上司の怒鳴りはパワハラとして賠償金を請求できますか?

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法律

Q

最近、職場で、上司から、何度も皆の前で仕事上の些細な間違いを指摘され、大声で叱咤(しった)されました。これはパワハラだと思うのですが、止めさせることは可能でしょうか? また、賠償金を請求できますか?(24歳男性=会社員)

A

パワー・ハラスメント、略して“パワハラ”は、実は和製英語であり、オーストラリアではこの代わりに“Workplace Bullying”という表現が使われます。労働法(Fair Work, Act)によると、Workplace Bullyingとは、「(a)職場にて、労働する者に対し、繰り返される不当な言動で、かつ(b)その者の健康・安全に対するリスクとなり得るもの」と定義されています。

ここでいう“不当な言動”とは、脅迫、強要、嫌がらせ、怒鳴る、皮肉、恐怖を与える、悪意ある悪ふざけ、物理的攻撃、言葉による攻撃、感情的攻撃、ハラスメント、無視、悪い噂を流す、差別など、大変広範囲にわたるものとされます。しかし上記の例外として、労働法第789FD条第2項によると「(上司の部下に対する)“妥当な管理上の行為”は、Workplace Bullyingには当たらない」とされています。つまり、例えば上司が、仕事上のミスを犯した部下に対し厳しく注意をした場合であっても、それが妥当であると判断できる場合には、Workplace Bullyingには当たらない、ということです。

また、Workplace Bullyingは「不当な言動が“繰り返される”場合」と定義されていることから、例えば上司に怒鳴られた場合、それが妥当な管理上の行為と見なされなくとも、繰り返し行われなければ、該当しません(ただし、従業員がPTSDなどの大きな精神的ダメージを負うような上司による言動があった場合には、それが例外的であったとしても、労働法以外の法律により、加害者は責任を問われる可能性がありますので注意が必要です)。つまりその上司の言動がWorkplace Bullyingに当たるか否かは、その妥当性、度合い、頻度などの状況により判断されます。

もし相談者がWorkplace Bullyingの被害に遭っていると思うのであれば、まずは職場の然るべき人に相談することをお勧めします。雇用者は職場における従業員の安全を守る義務を負っていますので、従業員によるWorkplace Bullyingの相談は無視できません。

もしも話し合いにより問題が解決できないようであれば、相談者は「Fair Work Commission(労働審判所)」に申し立てを行うことができます。Fair Work Commissionは、まずWorkplace Bullyingがあったのかを判断し、もしあった場合には、今後Workplace Bullyingが起きないよう、再発防止のための命令を出すことができます。ただし、賠償金や慰謝料といった金銭の支払い命令を出すことはできません。なお、従業員がWorkplace Bullyingの申し立てをFair Work Commissionで行ったという理由をもって、その従業員を解雇することはできません。

Workplace Bullyingを理由に賠償金などを請求する場合には、Fair Work Commissionではなく、一般的な裁判所において裁判を起こす必要があります。その場合、上述のように、その結果PTSDなどの「実質的な被害を被った」ということと、それをもたらした上司の言動が不法行為にあたるものだということを立証しなくてはなりません。またその場合の被告は、その上司と、代位責任を負う雇用主である会社になります。

*オーストラリアで生活していて、不思議に思ったこと、日本と勝手が違って分からないこと、困っていることなどがありましたら、当コーナーで専門家に相談してみましょう。質問は、相談者の性別・年齢・職業を明記した上で、Eメール(npeditor@nichigo.com.au)、ファクス(02-9211-1722)、または郵送で「日豪プレス編集部・何でも相談係」までお送りください。お寄せ頂いたご相談は、紙面に掲載させて頂く場合があります。個別にご返答はいたしませんので、ご了承ください。


林 由紀夫(はやし ゆきお)
H&H Lawyers

横浜市出身。1972年来豪。78年ニュー・サウス・ウェールズ大学法学部卒(法学士、法理学士)。79年弁護士資格取得。同年ベーカー&マッケンジー法律事務所入所。80年フリーヒル・ホリングデール&ページ法律事務所入所。84年パートナーに昇格。オーストラリアでの日系企業の事業活動に関し、商法の分野でのさまざまなアドバイスを手掛ける

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