第15回  ロシア危機に見る、将来の日本

夢をかなえる豊かな明日への投資術

第15回 ロシア危機に見る、将来の日本

─グローバル・マネー・フローをつかむ⑤


文=諸星きぼう

 

プレゼンスを高める新興国

リーマン・ショック以降、世界経済の中心は先進国から新興国へ移っていくことが鮮明に世界に示されました。

世界経済の問題を話し合う場が、G7からG20という主だった新興国も含む会議に移ったことは象徴的でした。さらには、リーマン・ショック後の世界経済の急激な落ち込みを救ったのも、新興国の急成長によるものでした。

新興国の直近10年間の平均成長率である18%で成長を続けるとすると、2018年には新興国のGDPは先進国のそれを追い抜き、その後はその差がどんどん広がっていくという試算もあります。

その新興国の中で、ブラジル、ロシア、インド、中国という、いわゆるBRICsと呼ばれる新興国が先陣を切っている形になっています。

しかし、この4カ国の内、ロシアは1990年代後半の経済危機の中、デフォルト(債務不履行)という苦渋の選択を迫られ、新興国の不安定さを改めて浮き彫りにしたのでした(01年には、アルゼンチンもデフォルト)。

 

ロシア危機

前回、ヘッジ・ファンドによる円キャリー・トレードの主要な最終投資先の1つがロシア国債だったことを書きました。

では、なぜヘッジ・ファンドはロシア国債に投資したのでしょうか。

もちろん金利が非常に高いということは重要なファクターですが、金利が高ければリスクもそれだけ高いことは自明の理のはずです。ヘッジ・ファンドをはじめとした投機家は、どうしてそのようなリスクを取ったのでしょうか。

ロシアはソ連邦解体後、急速に資本市場に登場してきた国ということを忘れてはいけません。

96年4月に、IMFは非効率な共産経済を立て直すために対ロシアに100億米ドルの融資を承認しました。そして96年6月には初めての直接選挙によりエリツィン大統領が選出されました。その後96年9月にはロシア政府が初めてドル建て債券の資本市場からの調達に成功することになりました。

こうした流れを見て、国際金融資本が「米国はロシアの資本主義化を図ろうとしており、ロシアを米国化する」というアメリカの国策を感じ取ったのはごく自然な流れでした。市場は米国がロシアに対して「国策としてコミットしている」と考えたのです。

しかし、ロシアの資本主義経済はなかなか軌道に乗りませんでした。経済はなかなか回復せず、たび重なる首相更迭など政治的に不安定な状況が続きました。世界経済情勢をみると、タイから始まったアジア危機が98年にはインドネシアに飛び火しており、市場の目は経済・政治基盤の弱いエマージング市場(新興国市場)に関心が移りやすい状態になっていたのです。

しかもロシア政府は期間1〜6カ月の非常に短期の国債で資金繰りをしていました。自転車操業を続けるロシア政府は毎週のようにルーブル建て国債を発行せねばならず、次第に危険を感じた市場はルーブル建て国債から距離を置くようになり、98年4月以降には国債入札がキャンセルされる週も出始め、ついに投資家を惹きつけるために6カ月の短期国債の利回りが100%を超えるまでになったのでした。

これでは誰が見ても資金が回らなくなるのは明白で、実際、98年8月にロシア政府はルーブル建て国債のデフォルトを宣言したのでした。

いわゆるロシア危機の勃発です。

 

自国通貨建て債務のデフォルト

エマージング国のデフォルトは珍しいことではありませんが、このロシアのデフォルトはルーブル建て、つまり自国通貨建てで起きたということが重要です。

通常、エマージング国がデフォルトする場合、過大な外貨建て債務を持ち、自国通貨の下落に伴い、その外貨建て債務がさらに膨らむことにより返済が困難となりデフォルトに至ります。

一方、自国通貨建て債務の場合、最悪、自国通貨を刷りまくって返済することは理論上可能です。

しかし、自国通貨を大量に発行するということは自国通貨の供給が過剰になり、需要と供給の関係を持ち出すまでもなく、その通貨がさらに急落し、インフレを進行させることになります。

この時のロシアの場合は、そうしたケースでした。ハイパー・インフレ状態に陥っており、貨幣経済は破綻に近い状態となっていました。

したがって、ロシア政府は国際的信用を失うというリスクを覚悟の上でデフォルトを宣言し、事態の収拾を図ったのでした。

世界的な金融緩和競争、通貨安競争の中、我が日本銀行が頑なに大胆な金融緩和を進めないのも、こうしたリスクを考慮してのことかもしれません。

しかし、デフレ経済が20年にも及び、経済が疲弊している日本において、このあつものに懲りてなますを吹くような日銀のスタンスでは、いつか、いや、もうすぐ日本の財政&経済破たんの日が訪れてしまうと考えてしまうのは、杞憂でしょうか。

欧州中央銀行(ECB)はスペイン国債無制限買い入れを発表。9月13日には、米連邦準備制度理事会(FRB)が量的金融緩和第3弾、いわゆるQE3を内外の批判をものともせず実行。彼我の差を感じてなりません。

 



 

著者プロフィル
諸星きぼう◎もろぼしきぼう

 

投資教育家。(社)証券アナリスト協会検定会員。1988年東京大学経済学部卒。メガバンク、外資系銀行時代は東京、ロンドンでデリバティブ・トレーディングを実践。独立後、日本人の金融リテラシー向上のため投資家教育を行っている。現在、賢明な投資家の集まりであるインベストメント・サロン(http://www.ideal-japan.com/)を運営、投資アドバイスを行っている。著書に「お金は週末に殖やしなさい」(2010/10)、「大恐慌でもあなたの資産を3倍にする投資術」(2009/3)。
オフィシャル・サイト: www.idealjapan.com
ブログ「自由人ダンとオーストラリア」: ameblo.jp/daichi-megumi
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