『ラ・ボエーム/La Boheme』

今月のシアター・レビュー
©Branco Gaica

Opera

ドイツを舞台にした期待の新プロダクション

『ラ・ボエーム/La Boheme』

プッチーニ作曲のオペラの中でも『蝶々夫人』と並び世界中で最も多く公演され、ここオーストラリアでも人気の高いオペラ『ラ・ボエーム』。若く貧しい恋人たちのロマンチックなストーリーにプッチーニの甘く切ない旋律が散りばめられた名作だ。

その原作は、1930年ころのパリのボヘミアンを描いたアンリ・メェルジェ作『ボヘミアンの生活風景』。芸術家たちが集うパリの裏通りにひっそりと暮らすお針子のミミが主人公で、胸を患う病の身であるミミが恋人のために身を引きやがて息絶える、その短い恋物語だ。『ラ・ボエーム』はまた、いずれも悲劇に終わる女性を描いた『トスカ』『蝶々夫人』と並ぶプッチーニの代表的な作品でもある。

オペラ・オーストラリア公演の作品は、ハリウッドで映画監督としても名を馳せるバズ・ラーマンなど名だたる演出家によって制作されたことでも知られているが、今回の公演では再び新たなプロダクション・チームが制作にあたるとあって前評判から高かった。

演出はアメリカ人の著名な舞台演出家、ゲイル・エドワーズ。オペラやミュージカルなどで世界的に活躍する演出家として知られている。オペラ・オーストラリア作品では『マノン・レスコー』『魔笛』『スウイーニ・トッド』の演出を手がけたことも。

エドワーズ演出による『ラ・ボエーム』は舞台をパリからベルリンへ移し、当時の華やかなキャバレーの世界を描いている。ブライアン・トンプソンによる舞台セットがひと幕ごとにガラリと雰囲気を変え、とても印象的。

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第1幕は、4人のボヘミアンが住み、芸術活動をする八角形の倉庫のようながらんとした広い部屋。貧しい芸術家たちにはストーブに燃やす薪もなく、さむざむとした空間だ。2幕では舞台が1回転して、カラフルなカフェ・モマスに変わる。カフェの前では子どもたちが騒ぎフェスティバルが行われている。そのカフェはキャバレー劇場であり、トップレスの娼婦もいる大人の世界。

3幕では警察の管理が厳しい検問所となり、4幕では北斎の絵を思わせる巨大な波が壁に描かれたボヘミアンの住居へと戻る。

永遠のラブ・ストーリーを再現する若手オペラ歌手には、主役のミミにアメリカ人ソプラノ歌手、タケシャ・メシェ・キザール(Takesha Meshe Kizart)。ロック歌手、ティナ・ターナーを大叔母にもつ音楽家系出身であり、若手ソプラノ歌手として注目されている人物だ。か弱いながらも芯の強いミミを、透き通るような声で声量たっぷりと表現する。

恋人のロドルフォは韓国人のテノール歌手、ジ=ミン・パク(JI-Min Park)が演じる。愛しながらも別れなくてはならないロドルフォを甘く切なく表現する。韓国とウィーンの音楽学校で学び、昨年はロンドンのコベント・ガーデンで演じた歌手であり、今作で初のオペラ・オーストラリア公演を飾る。

歌姫のムゼッタには、オーストラリア人ソプラノ歌手、タリン・フィービッグ(Taryn Fiebig)。持ち前の声量と演技で役柄をカラフルに演じる。

青春を賛歌するオペラとあって作中は美しいアリアが目立つが、第1幕最後の愛の二重唱や第3幕最後の四重唱も聞きどころである。

エドワーズ演出によるプロダクションは芸術性と創造性に富み、『ラ・ボエーム』の新たな楽しみ方ともいえる魅力を引き出してくれたように思う。10月24日までの長期公演のため、歌手は2〜3交代するのでプログラムを参照されたい。

 

information
歌:イタリア語英文字幕付
公演時間:20分の休憩1回を含む2時間10分
▼会場:Opea Theatre, Opera House
▼日程:8月3・6・9・12・20・23・26日、9月1・3・6・8・14・17日、マチネ19・22・28日、10月1日、マチネ6・8・12・14・18・24日
▼料金:$89〜297
▼予約Tel: (02)9318-8200
Web: www.opera-australia.org.au


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Theatre

延命の是非を問う意欲的な最新作

『アット・エニー・コスト?
 /At Any Cost?』

「オーストラリアにおける医療予算の75%は患者が死亡するまでの6カ月間、42%が死の直前の1カ月間に使われる。60歳以上の1人の国民を支えるのは2.5人の納税者。たとえ国民1人が5万ドルの税金を払ったとしてもICU(Intensive Care Unit−集中治療室)の1週間分の治療費にしか値しない。その莫大な費用を要するICUが、いまや回復見込みのない患者のホスピスになりつつある。延命とはそこまでしなくてはならないものなのか?」−−。ICUのディレクターであり医学大学教授でもある外科医アリ・シャリフ(Daniel Mitchell) は、1つの家庭のドラマを通して「延命」について学生たちに問う。

数年前に脳卒中で倒れて重度の後遺症をもつ女性、フェイスの症状が悪化してICUに入院するところから物語は始まる。

妻であり母である彼女の治療にはかなりの苦痛が伴う。夫のデス(Martin Voughan)は妻の治療を続けたいと願う。彼女の命を絶つことなど考えられない。成人した3人の子どものうち、長女のケイト(Kate Raison)は、母の延命に反対。次女のミーガン(Tracy Mann)は、ケイトほどではないが母が苦しむ姿を見て延命治療に疑問を抱く。長男のマックス(Tyler Coppin) は、父の気持ちに同情的で、あえて自分の意見を言わない。

シャリフ外科医は、フェイスが回復したとしても重度の後遺症状態にしか戻らないと延命措置に否定的であり、家族に話し合うように勧める。父と3人の子どもたちが話し合いを進めるにつれて、家族の長年の秘密や金銭的な問題も表面化。この4人の異なる性格、生活環境、考え方が、時には家族を分裂状態にし、時には結束を促し、延命を巡る家族の葛藤が描かれる。

「延命をするかしないかは患者の状態、家族の意見、医師側の意見の3側面が関わる。患者をケアする人たちの意見と、患者にとって何がベストなのか、その2つに違いがあることが多い」と、学生たちに教え語るシャリフ外科医の言葉が重い。

『At Any Cost?』はオーストラリア人の劇作家デービッド・ウイリアムソンの最新作であり、モハメッド・カドラ医学博士との共同作品でもある。医師として医療の現場に立つカドラ医学博士による医学界の現状を、ウイリアムソンがいかにもオーストラリアらしいリアルな登場人物を配して真っ向から舞台化した。アンサンブル劇場のディレクターであり、ウイリアムソンの劇を多く演出したことがあるサンドラ・ベイツが演出を担当。劇場を大学の講義室として、またICUの治療室として、巧妙に活用した。

誰もが1度は向き合う家族の死、そして倫理的な問題も絡み合う延命措置の是非というシリアスな題材をユーモアを取り入れながら描いた、観客に考えさせる余韻を残す秀作だ。

 

information
▼会場:Ensemble Theatre
▼日程:開催中〜9月3日※時間は日によって異なるのでウェブサイトを確認
▼料金: $27〜67
▼予約Tel: (02)9929-0644
Web: www.ensemble.com.au

 

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