なぜ今、ジェンダー・ダイバーシティーの取り組みを見直す必要があるのか?

BUSINESS REVIEW

会計監査や税務だけでなくコンサルティングなどのプロフェッショナル・サービスを世界で提供する4大会計事務所の1つ、EYから気になるトピックをご紹介します。

なぜ今、ジェンダー・ダイバーシティーの取り組みを見直す必要があるのか?

 女性の管理職登用比率が高まる一方で「ダイバーシティー疲れ」が広がり、数値目標を引き下げる政府も出てきています。例えば、日本政府は「2020年度までに指導的地位に占める女性の割合を30%にする」という目標を取り下げました。格差是正のために努力をするふりをし、体裁だけを整えていた状況を打破し、ダイバーシティーの効果を最大限に引き出すにはどうすればいいでしょうか?

 「ダイバーシティー疲れ」が広がっています。世界経済フォーラムは男女格差の完全解消までに99.5年かかると予測しています。日本政府は、この17年間で大した進展のないまま、2020年までに女性幹部の比率を30%にするという数値目標、いわゆる「2030(にいまる・さんまる)」をひっそりと取り下げました。

 一方で良いニュースもあります。世界を見ると2021年には、大手半導体製造企業やソーシャル・メディア・プラットフォームなどの著名な企業で女性CEOが増えています。日本においては、コーポレート・ガバナンス改革によってTOPIX 100の企業で取締役会に占める女性取締役の比率が高まり、過去5年間でほぼ2倍の12.9%になりました。そのため、「もう十分ではないか?」「既に目標は達成したのではないか?」という不満の声も聞こえてきます。

 けれど、答えは「ノー」です。今こそダイバーシティーへの取り組みを強化すべき時です。知識中心の脱工業化した資本主義の時代にこそダイバーシティーの効果が最大限に発揮されます。しかし、「ダイバーシティー疲れ」という一時的な問題を乗り越えるには、体裁主義から現実主義に迅速に移行する必要があります。

なぜ女性リーダー3割が目標なのか?

 一見した平等は誤解を招くこともあります。企業の世界では女性CEOの登用は女性進出のシンボルとして取りざたされるものですが、それだけではダイバーシティーの効果を実際のパフォーマンスに影響させる大きな要因にはなり得ません。

 実際のところ、ピーターソン国際経済研究所とEYによる調査では、社内の他の部門でジェンダー・バランスが取れている場合と比較すると、CEOの性別だけでは企業の収益性に大きな影響がないことが示されています。

 最も効果があるのは企業全体のKPI(重要業績評価指標)に関連するもので、まず女性幹部の割合、そして女性取締役の割合がそれに続きます。

 経営陣のダイバーシティー水準と業績の間には強力な相関関係があり、この相関関係は随所で見られます。同じ調査では、リーダーの30%が女性である高収益企業は、女性リーダーのいない同様の会社と比較すると収益性が15%高まると分析されています。

 30%という目標は「30% Club」などのダイバーシティー推進の代表的な組織によって採用されており、論理的根拠があります。マイノリティーのグループに属する人が自分の意見を安心して述べることができる水準なのです。

 日本企業の典型的な取締役の数は10人ですので、この数字を例とします。取締役の女性が1人の場合、人口の半分を占める女性を代弁するという無言のプレッシャーを受けていますが、孤立無援です。取締役2人が女性の場合、お互いに張り合うよう仕向けられるリスクがあります。よって10人のうち3人以上である30%という目標が達成されると、女性の声は個人として取り上げられるようになり、ジェンダーという要因は穏やかかつ間接的に女性の意見に影響するに留まります。

 複合的な因果関係によって、リーダーシップ・チームにおけるダイバーシティーは企業の業績向上につながっています。まず、企業に女性の目があると、異なるジェンダーのデータが足りない結果から生じる、明らかな間違いを犯すのを防ぐことができます。

 例えば、ある企業では車の音声認識ソフトが女性の声に反応せず、設定をし直す必要に迫られました。

 なぜこのようなことが起きたのでしょうか? それは男性のみのエンジニア・チームが、男性のみの幹部とソフトの設計やデモを実施したためです。このような例はどこの企業にでもあり、追加的なコストになるばかりではなく、収益を取り逃すことにもなります。

ダイバーシティーとイノベーション

 ダイバーシティーがイノベーションを促すということがさまざまな調査によって示されています。コロンビア大学の研究では、戦略的にイノベーションに注力している企業ほど、経営陣に占める女性の割合によって業績が向上していることが統計的に証明されています。ダイバーシティーは明らかに、イノベーションを抑制する集団浅慮(グループシンク)の罠を遠ざけるものなのです。

 今日、ダイバーシティーとイノベーションの関連性を強調し過ぎることはないでしょう。デジタル・オートメーションによって労働市場は変化し、画一的で勤勉な労働者が型通りの仕事をこなすことが競争の源泉ではなくなりました。代わって、AIアナリティクスに支えられた人間の創造性が競争力を作り上げるのです。この脱工業化した世界において、ダイバーシティーが差別化のカギとなります。

ジェンダー・ダイバーシティーへの障壁とは?

 一人よがりのダイバーシティーを乗り越えるための道筋は明らかです。今までの体裁主義を打破する必要があります。リーダーシップにおける女性の割合を30%にするには、全ての階層において注意深い計画が必要となります。しかし、EYが実施した2015年の「Women Fast Forward Cross-Sector Survey」では、女性をリーダーとして特定し育てていくための体系的で正式なプログラムがあると回答したのは調査対象企業の18%に留まりました。「ダイバーシティー疲れ」は結果を伴わない組織の努力によっても引き起こされています。男性偏重によってダイバーシティーの取り組みの優先付けがあいまいになることを認識することが重要になります。例えば、EYによる前述の調査では、ダイバーシティー目標達成への障壁として考えるものが男女間で大きく異なっていることが明らかになりました。男性の半数近くがダイバーシティーの主な障壁として、子育てとの両立や女性人材の不足を挙げました。一方で、女性はサポート体制のない文化や組織の偏見を上位に挙げています。女性人材の不足を障壁として挙げたのは男性が43%だったのに対し、女性は7%に留まりました。

 女性人材の不足が大きな障壁となっている可能性は低く、むしろ目標達成に必要な取り組みを行うことが課題なのです。オフィス内の保育所への投資は母親に優しい考えの1つですが、女性がより恩恵を受けるのはシニア・リーダーから助言を受けることかもしれません。これは、当社の調査でダイバーシティーを推進するものとして女性が上位に挙げたものであり、男性では最下位でした。

まとめ

 ダイバーシティーの効果は実証されています。この脱工業化の時代において、今まで以上にダイバーシティーを活用していく必要があります。しかしそのためには、一見した平等に惑わされていないか、適切な取り組みに投資しているのか、といった点を自分自身に問い直す必要があります。同記事は小林暢子(EYパルテノン・パートナー//マネジング・ディレクター)が執筆した「Why gender diversity initiatives need a reboot」を翻訳したものです。

解説者

EYジャパン・ビジネス・サービス

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会計監査、税務に関するサービスに留まらず、海外進出支援、M&Aサポート、業務改善アドバイザリーなど、クライアントのさまざまな課題に対し、総合的なサービスを提供している
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