現在の市場の状況が財務諸表に与える影響

税務会計最前線

KPMG会計事務所 
シニア・マネジャー 森部裕次


現在の市場の状況が財務諸表に与える影響


 最近、オーストラリアの金融市場の状況は劇的に変化している。株式市場の不安定さ、利率の上昇、継続的な流動性危機に加えて、豪ドルは米ドルに対して過去23年における最高値で取引されている。これらの市場の変化は、数多くの企業の財務諸表に対して広範囲にわたって影響を与える可能性がある。本稿では、影響を受ける可能性のある事項のうち、①資産の減損、②負債の分類、③現金および現金等価物、④金融商品の開示について説明する。


①資産の減損
 最近の市場状況の変化に起因し、まず考えられるのが減損の可能性である。オーストラリアの会計基準では、金融資産および非金融資産の両方について減損しているかどうか評価することを要求している。
a. 非金融資産
 耐用年数が不確定である無形資産、未使用の無形資産およびのれんについて、年次ベースでの減損評価が必要となる。また、そのほかの非金融資産については、貸借対照表日において資産が減損している可能性を示す兆候について確認し、兆候が存在する場合、資産の回収可能価額を見積もることが必要である。これらの評価の結果、認識される減損損失(帳簿価額と回収可能価額の差額)は、損益計算書で認識される。
 減損会計の導入以降、オーストラリアおよび海外の経済状況は概ね好調であったため、多くの企業は、のれんおよびそのほかの無形資産の帳簿価額は、過去の会計期間における減損テストにより裏付けられてきたかもしれない。また、そのほかの非金融資産に関しては、企業は減損の兆候がないという主張を裏付ける証拠をより簡単に提供できたかもしれない。しかしながら、現在の市場環境を鑑みると、過去の減損テストにおいて適用した主張に対して、再考が必要となるかもしれない。さらに、市場変化による影響を分析することなく、減損の兆候がないという証拠を提供できない可能性があることに留意する必要がある。
b.金融資産
金融資産については、償却原価(債権、貸付金または満期保有資産)または公正価値(売却可能資産)で測定された金融資産が減損しているという明確な証拠が存在するかどうかについて、貸借対照表日に評価することを要求している。金融資産が減損しているという明確な証拠がある場合、企業は回収可能価額を見積もらなければならない。
 最近の市場状況下において、第1に、市場状況の変化が発行者または債務者の支払能力に影響を与えるかどうかを評価する必要がある。単に公正価値が帳簿価額を下回っているということだけで減損の明確な証拠があるということにはならない。例えば、利付証券に関して、公正価値の減少が市場金利の上昇にのみ起因している場合、減損していると認められない。しかしながら、発行者が財務的困難に陥っている場合、帳簿価額を下回る公正価値の下落は減損損失として認識される。
第2に、最近の株式市場の変動を考えると、株式投資(関連会社、ジョイント・ベンチャーおよび子会社株式を除く)をしている企業は、株式の減損について特に慎重に評価する必要がある。株式等の金融商品は、取得原価を下回る公正価値の重大な下落のある場合、または、長期にわたり公正価値が取得原価を下回っている場合に減損を認識する必要がある。オーストラリアの会計基準上、何が「重大な」および「長期」と考えられるのかについて詳細に規定していないが、市場性のある株式の場合、一般的に、取得原価からの下落率が20%を超える場合に「重大な」下落と考えられ、また、9カ月間継続する市場価値の下落を「長期」の下落と考えられるであろう。
②負債の分類
 貸借対照表日後、少なくとも12カ月間、負債の決済を繰延べることのできる無条件の権利を有していない場合は、支払うべき金額を流動負債として分類する必要がある。
 企業によっては現在の市場状況により財務制限条項に抵触し、いつでも借入金を貸手の請求次第返済しなければならないという状況にあるかもしれない。このような借入金は流動負債として分類する必要があるため、財務制限条項付きの借入金などを有する企業は、抵触の有無を確かめるために契約条項を再確認する必要がある。
 また、毎年返済を延期しており、実質的に長期化している短期の借入金についても流動負債に分類される。仮に過去に借入金の決済を延期しており、今後も同様に延期させる意図があるとしても、契約上貸借対照表日後12カ月以内に支払期限が到来する場合は、流動負債として分類する必要がある。
③現金および現金等価物
 最近の非流動的な市場の状況は、現金および現金等価物の分類に影響を与える可能性がある。現金等価物は「ただちに同額の現金に転換可能であり、価値変動リスクが重要でない、短期の流動性の高い投資」として定義される。
 以前に現金等価物として分類されていた投資の中には、もはやこの定義を満たさないものがある可能性がある。例えば、信用格付機関により格付けが引き下げられたMMFや類似の現金等価物ファンドが、目下、重要な価値変動リスクに晒されているかもしれないし、それゆえにもはや現金等価物の定義に合わないかもしれない。
④金融商品の開示
 2007年1月1日開始事業年度から、金融商品の開示に関してオーストラリア会計基準審議会基準書(以下、「AASB」)第7号「金融商品: 開示」が適用されている。AASB第7号は金融商品に関するすべての開示規定をまとめたものであり、その内容を要約すると以下の通りである
1. 金融商品の重要性
   ・貸借対照表の開示
   ・損益計算書および株主持分変動計算書上の開示
   ・会計方針、ヘッジ会計および公正  価値に関する開示
2. 金融商品から生じるリスクの性質と程度に関する開示
   ・ 定性的開示
   ・ 定量的開示
 AASB第7号については、ほとんどの企業において既に導入ずみと思われるが、最近の金融市場の不安定さにより金融商品に関するリスク開示の重要性は一層増加している。
 現在の市場状況の変化により、企業によっては、現在の開示内容を拡大または修正する必要があるかもしれない。例えば、リスクの定量的開示に関して、従来リスクが重要でなく開示を省略していたリスクについて、市場状況の変化により新たに開示が必要となる可能性がある。 また、前述の財務制限条項について契約違反または債務不履行があった場合は、貸借対照表日に存在する借入金に関する追加的な開示が要求されることも留意されたい。
その他の影響
 市場状況の変化は、上記に挙げた項目以外にも財務諸表に対して広範囲に影響を及ぼす可能性がある。紙面の都合で詳しく説明できないが、財務諸表作成者は以下の事項についても十分に留意する必要がある。
・ 税効果会計―例えば、繰延税金資産を認識する企業は、将来課税所得が発生するかどうか決定する際に適用されている仮定を再度検討する必要があるかもしれない。
・ ヘッジ会計―例えば、企業はもともと特定されたものとして存在する予定取引の可能性を再度検討する必要があるかもしれない。
・ ゴーイング・コンサーン―最近の市場状況の変化は、最悪の場合、会計におけるゴーイング・コンサーンの前提に疑問をもたらすかもしれない。
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