キャピタル・コンフィデンス調査

税務&会計Review

 

税務&会計 REVIEW

キャピタル・コンフィデンス調査
M&Aに対する経営層の意識

アーンスト・アンド・ヤング ジャパン・ビジネス・サービス
トランザクション・アドバイザリー・サービス
日系企業担当 鈴木大介

アーンスト・アンド・ヤングは、オーストラリアとニュージーランドを含む世界中の有力企業の経営陣に対して半年ごとに「キャピタル・コンフィデンス調査」を実施しています。今回の調査結果によると、企業の信頼感が回復していることが明確に示され、企業の意欲は投資に向かっていますが、よりリスクの低い価値創造および成長戦略に引き寄せられていることが明らかとなっています。今月号では、2013年4月に発表された50カ国の企業、約1,600人の経営層に対するアンケート結果を主にオーストラレーシアに焦点を当ててご報告します。

経済に対する信頼感は回復

今回の調査では、企業の経営層の全体的な経済に対する信頼感が、前回(2012年10月)調査時点と比較して大幅に回復しました。グローバル経済の見通しに対しては、全体で87%の回答者が、オーストラレーシア(*)では89%の回答者が、経済は安定している、もしくは回復していると答えており、6カ月前の69%、74%と比較して大きな改善が見られます。

これら信頼感の回復の要因はさまざまですが、特に米国経済の回復の兆しに伴い株式市場が好調になったことや、キプロス危機はあったものの相対的に欧州危機の状況が沈静化していることなどが大きな要因として挙げられます。

また、オーストラレーシア回答者の地域経済に対する見通しも改善しており、90%の回答者が、経済は安定もしくは回復していると回答しています。特に、豪州では42%の回答者が新興国の成長率の減速が今後6〜12カ月間の最大のリスクと回答しているものの、一方で57%の回答者は、豪州経済について楽観的と回答しており、オーストラリア準備銀行による相次ぐ利下げの効果が、企業経営層の豪州経済見通しの改善に寄与したと言えます。

次期連邦選挙日が公表されたこともあり、豪州の経営層は、選挙後の政策変更およびその影響にも注目しています。

雇用見通しも改善

企業経営層の雇用に対する見通しも大きく改善しており、今回の調査では、全体で42%の回答者、オーストラレーシアで44%の回答者が今後12カ月のうちに「雇用を創出/採用を拡大」と回答しており、前回調査時点の28%、21%から大きく改善しています。さらに人員を削減すると答えた回答者は、全回答者で10%(オーストラレーシアでは8%)と過去2年間で最も少ない水準となりました。。

低い世界経済の成長率

全回答者の84%が世界経済の成長を見込んでいますが、同じく全回答者の65%が今後12カ月の世界経済の成長率は1〜3%程度と見ており、06年から07年のピークには遠く及ばないと予測しています。このことは、金融危機以後の経済不安の時期が非常に長く蔓延し、典型的な循環行動が変わったことを示しています。

信用能力の見通し改善とレバレッジへの意欲増加

信用能力に対する経営層の見通しは大きく改善しており、グローバルで約半数の回答者が、豪州では56%の回答者が、自身の借入能力は増加すると回答しており、半年前の26%、19%と比較して大きく改善しているだけでなく、過去2年間で最も高い割合となりました。

これらの要因としては、金利の低下、株式市場の回復、世界経済の安定化等の環境要因に加えて、豪州企業の場合であれば、デッドに対する新たな資金供給の提供者の出現(欧米の債券投資家、スーパーアニュエーション・ファンド、アジア金融機関)も大きく影響していると考えます。さらに、負債総資本比率が増加するとの見方を示した企業の割合も、全体で昨年10月調査時点の18%から24%に増加しており、企業の経営層のレバレッジへの意欲がグローバルで増加していることを示唆しています。

回復した成長及びM&Aへの意欲

経済に対する信頼感が回復し、借入能力が改善したため成長への意欲が増加し、企業は投資への着実な動きを示しています。今回の調査では、全体で52%の回答者が、オーストラレーシアでは51%の回答者が今後12カ月間における最優先課題は成長であると答えています。これは最優先課題に対するほかの回答(経費削減・効率化、現状維持、会社の生存)を合算した割合よりも多く、12年10月時点の41%、37%から大幅に回復しています。

さらに、M&Aの件数は全体で72%の回答者が、オーストラレーシアでは77%の回答者が増加すると予想しており、また、全体では29%の回答者が、オーストラレーシアでは24%の回答者が今後12カ月間に1件以上の買収を実施すると予測しています。

小規模な案件に偏る見通し

成長およびM&A案件への意欲の回復、さらには、企業が保有する現預金残高が増大し、信用能力が回復しているにもかかわらず、今後のM&A案件の規模は引き続き小さいと予測されます。買収を予定している全回答者の88%が、5億USドル以下の案件を予定していると回答しています。小規模な案件の追求は、オーガニック・グロースや低リスクといった企業全体の戦略と合致していると言えます。改善の兆しが見えるとはいえ、危機的状況が抜本的な解決を見出せないながら継続する中、企業の経営層は、これまでオーガニックな手段もしくは事業のリストラクチャリングによって成長を推進し、それにより取締役会から報酬を受けてきたことを考えると、企業による警戒感は理解できるものです。

バリュエーションは上昇する見通し

バリュエーションが上昇すると予測する回答者の割合は、本調査開始以来最も多く、今後1年間で価格/バリュエーションが上昇すると答えた全体の回答者は、31%から44%へと増加しました。また、ディール・メイキングが低迷している一因であるバリュエーション・ギャップに関しては全回答者の21%、オーストラレーシアの回答者の29%が、今後12カ月間に売り手と買い手の間のバリュエーション・ギャップは縮小すると回答しました。さらに、オーストラレーシア回答者のうち31%がバリュエーション・ギャップは10%未満に低下すると回答しています。

あとがき

世界経済の成長、および借入能力に対する見通しは、過去2年間の調査で最も高い水準となりました。通常、このような前向きな見方は大規模な資本投資およびM&A活動へとつながりますが、今回の調査では、企業がオーガニック・グロースや小規模なボルトオン買収(事業買収)など、よりリスクの低い価値創造および成長戦略に引き寄せられていることが明らかになりました。事業環境に対する信頼感の回復と実際にM&A活動を起こすまでの間に時間のラグが存在すること、また、以前よりも企業がM&Aの検討に要する時間が長くなっていることなども踏まえると、本格的にM&A活動が活発化するのが見えてくるまでには時間がかかるのかもしれません。しかし企業は、リスクの回避がリスクそのものとなることを避ける必要があります。バリュエーションの水準および見通しは明るく、回復しつつある市場において先発者利益を獲得する機会があることを示しています。

 
*オーストラリアとニュージーランドを指す


※この記事は出版時の時点で適用される一般的な情報を掲載しており、アドバイスを目的としたものではありません。この情報を基に行動をされる際には、専門家のアドバイスを受けることをお勧めいたします。

 

菊井隆正 (アジア・パシフィック/オセアニア)
Tel: (02)9248-5986
Email: takamasa.kikui@au.ey.com
 

鈴木大介 (オセアニア)
Tel: (02)9276-9083
Email: daisuke.suzuki@au.ey.com

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