第37回 ソーシャル・メディアと企業が留意すべき法的問題点

教えて! オーストラリアの企業法務

第37回 ソーシャル・メディアと企業が留意すべき法的問題点

ベーカー&マッケンジー法律事務所
パートナー弁護士 リチャード・ラスティグ(左)
シニア・アソシエイト エリザベス・タイスハースト(中)
シニア・アソシエイト 辻本哲郎(右)

Q 近時、ソーシャル・メディアが急速に普及し、これに関連したトラブルに企業が巻き込まれる例も増加してきています。そこで、このようなソーシャル・メディアを巡る法的トラブルの類型および企業が留意すべき点について教えてください。

A ソーシャル・メディアの急速な広がりとその情報および意見交換の場としての重要性は、近時における最も革新的なトレンドの1つであり、企業にとっても大きなビジネス・チャンスを生むものとなっています。しかしながら、他方で、ソーシャル・メディアを巡っては、企業の行うマーケティング的な活動の部分での著作権や名誉毀損などの問題、ソーシャル・メディアを利用する従業員との関係での労働法上の問題、ソーシャル・メディアを通じて取得される情報との関係での個人情報保護法や秘密漏洩の問題といった、さまざまな法的トラブルが発生しております。

企業としては、これらを積極的にビジネスに利用するかどうかを問わず、自らが晒される可能性がある法的リスクを十分に認識しておくとともに、それらに対する事前の備えをしておくことが重要であると言えます。

1. マーケティング、ブランド・イメージなどに関わるトラブル

2012年6月時点で、フェイスブックの利用者は9億人を超え、また1日のツイッターの「tweet」数も4億件を越えるなど、ソーシャル・メディアは企業にとって有力なマーケティング・ツールとなりつつあります。これらは、新聞、テレビといった伝統的なメディアと比較して、非常に安価かつ双方向のアクセス可能性を有しており、近時、マーケティングや企業イメージの向上に積極的に利用される傾向にあります。

 

(a)企業に対するネガティブ・キャンペーンとその防衛

しかしながら、ソーシャル・メディアは、企業イメージを大きく損なう恐れのあるネガティブな広告活動にも利用され得るツールとなっています。

例えば2010年に、国際環境NGOのグリーンピースは、世界的な食品メーカーのネスレ社が、インドネシアの森林破壊地域から産出されたヤシ油を使用していることを批判する映像をユーチューブに掲載しました。

ネスレ社はユーチューブに対して、著作権違反を理由に、同映像を削除するように求めると同時に、自社のフェイスブックのページに記載された批判的なコメントについてもすべて削除する対応を行いました。同社のこの徹底的な対応は、かえってグリーンピースの活動に対する宣伝的効果を与え、別のインターネット・サイトに転載された同映像には1週間あたり75万件のアクセスがあるなど、同社のイメージに大きな波紋を与えました。

このようなネガティブな広告活動に対しては、これまで法的には著作権法や名誉毀損への該当性などを問題としてきましたが、これらの伝統的な対抗策が上記のような活動に対してどの程度機能するのかについて、関心が高まりつつあります。

 

(b)管理権者としての適法性遵守

企業としては、管理権を有するソーシャル・メディアに掲載された名誉毀損的記述や誤解を招く記述などによって、自らが責任を負わされないよう留意する必要があります。この点、名誉毀損は、ある人や企業に対する一般的な評価を貶めかつ損害を与えるような公表を行った場合に成立いたしますが、オーストラリアにおいては、近時、ソーシャル・メディアにおける記載がこのような名誉毀損として取り上げられるケースが非常に増えており、管理権者としての責任も問われやすい環境にあると言えます。

