森歩きの楽しみ⑥ サッサフラス

タスマニア再発見

No.134 森歩きの楽しみ⑥ サッサフラス
文=千々岩健一郎

サラマンカの土曜マーケットでタスマニアらしさを感じるのは、さまざまな形に加工した木工品の店。いずれもタスマニアの森で育った銘木を材料にした物だが、その中に灰色の黒い縞(しま)模様を持った特異な材質のお皿やお盆などが目に付く。これがサッサフラス(Atherosperma moschatum)だ。明るいグレーの木質部に、ある種のカビが創り出す独特の模様が付いているのが大きな特徴で、「ブラックハート・サッサフラス」と呼ばれ、家具や内装用の木材の商品名になっている。模様はその材料ごとに全て異なるため、それぞれ風合いの異なった作品として個性を発揮するわけだ。

サッサフラスは湿った森を好んで生育する樹木。今までに取り上げたレインフォレストや湿ったユーカリの森で、かつ比較的標高の低い所にある森であれば普通に見られ、大きな物では高さが40メートル以上に達する。際立つ特徴は、タスマニアの森では珍しい照葉樹のような照りのあるきれいな緑色の葉を持っていること、そしてこの葉っぱに特有の芳香があることだ。ものの本によれば、ハーブのサルサパリラに似た香りとある。ハイキングの途中でくしゃくしゃと手で揉んで嗅いでみると一気に疲れが吹き飛んでしまうような爽やかな感じが楽しめるのだ。一説によると、昔の人はこの葉っぱを煎じて飲んだという話もあるが、どうもこれは眉唾で、あまり体には良くないらしい。

サッサフラスの花
サッサフラスの花

今年は少し季節が過ぎてしまったが、サッサフラスは毎年9~10月にかけて多数の花を付ける。高さのある木なので花の咲く様子を間近に観察するのは難しいが、春先のシーズンは森歩きをしているトラック上に8弁の花がそのままの形で落ちているのを発見して、この木があることに気付かされる。

10月初めに歩いたタスマニア北部のデロレーンの近くにあるリッフィー滝(LiffyFalls)の森で、無数の花が落ちているのに出合った。見上げるとかなりの大木で、花の咲いている所まではとても見られなかった。日当たりの悪い湿った森の中はもともと花は少ないのだけれど、春先のこの季節に可憐な花を付けるサッサフラスの存在は貴重なものである。

マウント・フィールド国立公園のラッセル滝のウォークでも簡単に見つかる。セントクレア湖のエコー・ポイントとナルシサス・ベイを結ぶ湖畔ウォークの途中にはサッサフラスだけが集まった立派な森がある。


千々岩 健一郎
1990年からタスマニア在住。1995年より旅行サービス会社AJPRの代表として、タスマニアを日本語で案内する事業の運営を行うと共に、ネイチャー・ガイドとして活躍。2014年代表を離れたがタスマニア案内人を任じて各種のツアーやメディアのコーディネートなどを手掛けている。北海道大学農学部出身。

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