第32回 NSW州におけるパブリック・セクター改革と新たな投資機会

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第32回
NSW州におけるパブリック・セクター改革と新たな投資機会

ベーカー&マッケンジー法律事務所
パートナー弁護士 リチャード・ラスティグ(左)
パートナー弁護士 クリストファー・ヒュース(中)
シニア・アソシエイト 辻本 哲郎(右)

Q NSW州では、昨年3月に労働党から自由党・国民党保守連合への政権交代が起こり、新たな保守連合政権の下で、公的資産の売却、インフラストラクチャー整備などについてのパブリック・セクター改革が推進されていると聞いております。当該改革案の概要および企業として理解しておくべき点について教えてください。

A バリー・オファレル首相率いる保守連合政権は、政権交代後ただちに大規模な改革に踏み切るという方向性を採らず、新政権発足後約1年にわたり、中長期的な視野から詳細かつ統合的な改革戦略案を検討してきました。これらの改革案は現状実行段階へと移行しつつあり、今後日本企業を含む外国企業に対しても、優良資産の取得、インフラストラクチャー事業への参画といった種々の投資機会を生み出すものと見込まれています。

(1)政府改革案の主要な内容

NSW州政府の掲げるパブリック・セクター改革の核になるものの1つとして、インフラストラクチャーへのより効果的な投資および管理を通した州経済の展望強化が挙げられており、政府は、複数のレビュー・プロセスの実施、政策文書の作成および新機関の設置などを通して、同改革を推進しています。

例えば、特別調査委員会(Special Commission of Inquiry)による前「Energy Reform Program」のレビューにおいては、電力分野のさらなる改革の必要性が指摘され、州の保有するすべての発電施設および開発地の売却が提言されました。政府は当該売却手続きを現在推進しており、これらを実施するための法案(Electricity Generator Assets(Authorised Transactions)Bill 2012)も先般議会に提出されております。

また、NSW監査委員会(NSW Commission of Audit)も、今年1月にレビュー結果についての中間報告を発表しており、政府機関の合理化、資産売却の推進、インフラストラクチャーの調達手続きの見直しなどを含めた公共部門の構造・運営改革に係る提言を行いました。これを受けて政府は、調達のルールや仕組みについての見直しを開始しており、民間代表者により組成される「Industry Advisory Groups」を調達手続きへ関与させることも検討されています。

一方で、NSW州政府は、自らの政策を示す「NSW2021計画」を昨年9月に公表しており、同計画では州のインフラストラクチャーの刷新および戦略的な成長産業の基盤作りが重点事項として挙げられております。また、政府は、インフラストラクチャー改革の推進機関として「Infrastructure NSW」を設立しており、同機関は現在、今後20年間にわたる戦略的開発方針を定める「20 year State Infrastructure Strategy」を策定中です。

これらのプロジェクトに要する資金は、連邦および州の財源から拠出されることになりますが、州の財源は主として前記発電施設および開発地の売却を含めた州資産の売却などから賄われること(資金のリサイクル)が予定されており、当該資金調達をサポートするため「Restart NSW」というファンドも設立されております。一方で、政府は、同プロジェクトの実現にあたっては、民間からの多額の資金調達が不可欠であることも表明しています。

なお、そのほかにも、NSW州政府は、鉱業および農業の戦略的かつ調和的な推進を主要政策の1つとして掲げており、同部門への投資促進のためのより良い環境作りを目指すとともに、将来的なエネルギー需要への対応の観点から、州に埋蔵されるコールシーム・ガスの利用も重点的に検討されています。

(2)NSW州政府による資産売却

前記政策に伴い、NSW州政府は既にいくつかの大規模な資産売却を公表しております。 具体的には、「Sydney Ferries」の運営権売却(本年度中に実施される予定)、「Sydney Desalination Plant」のリファイナンス(現在最終入札手続中)およびシドニー・ボタニー港の長期リースによる管理権譲渡(アドバイザーを選任済みで、近々入札手続が開始予定)などの取引が既に進行中です。また、前記の通り、政府発電施設および開発地の売却に関しても、同売却を推進する法案が現在議会に提出されており、近々手続きが開始される見込みとなっています。

