第5回 古代エジプト、その眩しき文明

地球はやっぱり青かった!

絵本作家・森本順子氏がPEACEBOATで巡った世界1周の船旅の記録
文・イラスト・題字=森本順子

第5回 古代エジプト、その眩しき文明

 それは、われわれが分乗する20数台ものバス列の前後を、銃携帯のツーリスト・ポリスのジープが警護するという、物々しいコンボイを組んでの出発。礫砂漠を西に向かって片道約350キロ。いくつもの検問所を抜け、ようやくナイル川に臨む巨大石造建築群のルクソール遺跡を訪ねた旅。
 そして、またもコンボイを組んで、地中海側のポートサイド港から4時間かけてカイロに入り、あの、あまりにも有名なギザの3大ピラミッドやスフィンクスを目の当たりにし、胸が打ち震えた貴重な旅。
 過去、書物やテレビの映像で、想像を膨らましていただけの世界的歴史遺産が、今、眼前にある。私が、それらを見上げて立ち尽くしている ! この幸運に感謝。
 四角推、底辺230メートル、高さ137メートル。サイコロ状の石群は、釘もボルトも、ましてや接着剤のセメントなどあろうはずもないのに、正確に段積みされ、厳然と屹立し、碧天を突く。
クフ王、カフラー王、メンカフラー王、三基の巨大墓…
 物理的、科学的、その上高邁な芸術性さえ備えた、内部の構造や壁画など、今からおよそ4500年あまりも昔の建造物であるとは、容易に信じ難い文明度がそこにある驚きと畏敬。
「エジプト考古学博物館」で見た、ツタンカーメンの黄金マスクや、豪華で緻密な副葬品等々を見ると、当時の王たちの持つ絶大な権力、支配力に加え、王を神格化し崇めた、民衆の心、多大なエネルギーと努力があってこそ成し得た業であろうことが想像される。
 ピラミッド正面に位置する人面獅子身のスフィンクスも、支配者である王のシンボルとして設けられた巨大彫像である。惜しむらくは、その鼻が欠け落ちて、いささか威厳を損なって見えるが、これには伝説的理由があって、なんでも、かのナポレオンがエジプトを攻略した際、おろかな兵士が余った砲弾を撃ち込んだのだとか。この伝説的理由で、ナポレオンの悪名はこのスフィンクスが健在な限り、この先何千年も語り継がれるに違いない。
ラクダがいる。当然のことながら、野生ではない
 ひと瘤ラクダの背に賑やかな織り布を敷いた椅子に観光客を乗せたり、ピラミッドを背景にカメラのモデルになったりで、稼いでいる。もちろん、そこには白い民族衣装の長いワンピース(?)をまとった抜け目の無さそうな髭面の男がタズナを握り、うるさく客引きをしている。
 値段は交渉次第。「千円、せんえん」などと、骨ばった人差し指を立てられると、なんとなく通じた気分になる。乗ってしまって、ちらちらーとそこら辺を回っただけで、改めてふっ掛けてくるのもいるらしい。ラクダの不思議な乗り心地の良さは、以前、オーストラリア内陸部を縦断した旅で体験ずみゆえ、遠慮。
 テント張りの土産物屋がずらり。木彫や石像、プラスチックなどの大小さまざまなサイズのピラミッド、スフィンクス…。そして、エジプト独特のほっそりとした猫像は、大きな耳を立て、尖った顔でシャンと姿勢を正し、威厳を備えて押し並んでいる(ちなみに、エジプトでは古代、猫は高貴な生き物とされていた由)。
 猫好きの私は、現地マネーを残したくないので、2つだけ買おうとしたら、なんと4つも新聞紙に包みながら、4本指を立てるではないか。「いらん、いらん」と手を振りながら去りかけたら、ヤイヤイ言いながら大中小3点セットの小さなピラミッドまで包み込んだ。それはどうやらオマケらしい。「そうなら、まあええか」。欲にかられて石の猫4つにこれまたピラミッドのセットどもが帰船するまでのお荷物となってしまった。
 またも4時間あまりのコンボイの列。灯りを消したバスの中は、喋る者1人とてない。スヤスヤうたた寝の集団である。
満艦飾のように明るい電球が並ぶデッキ
 そして船窓の明かりの温もりに、「ああやっと我が家に帰った…」。重い足でタラップを上りながら、安堵に似た思い。
 遅い夕食の後は、さっさとキャビンに戻って、熱いシャワーで旅に疲れた五体をほぐす。感動のあれこれを書き記しておくゲンキもない。早々とベッド入り。明日はいよいよ憧れのエーゲ海かと思ううちに、いつしか眠りに落ちていた。

古代エジプト、その眩しき文明

PROFILE もりもとじゅんこ◎
1932年3月31日生まれ、広島市出身。シドニー在住。45年8月6日13歳の時、広島市で被爆。82年50歳でオーストラリアへ移住。著者自らの被爆体験を描いた英語版絵本「My Hiroshima」ほか、日本民話の英語版絵本「鶴の恩返し(The White Crane)」「一寸法師(The Inch Boy)」「わらしべ長者(A peace of straw)」「なめとこ山の熊(Kojurou and The Bears)」「仁王とどっこい(The Tow Bullies)」など著書多数。84年から4年連続で豪州児童図書評議会賞を全国3位、2位、2位、1位受賞。97年と98年にNSW州児童文学賞およびオーストラリア児童図書評議会賞1位を受賞。

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