鉱業・金属工業におけるM&A合併、買収、増資  2011年の傾向、2012年の展望

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アーンスト・アンド・ヤング パートナー
/ジャパン・ビジネス・サービス 菊井隆正
 

鉱業・金属工業におけるM&A合併、買収、増資
2011年の傾向、2012年の展望

 

─ボラティリティーの中、価値を生み出す─

 

2011年の下半期の終わりまで、鉱業・金属工業セクターは、不確かなグローバル経済という困難を無事に乗り切り、財務的に強くなり、成長の姿勢を見せました。バランス・シートが健全化され、多くの企業は資本の最良な活用方法という、難しいけれども前向きな課題に直面しました。買うべきか、造るべきか、または配当として投資家に還元するか、という選択です。

今月号は、鉱業・金属工業セクターにおけるM&Aと増資の傾向と展望について解説します。

 


財務の健全化


企業収益率の向上、保有現金の増加が後押しし、2010年と比較して11年の商品相場は上向きでした。現金と活発な社債市場が資源メジャーにとって主要な資金調達源でした。結果として、11年の株式発行による資金調達は、中小企業のウエイトが大きくなりました。この傾向は12年も続くものと予想されます。

11年の下半期は、株式市場の混乱が激しさを増し、結果として代替の資金調達源が現れました。この傾向は12年も続く見込みで、戦略的な権益やオフテイクと引き換えに、プライベート・ウェルス、メジャー企業、国営企業、政府系ファンドなどから幅広い融資オプションが提供されています。

11年は債券市場がさらに開けたことで資金が利用しやすくなり、資源メジャーと中堅の両方の成長に対する意欲が増しました。債券発行による調達額は840億ドル(前年比16%増)に達しました。11年の上半期は高利回り債券の発行が中心でしたが、下半期はその発行件数が縮小しました。これは、欧州および米国で公的債務問題が引き続き未解決のままであったためです。反対に、高い格付けの債権発行に対する投資家の需要は11年を通して上昇傾向にあり、投資格付けを維持することの重要性を強調しました。

11年、融資額はかろうじて2%増加しました。企業の借り入れ、または借り換えは1,870億ドルに達しましたが、これは主に既存の債務と比較して好ましいレートを確保し、資金調達面での敏捷性を上げる目的で融資期間を延長するためでした。

融資額が増える一方で、メジャーおよび中堅企業のギアリングは空前の低さを記録しています。世界的な景気が弱まったとしても、12年にメジャーによる大規模な株式発行の可能性は低いと予想されます。

 


M&A─取引金額は増加、件数は低迷


通常、企業の財務体質が健全になるとM&Aに適した環境になりますが、取引金額の合計が前年比43%増加の1,624億ドルだったのに対して、件数は10%減少の1,008件になりました。これは小規模企業による取引の評価、融資、実行の難しさを強調しています。11年はオペレーション・コストの削減と同時に成長を達成することが目的の戦略的M&Aが中心で、理にかなった、リスクの少ない取引が優先されました。その結果、慣れた環境で相乗効果が確実に実現できる国内の大規模な整理統合が増加しました。こうした取引は、より少ないリスクで成長を実現し、市場に関する既存の知識を活用できるメリットがあります。

11年のもう1つの重要なトレンドは、低価格でロング・ライフの鉱物資源の激しい奪い合いでした。大企業は資源のパイプラインを管理する目的で小規模の探査会社を買収したり、そのような会社に戦略的投資を行ったりしました。金額面では、米国、カナダ、オーストラリアなど、鉱業先進国によるM&Aが多数を占めました。加えて、アフリカ、南米、アジアをはじめとする新興と辺境の採鉱地域が引き続き重要性を増しています。中国の鉱業・金属工業企業など、一部の企業において、このような地域に対する投資はオフテイク契約、またはその地域に資産を持つASXまたはTSX上場会社の少数権益を取得する形を取ります。

