年金拠出における 雇用者の義務

税務会計最前線
KPMG会計事務所
シニアマネージャー ティペット仁美


年金拠出における 雇用者の義務


   オーストラリアでは1992年7月1日以降、年金保証制度(Superannuation Guarantee system)が導入され、雇用者が従業員に対して年金拠出金を支払う義務が規定された。今日までの間に年金に関する法律は何度か改定を繰り返し、雇用者が遵守すべき規則も頻繁に変更が加えられている。本稿では、最近の動向にも触れながら、年金拠出に関して雇用者が遵守すべきポイントについて述べたい。


年金保証制度と対象者
 雇用者は、従業員に対して適格年金基金または退職積立金口座に四半期ごとに年金拠出を行う義務がある。
 フルタイム、パートタイム、臨時を問わず、基本的に全従業員が年金保証制度の対象になるが、若干の例外がある。対象外とされる主な従業員は下記の通りである。これらの従業員については年金拠出義務が免除される。
*月額給与支払額が450ドル未満
*18歳未満で週30時間未満勤務
*70歳以上
*オーストラリア国外での勤務に対して、非居住者である雇用者から給与を受け取っている居住者
*オーストラリア国外で勤務する非居住者
*特定の一時滞在ビザを持つ外国人エグゼクティブ
*週30時間未満勤務で家事または私的な仕事に従事
*一時的にオーストラリアで勤務する二国間社会保障協定上の対象者
駐在員への拠出
 年金保証制度の下では、日本から派遣されてオーストラリアで勤務している駐在員についても雇用者は基本的に年金拠出義務がある。しかし、上記の拠出が免除される「特定の一時滞在ビザを持つ外国人エグゼクティブ」である従業員に該当するとして年金拠出を行わないということも可能である。457ビザを保有しており、しかるべき上級管理職の立場にある駐在員の場合、この規定を利用して年金拠出を行っていない例も多くみられる。  しかし、これは一部の「エグゼクティブ」にしか免除の適用がなく、「エグゼクティブ」に該当するかどうかについて客観的な判断が難しかった。
 この免除に該当しない駐在員の場合、日豪両国の年金制度の対象になり、二重払いの問題が生じていた。しかし、日豪社会保障協定が2009年1月1日に発効することから、この二重払いが解消する。これは、上記の「一時的にオーストラリアで勤務する二国間社会保障協定上の対象者」による拠出義務免除に該当する。
 この協定では、就労地国での年金加入を原則とするが、派遣期間が5年以内の駐在員らについては、就労地国での年金制度の加入は免除され、派遣元国の年金制度にのみ加入することになる。したがって、日本から派遣される駐在員について、基本的にオーストラリアで年金拠出が免除されることになる。
一時居住者と年金積立金引出
 現在まで「エグゼクティブ」に該当しなかった駐在員やほかの一時居住者については雇用者が年金拠出を行う義務があるが、これら一時居住者がオーストラリアを永久に出国してビザが失効した場合には、雇用者が拠出を行った年金積立金の引出を行うことができる。この年金積立金支払(Departing Australia Superannuation Payment)の際には、通常30%の源泉税が控除される。
 この一時居住者出国とその年金積立金の取扱いについて、改正案が現在(11月17日)国会審議中である。改正案には、出国した旧一時居住者保有の退職年金口座に関してその積立金の早期引出を促し、保有者不明の退職金口座を減らそうという狙いがある。
 改正案では、出国して一時居住ビザが失効してから最低半年経過した後、引出が行われなかった年金積立金をオーストラリア税務当局(ATO)に移行することになる。ATOに移行した金額には金利がつかない。また、現在30%の源泉税率が35%に増加する。
年金基金の選択
 2005年7月1日から、一部の従業員を除いて従業員が、雇用者年金拠出のための年金基金を選択できるようになった。該当する場合、雇用者は新しく雇用した従業員に対しては雇用を開始した日から、また既存の従業員に対しては要求のあった日から、28日以内に年金基金選択のための標準書式を配布しなければならない。
 従業員が有効な選択をしてから、雇用者は2カ月以内に指定された基金に拠出金を支払う準備をする。従業員が選択を行わなかった場合は、雇用者が指定した適格年金基金へ拠出を行う。2008年7月1日以降、雇用者が指定する年金基金はそのメンバーに対して最低限度額の死亡保険をかけなければならないことになっている。
 雇用者が従業員の指定する年金基金に拠出金を支払わなかった場合や、期限内に選択のための標準書式を配布しなかった場合には、後述の年金保証税(Superannuation Guarantee Charge)の一環として選択上の負債(Choice Liability)を負うことになる。
 なお、従業員に年金基金の選択を可能にすることで雇用者の事務負担が増加したが、特に中小企業に対する軽減措置として、雇用者に代わって年金基金の選択書式の記載事項のチェックや各年金基金への拠出金配布を行うクリアリング・ハウスの設置が検討されている。
拠出額と支払期限
 雇用者は、従業員の給与ベース(Earnings Base)の最低9%を拠出する必要がある。以前はさまざまな給与ベースが使用される余地があったが、2008年7月1日から雇用者は拠出金計算の給与ベースとして、「通常の給与」(Ordinary Time Earning, OTE)を使用しなければならなくなっている。OTEにはコミッション、手当、休暇中の給与などが含まれるが、残業代などは含まれない。雇用者は基本的に、年金拠出金を支払時に全額損金算入できる。
 なお、主に駐在員に支払われる遠隔地勤務手当(Living-away-from-home Allowance)については、フリンジ・ベネフィットに該当するためOTEや後述する総給与額(Salary or Wages)に含まれない。
 OTEの上限が最大拠出ベースとして定められており、2008/09年度については、四半期上限額は3万8,180ドルである。雇用者はこの金額を越える部分について9%の拠出金を支払う必要がない。
 雇用者は、年金拠出を最低年4回行わなければならない。また、雇用者が従業員の選択した適格年金基金に期限までに規定の年金拠出金を支払わなかった場合、年金保証税支払書の提出と年金保証税(Superannuation Guarantee Charge, SGC)の納付を行わなければならない。これらの四半期ごとの期限は上記表の通りである。
 SGCには、拠出不足金(Superannuation Guarantee Shortfall)、拠出不足金に対する利子(年率10%)および従業員1人当たり20 ドルの管理手数料が含まれる。拠出不足金の計算のあたっては、OTEの代わりに総給与額(Salary or Wages)を使用して計算される。総給与額は、OTEに含まれない残業代や退職時の未使用休暇残高の支払なども含まれるため、拠出不足金が通常の拠出金より多くなるおそれがある。また、SGCは損金算入もできない。
 06年1月1日以降、拠出期限を過ぎて1カ月以内に支払われた年金拠出金は、SGCと相殺することもできるようになった。さらに08年6月24日からは、1カ月以上の遅延でも相殺が可能になっている。
税務会計最前線
書類の保管
 雇用者は、拠出金支払や年金基金選択に関する書類を5年間保管する必要がある。具体的には、各従業員に支払った拠出金やSGCの計算根拠、拠出金支払記録や領収書、該当のある従業員に年金基金選択の書式を配布したことの証明などである。
この記事についての質問などは下記の各事務所に連絡する。
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ティペット 仁美 Tel: (02)9335-8606
山田 友美 Tel: (02)9335-7755
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北村 美幸  Tel: (03)9288-5257
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