財産権担保権法(PPSA)上の所有権留保

第29回 財産権担保権法(PPSA)上の所有権留保

ブレーク・ドーソン法律事務所
パートナー弁護士 イアン・ウイリアムス

豪州三井物産
リーガル・カウンセル 松浦華子

Q 私は、豪州にある日系企業の役員です。当社の売買(販売)契約(salescontract)には所有権留保条項が入っており、現地マネジャーに「豪州の担保権に関する法制度が2012年初めに変わるので、登記などが必要になる」と言われました。「所有権留保条項」とは何ですか ? 登記はどのようにするのでしょうか ? 登記をしないと当社の権利はどのような影響を受けますか ?

A 1.「所有権留保(RoT)」による売買とは

 業者間の売買契約においては、売主が買主に弁済能力があると判断する場合は売主が商品を納品した後に買主が代金を支払う「後払い」が一般的です。しかし多くの場合、売主は、例え納品後であっても代金を受領するまでは、商品の所有権を買主に移さず、万が一代金が支払われない場合は商品を回収できるようにしておきたいと考えます。

 このような場合、売主は「支払いが完了するまでは、売主が商品の所有権を留保する」規定(所有権留保条項(Retention of Title clause)(以下「RoT条項」)を売買契約に定めます。

 本稿では、2012年初めに施行予定の財産権担保権法(Personal Property Securities Act 2009(Cth))(以下「PPSA」)において、このようなRoT条項がどのように機能するのか、またその登記の方法とその効果の概要をご説明いたします。
 
 
2. RoT条項付き売買−PPSAでは担保権

 現在(PPSA施行前)、RoT条項は特に「担保権」として扱われてはいませんが、PPSAは担保権の概念を現在よりも広く捉えているため、RoT条項付きの売買は商品を「財産権」の対象とする「担保権」として扱われるようになります。商品(財産権)は、担保が設定されると「担保物件(collateral)」と呼ばれます。

企業法務Q&A

 

3. 担保権−オンライン登記

 PPSA施行後は、このような担保権を(特に第三者に対して)有効にするための方法として、オンライン登記が一般的となります。

 

(1)オンライン登記の方法

 登記は、「PPS Register (www.ppsr.gov.au)」という新しい全国オンライン登記ウェブサイト上で行います。登記の際、以下の情報を入力する必要があります。

・買主(担保権設定者)を特定する名称(会社の場合はACN、ABNなど)
・担保物件の種類(collateral class)

 担保物件の種類としては、物品の場合、(ア)農産物、(イ)航空機、(ウ)自動車、(エ)船舶、(オ)その他物品(other goods)のうちいずれかを指定します。

 さらに、対象商品を包含する範囲の担保物件の詳細(description)を記入することができます。これらの情報は、「financing statement」と呼ばれるオライン上の書面に登記されます。ここで重要なのは、

 

・RoT条項付売買は、売買代金担保権(Purchase Money Security Interest =PMSI)と呼ばれる特別な種類の担保権として扱われ、既存の多くの一般担保権に対して限定的かつ特別の優先権を持つが、この優先権を得るには迅速な登記が必須。
・PPSAの担保権は、適切に登記してあれば(担保物件が売却・譲渡された時の)収益に及ぶことがある。

という点です。

 

(2)登記をしないとどうなる ?

 登記は義務ではありません。したがって、売主(担保権者)は、担保権を登記しなくても(罰金などの)罰則は科せられません。ただ、担保権者としての権利を保護したいのであれば、原則として登記が必要です。

 登記をしないと、以下のような場合に自己の権利を失うリスクがあります。

・買主が倒産した場合 ⇒ 代金が未払であっても、商品に対する所有権を含む全ての権利を喪失する。
・買主が商品を転売・処分した場合 ⇒ その商品に対する権利が消滅する。

 登記にかかる事務作業・費用、商品の対価、買主の弁済能力・信用度などを総合的に鑑みて、登記をしない業者もいるかもしれませんが、上記のリスクを十分に考慮して判断すべきでしょう。
 
 
4. ケース・スタディ−(例)

 例えば、ご質問の日系企業(売主)はスチール・パネルを買主に販売しており、売買契約にはRoT条項が含まれると仮定します。

 RoT条項により、担保権(売買代金担保権(PMSI))が買主(担保権設定者)に対して設定されたことになります。売主は、PPS Registerの画面で、この担保権を、

・<タイミング>買主にパネルを納品する前に、迅速に、
・<担保権設定者>買主の会社名、ACN・ABNなどを記入し、
・<担保物件の種類>パネルが含まれる「その他物品(other goods)」を指定し、
・<担保物件の詳細>“Description”の欄に「steel panels」と記入し、
・<収益>パネルの転売・処分による全収益についての担保権も対抗要件が具備されるよう、「全収益(all proceeds)」を指定し、
・さらに、「PMSI」を指定する

ことによりPMSI担保権として登記しました。その後、

・買主は、代金未払いのパネルの一部を他社に転売しました。
・売主は、買主にスチール・パネルだけでなくプラスチック・パネルも販売するようになりましたが、上記の担保権の登記の変更をしませんでした。
・景気の悪化に伴い、買主は経営難に陥り任意管理(voluntary administration)に入り管財人が任命されました。

売主は、代金未払いのパネルを回収できるでしょうか?

・買主の倉庫に保管されているスチール・パネルについては回収できます。
・転売されたスチール・パネルについては、(登記で「全収益」を指定していることから)その転売の代金を請求できます。
・プラスチック・パネルについては、(“Description”の欄に「steel panels」と記入していることから)回収と転売の代金の請求ができるかどうかは不明です。登記されている「スチール・パネル」でないことを理由に担保権を認めないと主張されるかもしれませんし、一方、担保物件の種類を「その他物品」として広く指定していることから素材は問題ではない、という議論もあり得ます。

 注意が必要なのは、“Description”を特定しすぎてしまうと、商品の変更がある度に登記事項を変更しなければ担保権が適切に保護されないリスクがあることです。

 一方、一切特定しないでおくと、買主の資産に担保権を設定しようとする第三者(別の担保権者)から「何の物品に担保権を設定しているのか」という問い合わせを受ける可能性があります。

 

※本記事に関する意見・質問は下記まで。
イアン・ウイリアムス Email: ian.williams@blakedawson.com
ライオネル・ミーハン Email: lionel.meehan@blakesdawson.com
松浦華子 Email: Ha.Matsuura@mitsui.com

 

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