IFRSを取り巻く国際的潮流

税務会計最前線
KPMG会計事務所
シニア・マネジャー 森部裕次


IFRSを取り巻く
国際的潮流


 国際財務報告基準(IFRS)はEU諸国、オーストラリアをはじめ、既に世界の100カ国以上で採用(または採用が予定)されているが、ここにきて、米国や日本でも採用の気運が高まり、会計基準の国際的統一化の動きが加速している。本稿では、IFRSを取り巻く現在の国際的な潮流について説明する。


アドプション(全面採用)とコンバージェンス(収斂)


 近年、国境を越えた投資活動が活発化しており、また、多くの企業が事業活動および資金調達活動をグローバルに展開している。このグローバル化の流れの中、金融資本市場のインフラの国際的調和の必要性が叫ばれ、世界では現在、会計基準の国際的統一化の流れが加速している。投資活動や資金調達活動において財務情報は必要不可欠なもので、財務情報の基礎となる会計基準が国によって大きく異なることは、他国への投融資の意思決定や比較可能性の観点から、大きな障害となるからである。
 会計基準が国際的に統一化していく中で、キーワードとなるのは、「アドプション(全面採用)」と「コンバージェンス(収斂)」である。アドプションとは、世界各国からの代表によって構成される国際会計基準審議会(IASB)が設定するIFRSを自国の企業(主として上場企業)に対して採用を義務付けることをいう。したがって、アドプションの下では、自国の証券当局に提出する財務諸表は、自国基準ではなく、IFRSを用いて作成されることになる。
 一方、コンバージェンスとは自国基準を維持しながら、IFRSと実質的に同等の基準とするための作業を永続的に実施することをいう。この場合、自国の証券当局に提出する財務諸表は、引き続きIFRSではなくIFRSに実質的に同等と判断される自国基準を用いて作成される。
 従来、EU諸国をはじめオーストラリア、香港、シンガポールなど100カ国以上が、IFRSを「アドプション」する(または予定する)ことにより会計基準の国際的統一化を図ってきた。一方で、日本および米国は、他市場の会計基準の動向を踏まえながら、自国の会計基準を見直し、IFRSと「コンバージェンス」していくことにより、会計基準の国際的統一化を図ることを目指してきた。


米国における方針転換


 米国は、世界第一の会計先進国であり、これまで常に先んじて会計基準を世に発行してきた。また、米国基準はルール・ベースと言われ、非常に数多くの会計基準が階層状となって規定されていることで知られている。こうした背景から、米国は従来、米国市場で上場する外国企業に対して米国基準の適用、または米国基準との差異調整表の作成を義務付けていたが、2007年12月にIFRSを採用する外国企業に対し、米国基準との差異調整表なしで容認する改正規則を公表し、外国企業がIFRSで米国市場に上場することを認めた。
 そして、08年8月、米国証券取引委員会(SEC)は、国内上場企業に対してIFRSを強制適用するためのロードマップ案を公表した。このロードマップ案によれば、09年から一部の国内上場企業にIFRSの適用を容認し、14年から順次、国内上場企業に対してIFRSの適用を義務付けることになる。前述の通り、米国では従来、米国基準とIFRSを「コンバージェンス」させていく作業を、米国基準の設定主体である財務会計基準審議会(FASB)とIASBが一体となって実施してきた。それが、ここへ来てIFRSの「アドプション」へ完全に方針転換したわけである。


日本の動向


 日本では、基準の設定主体である企業会計基準委員会(ASBJ)が、05年に日本基準をIFRSへ「コンバージェンス」させることに合意し、以降、日本基準とIFRSとの差異を洗い出して、「コンバージェンス」の作業を実施してきた。そして、07年8月の「東京合意」において、重要な差異については08年までに解消し、残りの差異についても11年6月までに解消するという、具体的な目標期日を設定した。この「コンバージェンス」作業については現在も進行中で、08年10月の欧州議会にて、「日本の会計基準について、09年以降もEU域内市場において受け入れることが適当」であることが決議され、日本基準がIFRSと同等であると評価された。米国における「コンバージェンス」作業がIFRSとの相互による歩み寄り、すなわち、両基準間の差異についてFASBとIASBが議論してどちらか適当な方へ合わせていくというものであったのに対し、日本における「コンバージェンス」は日本基準をIFRSへ近づけていくという一方向のものである。
 そうした状況下で、主要な「コンバージェンス」対応国であった米国の「アドプション」への方針変更は日本に大きな衝撃を与えた。米国がIFRSを「アドプション」することにより、IFRSが名実ともにグローバル・スタンダードとなることが明白となったからである。
 米国の方針転換案の発表を受け、08年9月に日本公認会計士協会はIFRSを早期に導入すべきである旨の提言を発表し、同月に金融庁は、IFRSを導入する方向で本格的な検討に入る旨を正式表明した。そして、08年10月の日本経団連による、IFRSの「アドプション」へ向けての提言書の発表により、「アドプション」の議論は大きく前進し、金融庁の企業会計審議会は、09年1月28日に「我が国における国際会計基準の取扱いについて(中間報告)(案)」の中でIFRSの適用についての将来展望を公表した。以下がその要旨である。
① 強制適用を視野に入れつつ、当初は任意での適用を認める。
・ 任意適用の時期 – 2010年3月期
・ 任意適用の対象- EU域内および米国で上場している企業、国際的企業
・ 日本基準とIFRSの並行開示 – 導入初年度のみ
・ 任意適用時は、連結財務諸表のみを対象にする。
・ 強制適用は2012年に判断する。
② 日本基準のIFRSへの「コンバージェンス」活動は継続する。
③ 導入にあたりIFRSの日本語翻訳版を作成し、広く認知させる。
 このように、日本においても「アドプション」に向けての動きが加速しているが、まだまだ議論しなければならない事項や課題が山積しており、企業会計審議会も現時点では将来展望を示すにとどまっている。ただし、個別財務諸表の開示義務のない米国が完全な「アドプション」を目指しているのに対し、個別財務諸表の開示義務のある日本は米国の動向を伺いつつも、米国とは少し異なった「アドプション」を目指しているようである。


オーストラリアへの影響


 オーストラリアでは周知の通り、EU諸国と足並みをそろえ、05年よりIFRSを「アドプション」している。そのため、これらの日米の動向から直接に影響を受けることはないと考えられる。オーストラリア国内において利用され、定着している会計基準(IFRS)により、さらに多くの国や地域の財務諸表が作成されることはオーストラリアにとっては望ましい方向である。
 考えられる影響として、数は少ないが日本企業で米国会計基準を採用している会社が数十社あり、これらの会社の子会社は、今後親会社の連結財務諸表作成のために必要となる情報の要求事項が変更される可能性がある。企業によっては、日米でのIFRSの導入を契機に、経理規定をグローバル・ベースで完全統一することが考えられる。また、米国がIFRSの基準設定主体であるIASBに発言力を持つことにより、IFRSのボリュームがますます増加するという影響も考えられる。
 日米において、IFRSの「アドプション」に向けての方向性が決まったものの、特に日本においては将来展望が掲げられたに過ぎず、まだまだ変更の余地が残されている。今後の決定に注意を要したい。
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