日豪新租税条約の解説(II)

八郷 泉KPMG会計事務所 
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日豪新租税条約の解説(II)


 前々月の本紙では、日豪新租税条約の改正の重要項目、対象税目、効力発生日、および源泉税の減免について解説しました。今月は、恒久的施設、事業所得、関連企業、譲渡所得について解説します。


(1)恒久的施設
 恒久的施設とは、事業を行う一定の場所であって、外国の会社がその場所を通じて事業を行っている場合、恒久的施設のある国は当該外国会社の恒久的施設に帰属する所得に対して課税を行う。恒久的施設には、支店、事務所、工場、鉱山、農地などが挙げられる。
 恒久的施設の範囲について、次のような改正が行われた。
1) 建築工事現場または建設もしくは据付カの工事が恒久的施設を構成するものとされるのは、現行条約ではその存続期間が6カ月超の場合とされているが、新条約ではその存続期間が12カ月超の場合とされた。
2) また、一方の締約国の企業が次の(a)から(c)までに規定する、いずれかの活動を他方の締約国内で行う場合には、当該活動は当該企業が他方の締約国内に有する恒久的施設を通じて行われるものとされる。
(a)建築工事現場または建設もしくは据付の工事に関連する監督活動またはコンサルタントの活動で、12カ月を超える期間継続するもの
(b)天然資源を探査し、または開発する活動(大規模設備の運用を含む)であって、いずれかの12カ月の期間において合計90日を超える期間行われるもの
(c)大規模設備の運用(bに該当するものを除く)であって、いずれかの12カ月の期間において合計183日を超える期間行われるもの
 最近のオーストラリアが締約している租税条約の慣行に従い、恒久的施設の定義は締約国に在る天然資源の探査または開発活動に拡大されている(大規模設備の運用を含む)。日本との新租税条約の場合、オーストラリアまたは日本にある天然資源の探査または開発活動は、いずれかの12カ月の期間において90日を超える期間行われる場合、恒久的施設を通じて行われるものとされる。
 新たな「90日規定」により、エネルギー天然資源セクターの探査または開発活動に従事している日本企業はオーストラリアに恒久的施設が存在するかどうかを判断するため、新租税条約を検討することが必要になった。
 他方の締約国でいずれかの12カ月の期間において183日を超える期間、企業が大規模設備の運用を行った場合、当該活動は恒久的施設を有するとみなされる。
 議定書の中で、「大規模設備の運用」という語句の使用には、設備の提供のみを目的とする、裸用船契約を含む賃貸借契約に基づいて設備を賃貸する場合は含まないとしている。
「運用 (operate)」とういう表現は、最近オーストラリアがフィンランドと締約した租税条約の同等の条項においても使われている (「維持 (maintain)」という表現が使われているイギリスおよびアメリカとの租税条約とは異なる--税務通達 TR 2007/10を参照)。「運用する」という語句は、大規模設備が積極的に使用される場合のみが当該条約の恒久的施設のみなし規定に該当すると考えられる。
(2)事業所得
 第7条は一方の締約国 (例:日本) の企業が、恒久的施設を通じて他方の締約国 (例:オーストラリア) で事業を行う場合に関係しており、該当企業の利得は他方の締約国 (例:オーストラリア) で課税されるが、当該恒久的施設に帰せられる部分に対してのみが課税される。
 日豪新租税条約の第7条は、以下の点でOECDモデルの事業所得条項からのオーストラリアの逸脱を反映している。
* 恒久的施設が存在する締約国の国内法(例えば、オーストラリアの価格移転規則)が当該条項の原則に従って納税義務の判定に適用されることがある。これは、当該恒久的施設に帰する利得の判定のための情報が不適当である場合に生じる。
* 保険からの所得の課税についてはそれぞれの締約国の国内法が継続して適用となる権利を両国が保持するとしている。オーストラリアの場合、この段落は、非居住による保険からの所得に関する規則 (Division 15 of Part III of the Income Tax Assessment Act 1936) の適用に影響を及ぼさないことを意味している。
* 新条約には、例えば日本の居住者である信託受益者がオーストラリアで行われる事業の利得の一部を有する状況を取り扱う条項が挿入されている。信託受託者が恒久的施設をオーストラリアに有しており、オーストラリアで受託者が行う事業は、日本の居住である信託受益者がオーストラリアで事業を恒久的施設を通じて行っているとみなされ、受益者が受ける部分の事業利得はオーストラリアの恒久的施設に帰するとされる。

