タスマニア蕎麦

タスマニア再発見

No.137 タスマニア蕎麦
文=千々岩健一郎

2年前の2月25日、タスマニア中東部の古い町オートランドで初めてのタスマニア蕎麦(そば)フェスティバルが開催された。日本から白鳥製粉さん率いる蕎麦職人や手打ち名人のグループがやって来て、タスマニアで生産された蕎麦を目の前で挽き、手打ちで仕上げ、揚げたての海老天と共に提供、併せて日本の文化もいろいろと紹介するという催しであった。

タスマニアで栽培される蕎麦の花畑
タスマニアで栽培される蕎麦の花畑

オートランドの復元されたキャリントン・ミルがその舞台。会場はホバートから1時間も離れていることから、どのくらいの人が訪問するか心配されたが、当初予定の300人分の無料試食チケットは瞬く間になくなり、最終的に1,500人もの人々が訪れるという大盛況の催しとなった。

既にご存じの方も多いかと思うが、タスマニアでの蕎麦の栽培は、千葉県にある白鳥製粉の白鳥理一郎さんが1980年代の半ば頃から取り組みを始めたものだ。季節が逆の南半球で生産すれば手打ち蕎麦の季節に香り豊かな新蕎麦が食べられるというのが狙い。この取り組みはサザンクロス計画と名付けられて、タスマニア農水省の協力を得ながら進められた。

播種(はしゅ)の時期や種子の選定など各種の実験が進められた結果、87年の8月に日本の市場に通用する最初の蕎麦が海を渡り、以降、タスマニアの契約農家の協力を得て毎年このタスマニアで蕎麦が生産されることになったのだ。

オートランドでの蕎麦フェスティバルが2月の終わりに開催されたのには理由がある。ちょうど2月末から3月初めが蕎麦の開花時期にあたるのだ。

この時期タスマニア北部の農業地域を走っていると広大な白い花畑に出くわすことがある。蕎麦は穀物だが米や麦のようなイネ科単子葉の植物ではなくタデ科双子葉植物なので、少し見栄えの異なる美しい花畑になる。通常は白い色だが、白鳥さんのお話では最近ヒマラヤで発見されたピンク色の品種も植えられているそうだ。

このタスマニア蕎麦は収穫された後に全て玄蕎麦のままで日本に送られる。一旦粉にしてしまうと香りがなくなってしまうためだ。従って通常タスマニアに住んでいる私どもの口には入らない。オートランドで開催されたフェスティバルは、タスマニア蕎麦の味を地元の人に何とか味わってもらいたいとの白鳥さんの熱意で開催されたもの。タスマニア在住の我々としては、次の蕎麦フェスティバルがいつどこで開催されるか楽しみに待っているところだ。


千々岩 健一郎(ちぢわけんいちろう)プロフィル
1990年からタスマニア在住。1995年より旅行サービス会社AJPRの代表として、タスマニアを日本語で案内する事業の運営を行うと共に、ネイチャー・ガイドとして活躍。2014年代表を離れたがタスマニア案内人を任じて各種のツアーやメディアのコーディネートなどを手掛けている。北海道大学農学部出身。

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