危機勃発の直前には1米ドル147円台という円安となったことを述べました。

しかし、ロシア危機を契機に、一気に1米ドル120円までの円高が進むことになるのですが、これを理解するために知っておかなければならないことがあります。

以前に、米国を中心としたグローバル・マネー・フローの構図を説明し、米国はマネー戦略、つまりグローバル・マネーのハブとなり、マネーの集中と分散の中心となることによって、累積赤字国であるにもかかわらず、世界の中心たることができたと説明しました。

実は、1990年代の特徴として、もう1つの分散と集中があるのです。

それは、マネーが個人から機関投資家へと集中し、そこから拡散していくという過程がマネー・フローの中心となってきたということです。

年金、生命保険といった資本が巨大化していくと、その運用を高収益を求めつつ安全に行う必要が出てきました。その理論武装としての「モダン・ポートフォリオ理論」が一世を風靡すると、分散投資、それも国際分散投資が機関投資家の運用の主流となりました。

機関投資家の運用は、最初は国内株式と国内債券運用が主流だったのですが、国内での運用利回りが低下するに伴い、一国の経済成長に賭けるのも危険と考えられるようになりました。そこで、投資資金は収益率の高い海外市場へと分散範囲を拡大していきました。

その場合、エマージング市場と呼ばれる新興国への投資も含まれますが、その投資資金に対してエマージング諸国の市場規模が小さいため、投資資金の出入りにより国の経済そのものに多大な影響を与えるという事態も巻き起こすことになったのです。

さらには、グローバル化が進み世界景気の同時化が進んでくると、さらなる分散投資を模索し、オルタナティブズという代替投資も普及してきました。機関投資家が、この世界的運用競争時代にハイ・リターンを求め、ヘッジ・ファンドへの投資を開始し始めたのもこのころなのです。

 

円キャリー・トレード

9 8 年に米ドル円が12 0 円近辺から150円弱になるまで円が売られた原因としてはもっと大きなものがありました。それはヘッジ・ファンドによる円キャリー・トレードです。これが、米ドル円が一気に急落するきっかけを作ることにもなったのです。

さて、円キャリー・トレードとは何か。基本的な原理はドル預金とたいして変わりません。ヘッジ・ファンドは低金利の円を金融機関などから借り入れ、それをドル転(ドルに替えること)し、まず米国債のような安全で円債と比べて高金利の米国債に投資し、利ざやを稼ごうともくろみました。

このヘッジ・ファンドによるドル転、つまりドル買い・円売りトレードが大量に行われることにより円が売られたのでした。

これだけではヘッジ・ファンドの、レバレッジ(てこの原理)を利用して収益を拡大するヘッジ・ファンドたるゆえんがありません。

では何を行ったかというと、購入した米国債をレポ市場(債券貸借市場)に貸し出しドル資金を調達し、さらに高利回りのアルゼンチン債などに投資を行ったのです。その上、このアルゼンチン債などを再びレポ市場に貸し出しドル資金を調達しました。当時、銘柄によってはほぼ0%で資金を調達できるものもあったのです。

こうして手に入れた資金で、すべてではありませんが、最後に40〜50%のリターンが見込めるロシアのルーブル建て国債を購入したのでした。

このようにキャリー・トレードとレポという形の借金を大規模に行って10の元手を100にまで拡大するような、いわゆるレバレッジを最大限効かせた運用を行ったのです。

こうしたポジションが膨らんでいた状況下において、ロシアが自国通貨であるルーブル建て国債のデフォルトを宣言したのです。

ヘッジ・ファンドは、レポ市場を活用した借り入れによるレバレッジを何重にもかけていましたが、最終的には、最初の借り入れである円資金を返済しなければならなくなります。いわゆる円キャリー・トレードのアンワインディング(巻き戻し)です。つまり、円を買って返済することになります。それが大量に短期的に行われたため、一気に147円台から120円へと円高が進むことになったのです。

ここで注目しておきたいことがあります。日本国債のデフォルトは、「円を刷ればいいのだからあり得ない」と言っている人もいるようです。しかし、実際ロシアでは自国通貨建てルーブルでデフォルトしています。

なぜ、自国通貨建てにもかかわらずロシアがデフォルトしたのかを知ることによって、今後の日本の財政破綻時の参考になるでしょう。

このことについては、ロシア危機について詳述する次回に説明いたします。

 

著者プロフィル もろぼしきぼう

投資教育家。(社)証券アナリスト協会検定会員。1988年東京大学経済学部卒。メガバンク、外資系銀行時代は東京、ロンドンでデリバティブ・トレーディングを実践。独立後、日本人の金融リテラシー向上のため投資家教育を行っている。現在、賢明な投資家の集まりであるインベストメント・サロン(http://www.ideal-japan.com/)を運営、投資アドバイスを行っている。著書に『お金は週末に殖やしなさい』(2010/10)、『大恐慌でもあなたの資産を3倍にする投資術』2009/3)。オフィシャル・サイト: www.ideal-japan.com ブログ「自由人ダンとオーストラリア」: ameblo.jp/daichi-megumi ブログ「諸星きぼうの豊かに生きるための思考法」: daichi-megumi.blogspot.com Facebook: www.facebook.com/#!/kibo.moroboshi

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