これら以外にも、政府は「Cobbora」炭鉱(2015年7月から年間950万トンの石炭産出を予定)の売却を予定しており、また、「Forest NSW」の所有する森林プランテーション資産の売却、「PILLAR」の年金・金融サービス・ビジネスの売却、水力発電会社「Snowy Hydro」の持分売却などについても検討がなされています。

(3)実施される新規プロジェクト

前記資産売却を推し進める一方、NSW州政府は、今後実施予定のインフラストラクチャー事業および重点投資分野について公表を行っています。 具体的には、「North West Rail Link」の鉄道開発(民間業者の選定手続きを開始)、「Sydney International Convention, Exhibition and Entertainment」の施設開発(3つのコンソーシアムによる最終入札手続中)が開始されています。また、そのほかにも、輸送部門に係るプロジェクト(路面電車、電子チケット、車両や駅のリニューアルなど)や、「Airds Bradbury」公共住宅の再開発、種々のPPP(public private partnership)プロジェクトについても検討が進められています。

NSW州政府は、これら政府主導のプロジェクト以外にも、住宅開発や石炭およびコールシーム・ガス開発をはじめとした重点分野において、民間主導のプロジェクトを模索しており、例えば住宅開発の分野においては、シドニーにおける住宅不足解消のため、政府保有のデベロッパーである「Landcom」が、いくつかの区画を解放することも予想されています。

(4)連邦政府および他州との関係

上記NSW州の改革は、連邦政府や他州の動きとも相関的に考える必要があります。

QLD州 やWA州においては、これまでも鉱業の目覚ましい発展とともに数多くのインフラストラクチャーへの投資が実施されてきましたが、QLD州ではつい最近に選挙も行われ、新政権下において「Queensland Rail」の売却や電力施設の民営化、その他道路開発、インフラストラクチャーの整備などといった新プロジェクトが実施される可能性も高いと見込まれています。

一方で、連邦政府は、現在、全国ブロードバンド網計画やクリーン・エネルギー未来計画といった国家的レベルの大規模プロジェクトを推進するとともに、各州および民間との協同によるインフラストラクチャー投資(種々の地域における道路、鉄道、港湾整備などの計14事業に対して合計約85億ドル)についても公表しており、今後これらに多額の資金が投じられることが予定されています。

このような連邦政府および他州の動きの中で、NSW州政府としては、一方で既存の財源などへのアクセスを模索しつつも、他方で自らの資産売却および民間資金の利用などといった他州の動向に左右されない形での資金調達を検討する必要があり、これらさまざまな要素への総合的な配慮の必要性が、新政権発足以来の長期間にわたる入念な改革案の検討および推進機関などの設置に繋がるとともに、民間企業に対するさまざまな投資機会を生み出す誘因となったとも考えられます。

(5)結語

以上の通り、NSW州政府はインフラストラクチャー整備を含めたパブリック・セクター改革を推進していますが、これらは、限られた資金および能力の下で遂行されるものであり、日本企業を始めとした外国の投資家、建設業者、管理業者、アドバイザー、その他事業者の参画は不可欠であると考えられています。

今後数年間にわたり発生することが予測される多数の優良資産およびプロジェクトへの投資機会を的確に捉える上で、政府の政策やその進行状況について十分な理解を得ておくことは、企業にとって非常に重要であると考えられます。

※本記事に関する意見・質問は下記まで。
リチャード・ラスティグ  Email: Richard.lustig@bakermckenzie.com
クリストファー・ヒュース  Email: Christopher.hughes@bakermckenzie.com

辻本 哲郎  Email: Tetsuo.tsujimoto@bakermckenzie.com

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