オーストラリア資源セクターにおけるM&A実績と展望

税務&会計Review

税務&会計 REVIEW
アーンスト・アンド・ヤング パートナー
/日系ビジネス・サービス・ナショナル・ディレクター:菊井 隆正

オーストラリア資源セクターにおけるM&A実績と展望

2010年は、オーストラリアの鉱業・金属セクターにとって好調な年となりました。オーストラリア経済はコモディティー主導型であり、新興市場、特に中国とインドに密接に結びついています。好調なオーストラリア経済、コモディティー価格の回復、堅調な企業業績、世界金融危機による資本再構成後の負債削減が相まって合併・買収(M&A)活動は力強く回復し、過去10年来最高の水準に達しました。

 


オーストラリアM&A実績概要 


昨年、オーストラリア市場、およびオーストラリアに本社を置く企業による取引の合計が293件となり(インバウンド87件、国内間150件、アウトバウンド56件)、その取引総額は前年比121%増の235億ドル(=米ドル、以下同)に上りました。買収金額による国別ランキングでは、オーストラリアは2009年の15位から2位へと躍進しました。昨年は、石炭と鉄鉱石の価格が大幅に上昇し、金の価格も記録的な水準で上がり続けたこともあり、世界金融危機後、予断のならない環境であったにもかかわらず、コモディティー価格の力強さと資本再構成とが相まって、多くの企業は買収による成長を追及するだけの資金力を得ました。

こうした成長の可能性にもかかわらず、鉱業界に対する増税の脅威と昨年半ばに長引いた総選挙により、国内外投資家のオーストラリアの鉱業・金属セクターに対する信頼感が弱まりました。増税をめぐる不透明感から、多くのプロジェクトが見送られただけでなく、安定した魅力的な投資先としてのオーストラリアの評価も揺らぎ、昨年半ばにはM&A活動は一次停止状態となりました。投資先としてのオーストラリアの相対的な魅力が問われたのです。しかし、選挙をめぐる不確実性と新たな鉱業税の脅威が衰えたことから、第4四半期には市場に興味が戻り、取引の流れも回復しました。年末までには望ましいM&A投資先としてカナダと米国に次いで第3位の地位を取り戻しています。

 

Number and value of Australian transactions (2000 – 2010)

Number Growth Value ($m)* Growth
2000 55 8,056
2001 68 24% 21,210 163%
2002 72 6% 11,908 -44%
2003 128 78% 6,524 -45%
2004 206 61% 2,779 -57%
2005 188 -9% 11,427 -311%
2006 185 -2% 6,552 -43%
2007 316 71% 14,416 120%
2008 239 -24% 16,566 15%
2009 267 12% 10,625 -36%
2010 293 10% 23,469 121%

* Transactions completed by Australian companies or by companies transacting in Australia

最も増加が目立ったのはアウトバウンド買収で、総額は8,500万ドルから128億ドルに増加しました。このうち最大の取引は、Newcrest Miningによる、パプア・ ニューギニアに本社を置くLihir Goldの90億ドルの買収でした。これは2010年最大の取引であり、同社は世界第4位の規模の金鉱会社となりました。そのほかの目立ったアウトバウンド取引としては、サウジアラビア最大の銅鉱床を開発中のオーストラリア銅鉱会社Citadel Resourcesへ のEguinox Mineralの12億ドルの投資や、One SteelによるAnglo AmericanのAlta SteelとMoly-cop同時買収による、総額9億3,200万ドルの投資が挙げられます。

インバウンド取引は、2009年と比較すると若干減少し、中国が率先するのではなく、広範な投資家層によって行われました。2009年には、中国がオーストラリアのインバウンド取引の3分の2を占めていましたが、ブラジルやアフリカなどの新しい地域に関心を移したことから、2010年には中国が占める割合はわずか11%に下落しています。この下落は、オーストラリアにおける昨年半ばの不透明感の影響であるとともに、より大きな収益機会が認められる新興市場への全般的なシフトを反映したものでもあります。2010年には、インド、タイ、韓国、日本など、資源確保を目指す国々がオーストラリアに投資しました。インドの投資家による対オーストラリア投資は、インド企業によるものとしては過去最大規模となりました。インドは急速な経済成長・都市化推進計画を進めるための資源を探し求めており、この展開は今後さらに投資が増加する基盤となると思われます。

 


開発初期段階への投資


昨年、開発初期段階の投資機会への関心が高まりました。この動きは特にはオーストラリアの石炭資源分野で顕著に現れ、各社がインフラ開発の専門知識や経験といった競争上の優位性を活用して、生産前の炭鉱関連案件で優位に立とうとしました。インドの企業Adani Miningは、Line Energyのガリリー盆地の採炭権を27億ドルで買収しました。埋蔵量がまだ不明であり、プロジェクトが最寄りの港から600キロも離れており、生産開始までにまだ3~4年かかると思われることから、インフラ開発におけるAdaniの堅固な実績と、鉄道・港湾といった必要施設の資金提供の約束が、買収成功の鍵となりました。もう1件、石炭の大規模なインバウンド取引では、タイに本社を置く一般炭採掘および発電所運営企業Banpuが、オーストラリアの一般炭採掘企業大手、Centennial Coalを20億ドルで買収しました。この取引でBanpuはNSW州の10カ所の炭鉱の所有権を得て、生産増強と電力輸出市場への取り組みの強化を計画しています。

 


資源ナショナリズムの台頭


最終的には実現しなかった取引もいくつかありましたが、その中でも最も注目すべき取引は、BHP Billitonの全額借り入れによるPotash Corpの買収計画といえます。不成功に終わった理由には、市場を一変させるような大規模な取引実行に伴う困難さが挙げられます。こうした問題には、超過利潤税の提唱や、その後取って代わった新資源税、及び規制監督の形で現れた資源ナショナリズムの高まりが含まれます。規制監督によってピルバラにおけるRio TintoとBHP Billitonの鉄鉱石事業の生産合弁事業計画が頓挫しました。

 


今後の見通し


オーストラリアの鉱業・金属セクターにおけるM&A活動は、2011年に一層活発化すると思われます。オーストラリアの中小企業の多くにとって、2010年は統合の年であり、ファンダメンタルズやバランス・シートが改善した一方、取引に対するアプローチはやや慎重になりました。2011年は、積極的な資本運用を求めようとする圧力が、過度に慎重な態度に勝ることが予想されます。資源ナショナリズムや適度な規模の投資機会の不在が大企業には制約となりますが、中堅企業を中心に、ある程度再編成が起きることが考えられます。財務の健全性が高まり、国内外の環境の透明感が高まる中、企業は再び成長機会の拡大を求めるようになるでしょう。今後、M&A活動は大いに高ま ろうとしています。Rio Tintoによる35億 ドルのRiversdale Resources買収や、米国 のAnatolia Minerals DevelopmentとオーストラリアのAvoca Resourcesの10億ドルの合併など、数々の取引が計画されていることがこれを証明しています。香港証券取引所がアジアの資源セクターの主要な資金提供者として台頭しつつあり、ASXとシンガポール証券取引所を合わせると、資源セクターにおける流動性が高まっています。2011年には、アジア地域でオーストラリア企業が利用できる資本が増加し始めると思われます。2011年以降には、インフラや熟練労働者、生産能力の制約といった問題が、再び資源セクターに圧力を生じるでしょう。将来的には、これらの問題を解決できる投資家が重要な役割を果たすことになり、Adaniの取引など、投資家がサプライチェーン全体のソリューションをもたらすような取引が増えると予想されます。


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