第31回 豪州企業法務:Tender Offerの手続きとは

教えて! オーストラリアの企業法務

第31回 豪州企業法務:Tender Offerの手続きとは

ベーカー&マッケンジー法律事務所
パートナー弁護士 リチャード・ラスティグ(左)
シニア・アソシエイト リカルド・トリアーノ(中)
シニア・アソシエイト 辻本 哲郎(右)

Q 当社はASX(オーストラリア証券取引所)に上場しているオーストラリア法人の買収を考えています。同社の株式を買い集めるため、当社としては、その全株主に対して株式の買付けの申し込みを行ういわゆる「Takeover bid」の手続きを実施しようと検討していましたが、同社株式の売却を考えている既存の大株主から「Tender offer」の手続きを利用したい旨の提案がありました。「Takeover bid」と「Tender offer」は「公開買付け」の英訳語として似た概念だと認識していましたが、その手続きの相違点などについて教えてください。

A Takeover bidとTender offerという用語は、両方とも日本語の「公開買付け」の英訳語として使用されることがありますが、オーストラリアにおいては法律用語として別の意味を持ちます。詳細は以下で説明いたしますが、Takeover bidでは買収者が対象会社の全株主に対して一斉に買付け提案をするのに対し、Tender offerでは、まず第1段階として買収者が対象会社の大株主との間で株式の買取りについての交渉を行い、当該交渉が成立した場合に、引き続き同条件で全株主を対象とした第2段階目の買付け提案が行われる(当該第2段階目に行われる買付け提案は「Follow-on takeover」と呼ばれます)点に特徴があります。

(1)オーストラリアにおける上場会社の買収

オーストラリアの会社法(Corporations Act 2001)は、上場会社の20%超の議決権を取得することを原則として制限しており、オーストラリアの上場会社の100%買収にあたっては、当該原則の例外に該当するTakeover bidまたはスキーム・オブ・アレンジメントの手続きを利用するのが一般的です。

このうちTakeover bidは、日本の金融商品取引法で規定される「公開買付け」に似た制度であり、買収者が対象会社の全株主に対して、情報開示および株主の公平の観点などから要請される法律上のルールに従い、一斉かつ同条件で株式の買付けを提案する手続きになります。

一方、スキーム・オブ・アレンジメントは、日本における「株式交換」に似た制度であり、買収者が、対象会社による協力の下、株主総会および裁判所の承認を得るなどの法律上の手続きを履践した上で、対象会社の全株式を取得する一種の組織再編行為になります。

両手続きの詳しい説明については本Q&A第15回でも取り上げられているため割愛いたしますが、Takeover bidでは、全株主に株式の買い取りを提案する買収者が一般的に手続きを主導するのに対し、スキーム・オブ・アレンジメントでは、株主総会対応や裁判所への承認申請を含め、対象会社に一定の主導権があります。

これらに対し、Tender offerの手続きは、対象会社の既存株主が売り手として主導的役割を果たすことに大きな特徴があります。

(2)Tender offerとは何か

Tender offerは、ASIC(Australian Securities and Investments Commission)の定めるRegulatory Guide 102に規定される手続きです。

前記の通り、上場会社の20%超の議決権取得は会社法により原則制限されておりますが、買収者が、同社の20%超の議決権を有するVendor Shareholders(以下、「売り手株主」といいます)の求めに応じ、Tender offerの手続きでその保有する持ち株を購入したい旨の申請をASICに対して行い、ASICがこれを承認した場合、買収者は、当該株式取得後に同条件(またはそれ以上の条件)で残りの全株式を対象とするFollow-on takeoverを実施することを条件に、例外的に売り手株主から株式を購入することが可能となります。

(3)Tender offerの手続きの流れ

Tender offerは、Takeover bidという公的なオークションよりも、自ら主導する私的なオークションで、保有株式を売却することを望む売り手株主側から提案されるのが通常であり、以下のような形で手続きが進むこととなります。

①売り手株主による公告および入札

売り手株主がTender offerを利用した持ち株売却を決めた場合、広く当該売却に係る入札についての公告がなされることとなります。その際、買収候補者に対しては、公開または非公開情報の別を問わず、公平な情報提供が行われる必要があります。

一方、買収候補者は、当該情報などを元に買収提案を行いますが、当該買収提案の中で、自らが最終落札者となった際には速やかにTender offerの実施についての承認申請を行う旨を約束する必要があります。

 

②ASICによる承認

ASICはTender offerの実行についての承認権を有しており、取引の実施スケジュール、取引参加者の詳細およびすべての買収候補者からの買収提案内容などを情報として要求することになります。

ASICは当該情報を精査の上、売り手株主による交渉手続きがアームズ・レングスにより行われており、かつマーケットによる厳正な審査を受けたと認められる場合にのみ、最終落札者の申請に応じて、取引の承認(Tender offer relief)を行います。

なお、売り手株主としては、前記①の段階からASICとの調整を開始することとなります。

 

③Follow-on takeover

買収者は、前記②の承認に基づいて売り手株主から株式を購入した場合、引き続き対象会社の残りの全株主に対してFollow-on takeoverを実施しなければなりません。なお、Follow-on takeoverにおける買付け提案においては、売り手株主からの購入価格以上の現金(またはその同等物)を対価とする必要があり、また法が認める最小限の取引実行前提条件しか設定することができません。

(4)Tender offerのメリット

以上のようなTender offerは、売り手株主にとって以下のようなメリットがあります。

・自らの主導の下、入札過程に競争的状況を作り出すことで、自らの保有する株式の価値を最大化することができる。

・Tender offerが確定的に成立した場合、他の買収候補者は当該手続きに係る株式を購入することができなくなるため、買収候補者が自らの考えるベスト・プライスで入札してくることが期待できる。

・単独大株主による売却の場合だけではなく、20%を超える持分の株主グループによる売却の場面でも利用することができる。

・一般的なTakeover bidの成否を待たず、早期に売却対価を取得することができる。一方で、買収者においても、支配株主が自らの買収提案に同意するかどうかについて不確定なままTakeover bidを実施する事態が避けられるという意味でメリットがあります。

(5)結語

上記Tender offerの制度は1995年に導入されたものでしたが、これまでほとんど利用例はなく、昨年MinorInternational社によるOaks Hotels and Resorts社買収の際に、大株主であった同社前CEOの関連会社管財人により使用されたのが実質的に2件目のケースでした。

もっとも、同取引を契機に、当該Tender offerの制度が再び脚光を浴びたことで、当事者としては当該制度が利用され得るものであることを、戦略上考慮しておく必要があります。例えば、前記ケースにおいて、Minor International社は、大株主によるTender offerの提案前の段階で、19.9%までの株式取得およびTakeover bidの実施を公表しており、これらが結果的にMinor International社に戦略上のアドバンテージを生み出したとも考えられますが、仮にその順序が逆であった場合、交渉における力関係が変わっていた可能性もあります。「生きた」法制度として再び認知されることとなったTender offerが、今後、企業買収の場面でどの程度利用されることになるのか注目されるところです。

※本記事に関する意見・質問は下記まで。
リチャード・ラスティグ  Email: Richard.lustig@bakermckenzie.com
リカルド・トリアーノ  Email: Riccardo.troiano@bakermckenzie.com
辻本 哲郎  Email: Tetsuo.tsujimoto@bakermckenzie.com

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