第27回 土用

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 ご機嫌いかがですか、れんです。
 シドニーはまさに冬真っ盛りですね。寒さが動きを幾分鈍くしてしまうのがこの季節の難点の1つで、それに抗って行動するには本当に強い意志が必要です。
 朝、目を覚まして布団から出る、たったそれだけのことなのに幾度の決心とどれだけの勇気が必要なことでしょう。爽やかな夏の朝でも大変なのに、今のこの時季、温かい布団に護られた自らを、例え少しの間でも冷気に晒す勇気を振り絞るのは至難の業です。毎朝目覚めとともに修行に突入するのと同じですから、苦難を乗り越えるための人格形成などにはいいのかもしれませんが、なかなかその域まで到達しない私としては本当に冬場は大変です。
 寒いシドニーとは逆に、暑い日本の7月のテーマの1つと言えば「土用(どよう)」です。土用は五行説(古代中国の思想で、万物は木、火、土、金、水の5つの元素からなるという説)による季節の分類の1つで、それぞれの季節の終わりの18日(19日のこともある)間のことです。日本では国立天文台が土用の入りを発表しています。
 季節ごとですから本来は年に4回あるのですが、一般的には夏の土用がよく取り上げられ、この期間の丑(うし)の日に鰻を食べるのが行事のようになっています(18日の間には丑の日が2度回ってくることがあり、2度目を「二の丑」と言う)。ちなみに今年は7月26日(月曜日)が土用の丑の日です。
 子どものころ、「土曜の牛の日」なんだから、食べるならすき焼きの方がいいのに、どうして週末でもないのに「ドヨウ」だと言って「鰻」なんか食べるのか、不思議に思ったことがありました。今考えると恥ずかしい限りですが、きっと同じように勘違いしていた方はおられるだろうと思います。
 この習慣の由来には諸説ありますが、江戸時代の天才学者である平賀源内がその発案者だという説が有名のようです。夏の間の売り上げが芳しくなかった鰻屋から相談を受けた源内が、巷で「丑の日に『う』のつく物を食べると夏バテしない」と言われていたのをヒントにして『本日土用丑の日』というキャッチ・コピーを作ります。それを鰻屋が店先に貼ったところたいそう儲かったので、ほかの店もそれを真似するようになり、次第に定着したというようなことが「明和誌」(1822年、青山白峰著)に書いてあるそうです。
 確かに鰻を食べると精がつくので夏バテ防止には効果的だと思いますが、そんな話を聞くと、バレンタイン・デーやホワイト・デーに、チョコレートだクッキーだと言って振り回されている日本人は、昔も今も変わらないのだなあと、何だかとても微笑ましく感じられますね。
 さて、では作品にご注目ください。今月の作品には木簡調を組み込んでみました。「土」の「十」を太めに潰して最終画の「一」を細く長くとる形は私のお気に入りです。そしてその最終画の幅から「用」の絞ったウエストに自然にスッと繋がるように全体の形を作りました。「用」の1画目の終筆を大きな動きで跳ね上げることによって、全体に軽快感を与えてあります。
 木簡(もっかん)や竹簡(ちっかん)は紙のない時代に木や竹の板に文字を記したものですが、このころの書体は形式美を追求しているわけでもないので非常に大らかだし、線もとても開放的で、書をやるには非常に有用です。それで私の書道教室では必ずこれをお稽古していただくのですが、皆さんここを通過するととても伸び伸びとした線を引くようになるんです。
 書道なんて肩が凝りそう、と先入観を持っておられる方にはぜひ1度筆を持っていただきたいと思います。凝り固まった頭を柔らかくしたい方、ストレスを和らげたい方、そんな方にも書は本当に有効なのです。


著者プロフィル
れん(書家)。アーティストとして永住権を取得。シドニー市内「東」「四季」「誠」「だるま」「霞」「iiza」の各レストランに作品を常設。Government Houseでの企画展参加をはじめ、日豪両国およびドバイで個展・グループ展を多数開催。NSW 州立美術館やChannel 7、在豪日本大使館の招聘によるキャンベラ「燈籠祭り」、在オークランド総領事館の招聘による「JAPAN DAY」での大書パフォーマンスも。書団れん倶楽部主宰。書道教室運営(稽古は平日午前・土曜午後)。
Web: renclub.net
Email: renclub@gmail.com
動画Web: uk.youtube.com/user/renclub

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