また、企業は、自らのソーシャル・メディアに掲載される意見や評価などについて、広告コードや消費者保護法に違反しないよう、注意する必要もあります。つまり、企業によるソーシャル・メディアの利用は、テレビや新聞などの伝統的メディアを通した広告と何ら変わるところはなく、自らのサイトに一般人からの記事の投稿や商品の感想などの記載を認めている企業においては、同サイトに記載された内容が、上記関連法令に違反するような記載となっていないよう、監督する義務があります。

 

(c)サイバー・スクワッティングの問題

そのほか、企業がソーシャル・メディアを利用する際によく問題になることとして、いわゆる「サイバー・スクワッティング」の問題があります。

これは、企業がソーシャル・メディアなどを利用しようとする場面で、既に他人が同企業名やブランド名を利用しているという状況をいいますが、これによって企業のブランドや評判が毀損される恐れがあります。

このような「サイバー・スクワッティング」に対しては、サイト運営者に対して使用をやめさせるよう異議申し立てを行うことも可能ですが、当該手続きには時間を要することとなります。このため、企業としては、主要なソーシャル・メディアにおいて、企業やブランド名を他人に使用されることを防止すべく、速やかに企業名やブランド名を登録することが適切であると言えます。

2. 従業員とのトラブル

従業員によるソーシャル・メディアの利用は、雇用者に対して新たな問題を提起することとなりました。実際の裁判の場でも、ソーシャル・メディアへの否定的意見の掲載が解雇事由になるのかといった問題が多く取り上げられるようになりました。

雇用関係は、原則として「out of work conduct」(業務外の活動)により影響されないとされていますが、当該業務外の活動が事業場との関連性を持つ場合には、それが懲戒や解雇の合理的理由となる可能性もあります。

例えば、業務時間外にフェイスブックに記事を投稿した場合でも、当該投稿者がほかの従業員を「友達」として登録していた場合であり、かつ当該投稿の内容が事業場と関連する事項である場合、当該記載は事業場と十分な関連性があると言い得ます。

実際の例としても、大手電器製品小売のザ・グッド・ガイズ社の従業員がフェイスブック上に雇用者を罵倒するような記載をした事例では、フェア・ワーク・オーストラリアによる労働審判において、解雇に合理的理由があると判断されています。ただし一方で、当該コメントが雇用者を特定していない場合や、業務に損害を与える可能性が全くないような場合には、懲戒や解雇が認められないこともあります。

また、フェイスブックの記載などから、不当なシック・リーブの取得や労働安全衛生法違反などが判明し、その結果従業員が解雇されるという事態も実際に発生しています。企業としては、従業員に対してソーシャル・メディアの利用に関する注意喚起を行うとともに、従業員が当該利用にあたって従うべき行動準則を定めることも必要と言えます。

3. 情報管理に係るトラブル

前回の記事(本Q&A第36回)ではプライバシー法に基づく個人情報の取り扱いに係る規制概要を取り上げましたが、企業がソーシャル・メディアを利用する場合、同サイトを通じて個人情報を取得するケースもあります。

多くの企業は、個人情報をどのような目的で利用するのかなどについてのプライバシー・ポリシーをサイト上に掲載するなどしておりますが、このような対応を含めて、取得した個人情報については、ほかの個人情報と同様、プライバシー法に基づくルールに従って取り扱わなければなりません。

また、例えば、従業員が自らが関わっている業務についての情報をソーシャル・メディアに掲載してしまった結果、雇用主の機密情報がリークしてしまうようなリスクも増加しています。これらは、秘密保持契約の違反のみならず、関連法令(例えば証券取引法など)の違反に繋がる可能性もあり、企業としては、この種のリスクを防止するため、機密情報を取り扱う従業員に対して特別なトレーニングを行うなどの対応を考える必要があります。


※本記事に関する意見・質問は下記まで。
リチャード・ラスティグ   Email: Richard.lustig@bakermckenzie.com
エリザベス・タイスハースト Email: Elizabeth.ticehurst@bakermckenzie.com
辻本哲郎       Email: Tetsuo.tsujimoto@bakermckenzie.com  

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