インドに拠点を持つ多数の鉱業・金属工業企業は、成長を確保し、ほかに依存しないグローバル・プレーヤーになるために、完全買収の形態を取っています。

取引額では、11年に最も標的にされた商品は石炭で、その金額は414億ドル(前年比2.3倍)となりました。この動きは主に大規模な石炭生産者が生産能力の拡大を推したためであり、また、原材料の供給確保、ボラティリティーを抑制する目的で、電力会社、水道会社、製鉄会社が垂直統合を行った結果でした。こうした動きは、気候変動政策および規制の台頭にかかわらず、既存の鉱山が採鉱される間は石炭に対する信頼性が維持されることを、明示しています。件数の面では、金が最も標的にされた商品で、385件の契約が締結されました。推進要因は、生産量とリソースを増加する目的で行われた中堅鉱業企業と小規模探査企業の合併で、金を扱う世界の主要な企業が合併しました。

 


経済ボラティリティーと資源ナショナリズムが、M&Aに対する意欲を抑制


11年には大規模な取引が締結されましたが、マクロ経済問題と資源ナショナリズムが投資決定をより難しくし、11年のM&Aの取引件数は前年より減少しました。

11年の下半期は、米国の信用格付け引き下げ、ユーロ圏の債務危機、中国の成長率下降が株式市場を劇的に変動させ、多くの企業はM&Aに対して慎重になりました。

しかしながら、このセクターの基盤が強固であり、中国とほかのBRIC(ブラジル、ロシア、インド、中国)の成長が金属と鉱物に対する需要を促す限り、このような状態は長続きしないと予想されます。

株式市場はマクロ経済動向にますます敏感になっています。多くの企業にとって、市場価格は地面の下に眠っている価値に相関するようには見えず、M&Aの実効性に影響を与えています。よって、十分なデューデリジェンスを行って売り手、買い手両側の経営陣に安心を与えることの重要性が増しています。

先進国、新興国、辺境国で資源ナショナリズムが拡大したことは、経営者にとって大きな懸念事項であり、M&A投資決断を不確実なものとしています。政府が資源ナショナリズムを助長する政策の議論を長引かせたり、こうした変更を非効率に導入した場合、最大で拡張性のある低コストの投資以外の投資を、遅らせたり妨げる結果となります。

 


展望─バランスを取ることと、資金調達オプションの拡大


12年は、強固な需要基盤、健全なバランス・シート、そして成長に対する意欲が、世界の鉱業・金属工業セクターのM&Aを促進するでしょう。先行き不透明感とボラティリティーは12年も続くでしょうが、成長に対する意欲があるため、成長計画の引き延ばしはますます少なくなっています。12年はボラティリティーに対応できる企業が交渉者となり、買いチャンスが到来することでしょう。

11年の資金調達の焦点は積極的な再レバレッジではなく、賢い借り換えでした。企業は強い格付けと将来の買収のための借入能力を持ちました。

企業は12年も引き続き債券市場を開拓し、また政府系ファンド、プライベート・ウェルス、オフテイク契約などのオプションを利用した戦略的提携など、代替の資金調達源の利用がさらに増えるものと予想されます。

取引に対する準備が次第に整ってきており、短期的には大きな取引の資金は銀行からの融資のみによる調達ではなくなります。企業は投資案件を求めて活発になりますが、銀行が大型のM&Aに再び戻るにはタイムラグがあるため、複数の資金源を検討し、より長期のキャッシュ・フローやより高度な方法によるリスクを資産評価に取り入れます。

ジュニア企業の上場以外では、11年は記録的な数のIPOが延期されました。株式市場に信頼と安定が持続すれば、多数の企業が「飛び出してくる」ことでしょう。それは、市場が安定すれば、12年の下半期に起こるかもしれません。

12年は、より健全かつ行動の速い企業が成長の機会を最大限に生かすでしょう。リスク選好が増えるにつれ、高品質の資源を保有し、友好的な外国投資規制を持つ新興国および辺境国の取引が今年は増加するものと予想されます。この変化は主として、先進鉱業国では高品質の埋蔵鉱物が適正価格で手に入らなくなっていることによります。


※文中のドル表記は米ドルを表します。
 
※この記事は出版時の時点で適用される一般的な情報を掲載しており、アドバイスを目的としたものではありません。この情報を基に行動をされる際には、専門家のアドバイスを受けることをお勧めいたします。


コンタクト:
菊井隆正 (ナショナル)
Tel: (02)9248-5986
Email: takamasa.kikui@au.ey.com

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