(3)関連企業

 新条約第9条は、オーストラリアと日本の関連企業間の商業上または資金上の条件が、非関連企業間で相互に全く独立の立場で取引を行う企業間での条件と異なる場合、当該関連企業間の利得を独立企業間ベースで再配分することを認めている。
 企業の利得を決定するために入手できる情報が十分でない場合には、この条項の原則に従って、当該企業の納税義務の決定のために、オーストラリアと日本はそれぞれの国内法を適用する権利を有する。
 この条項に準拠して利得の分配がされ、一方の締約国の企業の利得が増額更正され、もし、再分配された当該利得が他方の締約国の関連企業において課税対象になる場合、二重課税が生じる。このような二重課税を防ぐため、利得の増額更正がこの条項の原則に従って一方の締約国で行われたことが満足できるならば、他方の締約国で対応的調整がなされる。
 オーストラリアが締約した租税条約で初めて、第9条に追加の条項が挿入され両国による移転価格更正処分の期間が制限された。企業の利得として更正の対象となったとみられる利得に係わる課税年度終了時から7年以内に当該企業の利得に対する調査を開始しない場合、当該利得は再配分されることはできない。当該企業による作為または不作為があった場合にはこの一般規定は適用されない。
 さらに、オーストラリアと日本に係わる企業にとって新たな審査期間の制限は、両国の税務当局による移転価格更正が行われる期間についてより大きな確実性が提供されたので、朗報である。
 しかし、既に調査が開始された移転価格のカスについては、過去の記録の保管や移転価格の問題を解決する期間などの現行の実務および管理上の問題が依然として残る。
新租税条約に付属している交換公文はオーストラリアと日本はOECD移転価格ガイドラインに従って、移転価格の調査および事前価格取決めの申請を審査すべきであることを明確にしている。国内の移転価格税制規定は、OECD移転価格ガイドラインと整合的である限りにおいて、移転価格問題の解決に適用される。
(4)譲渡所得
第13条では、オーストラリアに在る不動産の譲渡から生じる収益に対する課税権は、オーストラリアが有するとしている。この条項は、例えば日本の投資家が法人の株式または組合、信託そのほかの団体の持分を譲渡し、当該信託そのほかの団体の資産価値の50%以上がオーストラリアにある不動産により直接または間接に構成される場合にも適用される。
 オーストラリアにおいては、これらの条項は、非居住者に対するオーストラリア・キャピタルゲイン税規定に関する最近の改正 (2006年12月12日 に勅裁を受けたTax Laws Amendment (2006 Measures No.4) Act 2006に含まれている) に助長されている。概してこの改正は、オーストラリア・キャピタルゲイン税 (CGT) の対象をオーストラリアにある不動産に制限しているが、キャピタルゲイン税規定の範囲をオーストラリアにある不動産における間接持分に拡大している。
 新日豪条約では、「不動産」の定義は問題の資産が存在する締約国が定める法令の定義としている。以下は新条約下で「不動産」に含まれるものである。
*土地の賃貸そのほかの土地またはその上に存する全ての権益 (土地が改良されているか否かを問わない)
*不動産に付随する財産
*不動産に関する一般法の規定の適用がある権利
*不動産用益権
*鉱石、石油、天然ガスそのほかの天然資源を探査する権利及びこれらを採取する権利
* 鉱山、油田、ガス田、採石場そのほかの天然資源を採取し、もしくは開発する場所の開発もしくはこれらの場所を探査し、もしくは開発する権利の対価として支払金またはこれらの開発もしくは権利に関する支払金を受領する権利(支払金が変動性であるか固定性であるかを問わない)
 船舶および航空機は不動産とはみなさない。
 オーストラリアが最近締約している諸租税条約と異なり、日豪新租税条約の第13条には第3項が挿入されており、例えばオーストラリア居住者が日本居住法人の株式を譲渡し、CGT免除に該当する場合にこの第3項が適用される。もし当該オーストラリア居住者が当該日本法人の株式を25%以上有し、かつ、当該日本法人の発行済株式の総数5%以上を譲渡した場合、日本が課税権を有する。


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