連立政権下の税制改革

税務&会計Review

 

税務&会計 REVIEW

EY/ディレクター/ジャパン・ビジネス・サービス 裕子カーンズ

連立政権下の税制改革

連立政権は11月6日、過去に発表され法制化されないままとなっている100あまりの改正案に取り組む計画を発表しました。また、11月13日には鉱物資源利用税(Minerals Resource Rent Tax = MRRT)の廃止法案が国会に提出されました。今月号では、11月6日に発表された重要な決定事項について概要を述べ、連立政権が税制改革を進める上での課題および方向性について検討します。

鉱物資源利用税(MRRT)の廃止

「2013年鉱物資源利用税廃止およびその他措置法案(MRRT Repeal and Other Measures Bill 2013)」は、MRRTのコンプライアンスが求められる期間を14年6月30日までとし、この日付以降もATO(オーストラリア税務当局)が当該期間のコンプライアンスのための税務調査などを実施することができるとしています。一方、12月決算納税者の多くが14年6月30日までMRRT申告期日の延長を申請している中、ATOはMRRT廃止法案の発表を受けて、コンプライアンス負担を減らすための行政アプローチとしてグループ・ベースの石炭・鉄鉱石生産量が2000万トンを超える主要生産者以外のゼロ申告納税者すべてに対して14年12月1日までの期日延長を導入しています。

一部のMRRT納税者にとっての大きな懸念は、MRRT導入時の財務報告書に、MRRTの開始ベース資産の将来的な控除の税効果として認識された繰延税金資産に対するMRRT廃止の影響です。MRRTが廃止された場合、そのような繰延税金資産は取消しが必要となり、これはP/L上に影響をもたらします。

国際財務報告基準(International Financial Reporting Standards = IFRS)によれば、改正法案の財務的影響を認識するタイミングは、当該法案が「実質的に成立した」時となっています。オーストラリアでは、法案が議会の上院・下院双方を通過した時であると一般的に考えられています。議会は、両院がクリスマス休暇に先立つ11日間(および下院での補正予算の話し合いに充てられている追加の4日間)開会する予定です。その後は来年2月まで開会しません。14年のスケジュールはまだ公表されていませんが、13年のスケジュールを例にとれば14年も2月に7日間、3月末までにさらに7日間開会されるものと予想されます。

現時点では、MRRT廃止法案が実質的に成立するタイミングは不明です。しかしながら、14年3月31日以前に起こる可能性がないとは言えません。

以前発表された税制改正案

11月6日の発表において、政府は過去に発表されていた改正案のうち、25の税制改革措置に関する法制化/廃案の意思を正式に確認しました。さらなる64の改正案については、副財務相が今後、税制委員会および、ほかの専門家の支援を得て再検討を行い、各改正案を法案に進展させるべきかどうか12月1日までに勧告することを求めています。政府は、導入する改正案に関わる法案はすべて14年7月1日までに議会を通過させる意思表明をしています。

再検討されている残り64の改正案には、以下の項目が含まれています。

 

■ CFC規定の近代化
■ 株式市場外における株式の買い戻し規定に関わる改正
■ アーン・アウト取引の税務上の取り扱いの見直し

これら64の改正案は導入されない可能性が高いと見られています。導入により、法案作成費用、潜在的なコンプライアンス費用、また予想外の影響や非効率な官僚事務手続きが増えることが予想されます。これらのコストを同じく導入によって生じる経済的な不可価値が確実に上回らない改正案を一掃するアプローチは支持に値するといえます。同発表では、政府は「これら64の施策のほとんどは財政的影響が小さいと予想される」との助言を受けていると述べています。

海外投資のための資金調達

政府が導入を進めると発表した重要な改正措置の1つとして、作為的にオーストラリアに債務を上乗せすることにより利益移転を図る租税回避スキームから法人税基盤を守るための、課税ベース侵食や法の網の目をくぐるような行為への対応措置が挙げられます。これには具体的に以下の項目が含まれます。

 

■許容債務額を計算するセーフ・ハーバー比率の引き下げを含む過少資本税制の引き締めと改善
■海外関連会社からのノン・ポートフォリオ受取配当の非課税扱いに関わる改正
■第25−90条(Income Tax Assessment Act 1997)の廃止案は取り下げ、租税回避行為に焦点を当てた改正に置き換える

第25−90条(海外関連会社へのノン・ポートフォリオ投資に関わる負債利子の損金算入を認める規定)の廃止は、前政権により13/14年度連邦予算で発表されたものでした。しかし、企業にとって税務上の複雑さを増し、オーストラリア企業の海外投資に悪影響を与える可能性のある当該廃止案を実施するよりも、政府は「関係当事者との詳細な協議後に焦点を絞った租税回避防止規定を導入する」ことにより「ある種の導管スキームに対応する」としています。この協議の詳細は年末までに発表される予定です。

この際の租税回避防止規定は「債務ダンピング」を対象とする他国の特定の租税回避防止規定の特性を利用する可能性があります。また、OECDの課税ベース浸食と利益移転(Base Erosion and Profit Shifting、BEPS)対策プロジェクトにおいても、債務を不適切に利用する国際税務ストラクチャーを対象とする措置の検討が含まれていることも重要なポイントです。

OECDのBEPSプロジェクト

概して、OECDのBEPSプロジェクトは、経済的価値を生む事業活動の実態と、その税務上の取り扱いとの間に、整合性を達成しようとするものです。経済のグローバル化と相まってますます複雑化する経営モデル、特にデジタル経済の発展は、企業がその税負担を極端に縮小する機会を生んでいます。二重課税を防ぎ、かつ国際貿易を促進するために策定された税法が、逆に二重に非課税といった結果になってしまったケースもあります。

ATOは、OECD加盟国が最近合意した15のBEPSアクション・プランのうち6項目について主導的役割を担っています。ATOがほかに注目している分野は、電子商取引、企業再編成に関連した移転価格問題、無形資産の移転およびマーケティング・ハブの創設などです。

まとめ

過去に発表されていたままになっていた税制改正案について、確実性を提供するために新政権が取った積極的な取り組みは歓迎されるものです。しかしながら、前政府が取り組まなければならなかった税制上の難題の多く、すなわち経済減速、所得税税収の減少、および予算を黒字化することへの大きな圧力に新政府も直面しています。BEPS問題に取り組む上でオーストラリアが積極的な役割を取ろうとしている中、オーストラリアの税制改革の方向性および優先事項は、法の網の目を塞ぐことや、自国の課税ベースを保つことに終始する傾向があると言えるかもしれません。この結果、オーストラリアに投資する多国籍企業は、特に国際的な事業拡大に向けたファイナンスをするための債務利用や低税率国への資産移転等、ATOの注目分野での取引に関与している場合には、税務リスクの管理により注意を図る必要があります。

 

※この記事は出版時の時点で適用される一般的な情報を掲載しており、アドバイスを目的としたものではありません。この情報を基に行動をされる際には、専門家のアドバイスを受けることをお勧めいたします。

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