第27回 SA州アルカルーラ地区における鉱業禁止

第27回 SA州アルカルーラ地区における鉱業禁止

ブレーク・ドーソン法律事務所
パートナー弁護士 イアン・ウイリアムス

豪州三井物産
リーガル・カウンセル 松浦華子

Q 現在、日本の親会社が豪州で鉱業投資をしています。最近、ある地域で鉱業が禁止された事例があると聞きましたが、既存の鉱業権が影響を受けることはあるのでしょうか ?

A 2011年7月に南オーストラリア(SA)州首相は、環境への配慮を理由として、「アルカルーラ自然保護地区」(以下アルカルーラ)内におけるすべての鉱業活動を禁止すると発表しました。これにより、現在および将来にわたる同区での鉱業権が影響を受けることになりました。保護対象地区の自然環境の特有さを考慮すると、限定的かつ稀なケースであるものの、豪州ではこのように既存の鉱業権が制限を受けることがあります。本稿では、その例として、本件で鉱業法がどのように適用されたのか、また本件に関するそのほかの関連動向の概要をご説明いたします。

 

1.背景

(1)アルカルーラ自然保護地区

 アルカルーラはSA州アデレードの北600キロのフリンダース山脈に位置し、長年にわたり自然保護の対象となっていす場所です。希少な種類の動植物や絶滅の危機にある動物などが生息しており、環境的、文化的、歴史的価値のある場所として慎重な配慮が必要とされています。

 1967年には、野生生物の保護を目的にスプリッグ家が同地を購入し、その後、一般の人が自然環境を体験できるエコ・リゾートを建設するなど、自然保護を目的とするさまざまな方策を講じてきました。

 

(2)鉱業活動

 一方、これらを背景に、アルカルーラにおける鉱業活動は、環境破壊につながるとして以前から懸念されていました。例えば以前、マラソン・リソーシズ社(以下マラソン社)がアルカルーラに探鉱資材を廃棄したことにより、多くの環境団体から鉱業の継続を反対する声が上がりました。これを受け、2008年にSA州政府はマラソン社の鉱業活動を制限しましたが、これにもかかわらず2010年州、政府はマラソン社の探鉱権の更新(1年間)を許可したといういきさつがあります。

 

2. 鉱業禁止案

 今般のアルカルーラの鉱業禁止案では、以下の3段階の実行が計画されました。

①アルカルーラの鉱業法適用留保宣言(7月29日に宣言ずみ)

②特別法案の可決(採鉱・探鉱・放牧を禁止するとともに (先住民権を保護しつつ)、一般の人の同地区を享受できるようにすることを目的とする法案)

③アルカルーラの国家・世界遺産登録の推薦
以下、各段階の概略をご説明致します。

 

3. 鉱業法適用留保宣言

(1)第8条と第9A条の違い

 前述の通り、7月29日にSA州総督はSA州鉱業法1971(Mining Act 1971 (SA))(以下「鉱業法」)第8条に基づき、アルカルーラを鉱業法の運用から留保することを宣言しました。この宣言により同地区での鉱業は、既得権の有無にかかわらず、禁止されました。

 ちなみに、鉱業法では、(2011年7月1日に修正・新規挿入された)第9A条でも、特定地域で鉱業法の適用除外とする宣言をすることができることが規定されていますが、大きな違いとしては、第9A条による適用除外の場合、既存の鉱業権には影響しないことが挙げられます。つまり、第9A条に基づく特定地域の適用除外を宣言されたとしても、現在該当地域で鉱業リース権を保有する者は鉱業を継続することができ、探鉱権を保持する者は探鉱権から鉱山リース権への変更を求めることができます。

 

■SA州鉱業法(Mining Act 1971 (SA))における特定地域の法律適用除外

第8条による宣言の場合 第9A条による宣言の場合
 既存の鉱業権に与える影響 影響あり。現在と将来の鉱業権が禁止される 既得権に影響なし
 補償権 不明(州政府は補償の義務はないと主張) (既得権に影響がないので)補償権なし
 宣言前の関係者との協議義務 なし あり

 

(2)第8条の適用

 今般、SA州政府は、第9A条ではなく、第8条を適用したため、既存の鉱業リース権保持者は、実質的に権利を剥奪され、また補償を受ける明確な権利もありません。前述のマラソン社は、「これまでに探鉱事業に1,500万ドルを費やしており、SA州政府に補償を求める」と主張しており、これに対し州政府は補償の義務はないと主張していますが、マラソン社との交渉には同意しています。

 アルカルーラにおける現在および将来の鉱業すべてを禁止するという州政府の意向と目的を考えると、第8条の適用は適切に思われます。一方、第9A条は将来どのような場合に適用されるのかという疑問が残ります。

 ちなみに、第8条は過去において、クーパー・ピディー近郊の歴史的な地下壕型家屋をオパール採鉱活動から保護するなど、小規模な土地を保護する手段として利用された事例がありますが、自然保護のみを目的として、アルカルーラのような大規模区域での鉱業を停止するために適用されたことはありませんでした。

 なお、第8条に基づく宣言は事前協議を要件としていないため、州政府は鉱山業者および先住民団体の双方から協議の欠如を批判されています。

企業法務Q&A

 

4. 特別法案

 SA州首相は特別立法により、今般のアルカルーラにおける鉱業禁止はより強固なものとなるだろうと述べています。これは、将来SA州政府が鉱業解禁を望む場合は行政的に覆される可能性があるため、特別立法で上記の鉱業禁止宣言を補完する必要があるためです。

 

5. 遺産登録

 SA州政府は、アルカルーラが国家遺産と世界遺産の登録を受け、「環境保護および生物多様性法1999(連邦法)」に基づく保護を受けることを望んでいます。

 世界遺産として登録された場合、同地域の世界遺産としての価値に大きな環境上の影響を及ぼす活動(またはその可能性のある活動)を行おうとする場合、連邦法の承認手続きを経なければなりません。

 国家遺産登録による保護は、世界遺産登録による保護ほど広範ではありませんが、国家遺産も世界遺産もいったん登録されると、SA州政府は取り消すことはできません。

※本記事に関する意見・質問は下記まで。
イアン・ウイリアムス Email: ian.williams@blakedawson.com
松浦華子 Email: Ha.Matsuura@mitsui.com

 

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