第41回 オーストラリア国内商事仲裁法の改正務

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第41回 オーストラリア国内商事仲裁法の改正務

ベーカー&マッケンジー法律事務所
パートナー弁護士 リチャード・ラスティグ(左)
シニア・アソシエイト エリザベス・タイスハースト(中)
シニア・アソシエイト 辻本哲郎(右)

Q 契約書の交渉などを行っていると、同取引に関連した争いが発生した場合の紛争解決方法として、裁判ではなく「仲裁による」とされていることがよくありますが、実際にオーストラリアにおいて仲裁制度はどの程度利用されているのでしょうか。仲裁手続とはどのようなものであるのか、またそれを利用するメリットはどのような点にあるのかについても併せて教えてください。

A 仲裁とはいわゆる裁判外紛争解決手続(Alternative Dispute Resolution。以下「ADR」)の一種であり、訴訟手続と比較した場合、一般的には紛争を低コストで、柔軟に、迅速に解決できるというメリットがあると考えられています。しかしながら、従前のオーストラリアにおける国内商事仲裁は、訴訟手続と比較した場合、手続的負担の側面からそれほど大きな利便性がなく、必ずしも使い勝手の良い制度ではありませんでした。現在、仲裁制度が本来有するメリットを強化すべく、国内商事仲裁法をより利便性の高い統一的内容とするための法改正が各州および地域で進められています。当該法制度の移行に伴い、オーストラリア国内における商事仲裁制度の活用がより促進されることが期待されています。

1. 仲裁とは

何らかの法的な争い事が生じた場合、各当事者は当該紛争解決に係る判断を得るため、裁判所に訴訟提起することが可能ですが、仲裁はこれに代替するものとして、当事者の合意の下、公平な第三者である仲裁員(Adjudicator)に紛争解決に係る判断を委ね、当該仲裁員により下される決定(「Award」と呼ばれます)に当事者が拘束されることで、訴訟手続外で紛争を解決しようとする手続きになります。

このような仲裁手続を当事者が利用するインセンティブとしては、低コスト、手続きの柔軟性、迅速性といった訴訟と比較した場合における仲裁のメリットにあると一般的に考えられています。

なお、類似のA DR制度として調停(Conciliation / Mediation)という手続きもありますが、調停では紛争解決に向けた協議の中で提案される解決案に両当事者が合意しない限りその結果に当事者が拘束されることはなく、その点で仲裁員の判断に絶対的に拘束される仲裁とは異なることとなります。

2. オーストラリアにおける仲裁

しかしながら、従前のオーストラリア国内における仲裁制度は、訴訟と同程度の時間、手続的負担およびコストを要するものになっており、必ずしも使い勝手の良いものではありませんでした。また、その手続きを規律する法的枠組みについても、25年以上前に起草されたものであり、現代の紛争解決における要請からは、時代遅れでありかつ非効率な制度となっていました。さらに、多くの仲裁実務家が過度に手続的側面を強調した結果、仲裁手続が裁判手続の模倣のような形となり、各州および地域間での取扱いに差異が生じ、各裁判所が独自の法体系を発展させてしまうなど、混乱や不明瞭性を生むような状況になっていました。

当該状況を改善するため、2010年5月に司法長官常任委員会(Standing Committee of Attorneys-General)は、国内における商事仲裁制度に関し、均一性、自立性、効率性、経済合理性を有する統一的法制を再構築する方針を打ち出しました。その結果、オーストラリア全域において、統一国内商事仲裁法を導入する手続きが、現在進められています。

3. 改正手続きの現状

上記統一国内商事仲裁法の導入に向けた各州および地域の法改正の現状は以下の通りとなっています。

州/地域 法令の名称 現状
NSW州 Commercial Arbitration Act 2010 法案可決
2010年1月1日より施行
VIC州 Commercial Arbitration Act 2011 法案可決
2012年11月7日より施行
北部準州 Commercial Arbitration (National Uniform Legislation) Act 2011 法案可決
2012年8月1日より施行
SA州 Commercial Arbitration Act 2011 法案可決
2012年1月1日より施行
TAS州 Commercial Arbitration Act 2011 法案可決(2011年10月16日)
未施行
WA州 Commercial Arbitration Act 2012 法案可決(2012年8月29日)
未施行
QLD州 Commercial Arbitration Bill 2012 議会に法案提出(2012年10月30日)
オーストラリア
首都特別地域
該当なし 法案未提出

4. 法改正の内容

新たな国内商事仲裁法は、国際連合国際商取引法委員会(UNCITRAL)の定める国際商事仲裁モデル法(Model Law on International Commercial Arbitration)を元に作成されています。同法は本来的には国際仲裁を主目的として作成されたものですが、法起草者も当該模範法が国内法として利用し得るものであることを認めており、実際にも当該モデル法を導入した80の国のうち37の国において、国内法改正が行われています(なお、オーストラリアの国際商事仲裁法は、既に当該モデル法を元にした内容となっています)。 

前記国内商事仲裁法の改正により、国内商事仲裁を利用する当事者としては、以下のことが期待できるようになりました。

柔軟性:当事者間において仲裁人が従わなければならない紛争解決ルールを予め決定することができ、効率的かつ安価な仲裁手続を実現することが可能となった。

 

絶対性:裁判所は、当事者間での仲裁手続利用に係る合意が無効又は実行不能なものでない限り、当事者に仲裁手続を利用させなければならない(改正前においては裁判所に一定の裁量があった)。

 

効率性:仲裁人には、手続きの遅延や濫用防止に係るより強力な権限が与えられ、当事者に効率的運営を強制できる権限が与えられることとなった。

 

秘密性:当事者間で仲裁合意がある場合、秘密保持合意も黙示的になされたものとみなされ、秘密が厳守される。

 

終局性:仲裁手続により下された判断は当事者間において最終的かつ拘束的なものであり、法適用の明白な誤り(manifest error of law)を根拠に再審査を求めることができなくなるなど、仲裁判断を裁判手続にて覆す余地がほとんどなくなった。

5. 今後の留意点

上記法改正が実際に有効に機能するかどうかについては、今後の進展を見守る必要がありますが、少なくとも法律専門家からは、上記に記載したような国内商事仲裁法の改正がなされることにより、訴訟代替手段であるADRとしての仲裁の本来のコンセプトが復権されるであろうとの好意的な見方がなされており、今後仲裁制度の利用が促進される可能性があります。 

オーストラリアにおいてビジネスを行う企業としても、上記法改正に伴い、仲裁手続の積極的活用を検討することが考えられます。


※本記事に関する意見・質問は下記まで。
リチャード・ラスティグ   Email: Richard.lustig@bakermckenzie.com
エリザベス・タイスハースト Email: Elizabeth.ticehurst@bakermckenzie.com
辻本哲郎       Email: Tetsuo.tsujimoto@bakermckenzie.com  

 

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