オーストラリアにおける企業幹部の責任と ASICの財務報告監視プログラムについて

税務&会計Review

税務&会計 REVIEW

アーンスト・アンド・ヤング シニア・マネジャー
/ジャパン・ビジネス・サービス 荒川尚子

オーストラリアにおける企業幹部の責任と
ASICの財務報告監視プログラムについて

オーストラリアでビジネスを行うには、多くの課題と責任を伴います。こういった課題や責任は、オーストラリアを拠点とする取締役などの役職に付いている日系企業の日本人駐在員にも課されます。したがって、その役割、責任や義務を理解することが重要であり、潜在的なリスクが存在することも把握しておくことが求められます。

そこで今月号では、最近新たに注目されているオーストラリアにおける企業幹部の責任と、年度末決算に向けて豪州証券投資委員会(ASIC)が最近監視を強化している分野に焦点をあてます。

 

財務報告における取締役の責任

会社法285項から318項は取締役報告書(Directors’ Report)を含む財務報告の規定に関するものです。これらの項では、取締役が負っている会社の受託者責任、権限行使に纏まつわるケアとデュー・デリジェンス(Due Diligence)の義務について記されています。特に取締役が取締役宣言書(Directors’ Declaration)を署名するにあたって、取締役として財務諸表が会社法や会計基準、さらにはほかの報告義務・要件に準拠していることを可能な限り確認することが求められます。加えて、企業が支払い能力を宣言するための合理的証拠も必要となります。

取締役は、会社法で定められた要件を満たし、かつ業務執行の義務を負っているため、これらの規定に精通することが求められます。取締役の規則違反に対する刑事罰金は、20万ドルか5年の懲役、またはその両方の処罰を科せられる可能性があります。また、企業管理に関する違反や不適格行為から生じた損害については、民事罰の対象となり最大20万ドルの罰金、または法人に対する賠償責任を負わされ、さらに会社経営の資格を消失することもあります。

 

財務報告上ASICが監視を強化している分野

ASICは「豪州証券投資委員会法(ASIC法)」に基づいて設立された連邦政府機関で、会社の登記、財務報告、またM&A、株式・社債の公募に関する開示の基準などを定める会社法「The Corporations Act 2011」を執行しています。ASICは、会社登録と証券規制を担当する国家機関として、企業の財務報告書のレビューを定期的に行い、その結果を公開しています。

以下の事項は、ASICの2011年12月末通期、または半期の財務報告書の調査結果から主なものを抜粋したものです。ASICはオーストラリア企業の決算が集中する6月末決算に向けて情報を発信しましたが、12年の12月末や13年3月末の決算の準備に取り掛かる上で、オーストラリアで活動する日系企業にも影響する事項です。経理担当者や経営管理に従事されている方は十分な注意が必要です。なお、12年12月末決算を対象にした注目事項は12月に発行される予定です。

 


1. 企業業績の動向や経済の先行き不透明感の影響


 

資産価値

のれんやそのほかの無形・有形固定資産などの資産帳簿価額は引き続きASICの注目事項となっています。ASICの調査結果、企業は次のような対応を取るようになりました。

 

(1)資産の大幅な減損の評価損を認識し、減損テストおよび資産の公正価値に関する開示をする
(2)資産減損計算の基礎となる主要な仮定の開示をする
 
焦点

資産評価過程には、主観的な仮定が含まれます。現在の経済状況において、取締役は資産価値およびその基礎となる仮定の妥当性を検討する必要があります。主要仮定と感度分析の開示は、財務報告書利用者が企業の資産帳簿価額を独自に評価するにあたって役立つからです。

ASICの監視は今後、新興諸国で資産を多く保有する企業に向けられるでしょう。また12年7月1日から炭素税が導入されましたが、それによって影響を受ける企業は固定資産の減損テストを行う必要がある点に注意が必要です。

鉱物資源利用税(MRRT)や石油資源利用税(PRRT)も今年に入り数々の企業に影響を与えています。それらの企業は、開始ベース(Starting Base)算出に市場価格方式を採用している場合、必要な資産の評価を受けなければなりません。さらに、再評価によって繰延税金残高が影響を受けた場合にそれを認識し、必要に応じて財務諸表に開示する必要があります。

継続企業の前提(Going Concern)

監査報告書に記載されている継続企業の前提に疑義がある企業が多く存在することから分かるように、企業資産の流動性や資金調達の問題を抱えている企業が現在も目立っています。ASICが調査した企業の内いくつかの企業は、実際に直面している状況の深刻さを適格に財務諸表に反映していませんでした。

 
焦点

取締役は企業の展望を現実的な仮定に基いて分析・考慮する必要があります。継続企業の前提が適切であると評価した場合でも、重要な不確実性が認められる場合には、継続企業の前提が妥当な理由を財務報告上開示することが重要です。さらに、満期債務の借り換え能力や借入契約条項に接触する可能性などを継続的に検討しなければなりません。

 


2. 投資家にとって有用かつ有意義な情報


 
流動vs固定の分類

ASICは流動負債が誤って固定負債に分類された例を挙げ、資産および負債が流動または固定に適切に分類されているか調査を継続的に行っています。

 
焦点

企業の資産および負債の流動または固定の適切な分類は重要です。その上で、会計・経理または内部統制システムが整っていることを確認し、債務満期や貸付契約コンプライアンスを継続的に監視し、資産および負債の流動、または固定の分類が会計基準および事業の理解と統一していることが求められます。

 
会計上の見積りおよび判断を要する会計方針

ASICは、いくつかの企業が見積もりに関する不確実性の原因や会計方針適用における重要な判断について適切な開示を行わなかったことに注目しています。
 
焦点

この分野の開示は、財務報告書利用者が報告された財政状態および関連事項を基に自ら企業のパフォーマンスを評価するために重要です。取締役または企業経営者は直近の財務諸表の開示内容を通読し、資産、負債、収益および費用の実体がきちんと反映され、開示が十分されていることを確認する必要があります。 

特に国債が低金利の状況下、取締役および経営者はリハビリや従業員負債など現在価値に割り引いた負債額に焦点を置くべきです。国債の低金利は、これらの残高に重要な影響を与え、さらには損益に重要な影響を及ぼす可能性があります。

 

今月号では、オーストラリアにおける企業幹部の責任とASICの財務報告監視プログラムに焦点をあて、オーストラリアで活動を行う上で知っておくべき事項を紹介しました。取締役や管理職に就いている日系企業の幹部は重要な責任と義務を負っており、継続的に取締役の役割と責任に関するモニタリングをすることが求められます。


※この記事は出版時の時点で適用される一般的な情報を掲載しており、アドバイスを目的としたものではありません。この情報を基に行動をされる際には、専門家のアドバイスを受けることをお勧めいたします。

 


 

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