オーストラリアのビットコイン取引課税

税務&会計Review

 

税務&会計 REVIEW

アーンスト・アンド・ヤング 税務ディレクター
ジャパン・ビジネス・サービス 
裕子カーンズ

著者プロフィル◎オーストラリア登録税理士。2006年EYシドニー事務所入所。オーストラリアにおける法人税務申告代行や税務調査対応、そしてM&A、グループ再編、事業の設立・売却などに関わる税務アドバイスの提供を通して日系多国籍企業のお客様のオーストラリアでの事業をサポート
オーストラリアのビットコイン取引課税

オーストラリア税務当局(以下、ATO)は2014年度の税務申告シーズンに向けてビットコインの税務上の取扱いに関するガイドライン及び税務通達草案を発表しました。ビットコインは通貨でなく資産であるというATOの見解は諸外国の税務当局も共有しているものですが、ATOの通達草案はまだ不明瞭な部分を残しています。今月号では、ビットコイン取引の課税についてATOの提案する税務上の取扱いを、代替案やアメリカとイギリスにおける取扱いを通じて説明します。 なお、執筆時においては日本の税務当局によるビットコインの公式な税務上の取り扱いは発表されていません。

オーストラリアにおけるビットコインの流通

ビットコインは暗号化されたデジタル通貨であり、IT技術によりその生成が制限され、また、流通においてもIT技術によりその管理が行われています。国の中央銀行による規制はないものの、本質的にオンライン通貨として取引が行われており、コインデスク(www.coindesk.com)の調査によるとその流通額は2014年9月30日現在で約50億米ドルにまで増加しており、また、コインジャーのウェブサイト(www.coinjar.com)ではオーストラリアにおいて、約50万人の利用者がいると報告されています。「ABA Technologies」は既にシドニー、メルボルン及びキャンベラにビットコインATMを設置しており、2016年末までに100台以上を設置する予定としています。なお、当初はビットコインを歓迎する主要金融機関もありましたが、現在ではオーストラリアの銀行各行は距離を保っています。

通貨なのか?それとも外国通貨なのか?

ビットコインは仮想(バーチャル)通貨と称されていますが、その特徴は一般的に認可されている通貨とは大きく異なります。例えば、その価値は金貨や法定通貨により裏書されているわけではなく、あくまでも市場で取引当事者が付するものとなっています。ビットコインはデータを「採掘する」プロセスにより得られますが、市場流通総数は2,100万と恣意的に上限が決められています。オーストラリアの税法上「通貨」は定義が無いため、規定の意図や背景を考慮し、その言葉の通常の意味に基づいて解釈する必要があります。また、税法上「外国通貨」として認められるためには、まず「通貨」であることが必要です。

ATOは、下記の2件の判例を引用し、ビットコインは通貨ではないと判断しました。

▶ 現状のビットコインの一般社会における利用や受け入れ状況はビットコインが普及しているというのには十分でない [Moss v. Hancock [1899] 2 QB 111]

 

▶ 流通貨幣として一般的に認められていると言えない [Travelex Limited v. Commissioner of Taxation [2008] 71 ATR 216]

上記が、ATOがビットコインを通貨としては認めず資産として取扱うこととした根拠であり、この判断に基づき税務上の取扱いを提案しています。しかし、この考え方が少なからず短絡的であると言えなくもなく、例えば、ビットコインまたはほかのデジタル通貨がより市場で受け入れられ流通した場合、その時点でまたその税務上の取り扱いの見直しが必要となるのでしょうか?

現在提案されているオーストラリアにおける税務上の取り扱い

ATOが発表したガイドラインおよび税務通達における税務上の取り扱いは以下の通りです。

▶ ビットコインは税務上、外国通貨ではなく資産(CGT対象)として取扱う。通常の事業活動としての売買若しくは交換のために保有している場合には、棚卸資産として取り扱うこととなる。

 

▶ 原則として、個人においては事業を行っていない限りビットコインによりモノやサービスの対価を支払ったとしても、所得税及びGSTの対象とはならない。また、その原価が1万豪ドル以下であれば、キャピタル・ゲイン(ビットコインの購入時の時価と売却時の時価との差額)は課税対象とはならない。

 

▶ 法人はビットコイン取引額を通常の収入の一部として記帳することが求められ、ビットコインを提供した場合にはGSTの対象となる。また、モノおよびサービスの対価としてビットコインを受け取った場合においてもGSTの対象となる。

 

▶ 事業としてビットコインの採掘を行う場合には、その収益に対応する採掘費用は損金として取り扱われることとなる。

 

▶ ビットコインを給与の支払いに使用する場合には、フリンジ・ベネフィット税の対象となり得る。

 

▶ 取引が課税対象となる場合には以下の情報を保存する必要がある。
  ● 取引日
  ● 豪ドル換算額
  ● 取引内容
  ● 取引の相手(ビットコイン・アドレス)

この場合の取扱いは・・・?そして、税務上の取扱いの代替案

しかし、上述のATOの見解においては、ビットコイン取引時における時価の変動から生ずる利益若しくは損失の取扱いは明確にされていない部分もあります。

 例えば、法人がその商品の対価としてビットコイン(販売時の時価800豪ドル)を受取り、その後、そのビットコインを使用する場合に発生しうる問題を考えてみます。
 対価として受取った800豪ドルを数週間後に仕入の支払いとして使用する場合に、その価値が1,000豪ドル又は500豪ドルに変動している可能性があります。
 この使用時に発生する200豪ドルの利益または300豪ドルの損失についての具体的な税務上の取扱いは明確にされていません。
 さらに、ビットコインを複数回にわたり購入し、その後、使用する場合におけるATOの見解は、その複数あるビットコインのうち、その使用したビットコインの購入時の価格(=時価)をその都度把握するよう求めており実務上非常に煩雑な処理になりうる可能性があります。

代替案として、税務においてはビットコインを外国通貨として取扱い、外国通貨と同様の税務処理を行うべきであるとの見解があります。この方法によれば、その時価の変動から生ずる利益若しくは損失の処理方法は、特定のビットコインについてその保有目的が販売目的若しくは投資目的(販売目的であれば通常の収益、投資目的であればCGTの対象)による判断によらないため、より明確であると考えられます。

アメリカ及びイギリスにおけるガイドライン

アメリカ内国歳入局(IRS)は2014年3月に、ビットコインを含むデジタル通貨に対する税務上の取扱いを質疑応答の形で発表しました。そこでは、デジタル通貨は法定通貨として認められず税務上は資産として取り扱うべきである旨が説明されています。そして、その取引から発生する利益および損失は、その保有目的(販売用か若しくは投資用か)により判断されるとしています。

UK HMRC Policy paper – Revenue and Customs Brief 9(2014)によると、イギリスにおいてはビットコインの区分について一概に定義することをせず、それぞれの取引実態を考慮しケース・バイ・ケースで判断することとしており、法人税に関しては、通貨の為替変動より生ずる利益または損失は課税所得に含まれ、仮想通貨の税務上の取扱いは外国為替換算および金銭貸与に関わる規定が適用されるとしています。

ATOの最終見解の発表日は未定

ATOの税務通達草案に対するパブリック・コメントは既に2014年10月3日で締め切られていますが、最終通達の発表日は未定です。ただし、2014年10月2日に発表されたオーストラリア政府の上院経済参考委員会(Australian Senate Economics References Committee)によるビットコインを含めたデジタル通貨の効果的な規制体制に関する調査の報告書は2015年3月が提出期限となっています。

 

※この記事は出版時の時点で適用される一般的な情報を掲載しており、アドバイスを目的としたものではありません。この情報を基に行動をされる際には、専門家のアドバイスを受けることをお勧めいたします。

コンタクト:

菊井隆正(ナショナル)
(02)9248-5986
Email: takamasa.kikui@au.ey.com

 

裕子カーンズ(シドニー)
(02)9248-5518
Email: yuko.kearns@au.ey.com

 

加藤雅子(メルボルン)
(03)9655-2766
Email: masako.kato@au.ey.com

渡辺登二(ブリスベン)
(07)3011-3526
Email: toni.watanabe@au.ey.com

 

井上恵章(パース)
(08)9217-1296
Email: shigeaki.inoue@au.ey.com

 

川井真由美(アデレード)
(08)8417-1974
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