ヴィンテージ(収穫年)

ベン・ホルトの豪州ワイン物語

ベン・ホルトの豪州ワイン物語

ヴィンテージ(収穫年)

「1998年の赤ワインは見事なでき栄えだ」「2002年のエデン・バレーのリースリングは素晴らしい」。そんな風に、いついつはシラーズの年だった、あるいは、セミヨンの出来が良い年だったなどと、よく耳にすることがあると思う。しかし、どうしてヴィンテージ(収穫の年)によってそんなに違いが出るのだろう。ブドウはブドウではないのだろうか。

ブドウ栽培というのは、常に自然との「戦い」。いや、たいていの栽培者にとって自然との「深い関わり」だ。つまり、自然を制御することはまず不可能で、大自然とともにワインを醸すと言ってもよいだろう。

オーストラリア大陸は広く、同じ栽培環境は2つとない。皆さんご存知の通り、天候の気まぐれで、ある場所で洪水が起こっているかと思えば、別の所では山火事、さらに違う場所では降雪が、同じ日に起こることもあり得る。よって、その年の収穫が「過去最高」や「至高」などと断言するのは、実は非常に勇気が必要で、現実は偉大な自然と向き合いつつうまくいくことを願うだけだ。

ブドウ栽培者は、各種のブドウが最高の状態で熟すように、あらゆる技術と道具を用いる。例えば、土の種類の選択と点滴灌漑(かんがい)で水の量を、傾斜や海抜を考慮した土地の選択と葉の量の加減でブドウに当たる日光の量を調節する。また土が肥え過ぎていたり水量が多過ぎたりすれば、房を切り落として少数の房に味を凝縮させたりすることもある。

しかし、本当に栽培者の腕が試されるのは、大きな天候の変化が発生した時だ。例えば、1月末のハンター・バレーで起こったような短時間内の豪雨。このような場合、ブドウが水分を過剰に吸収して実が割れ、腐敗してしまう恐れが生じる。また、世界でも1、2を争う乾燥地帯に属するオーストラリアでは、長期に及ぶ乾燥気象が頻発する。その結果、SA州などでは、房や実が小さく、皮が厚いブドウができやすい。そしてそれらのブドウから作られるワインは、「ハード」(過剰のタンニン)か「ドライ」(ブドウ糖の不足)になることもあるが、うまくいけば味が凝縮された、濃厚で力強いものにもなる。

手ごろな価格で人気のメーカーは、消費者の期待に応える一定の質を通年で保つため、さまざまな地域のブドウを混ぜることで、年ごとの質のばらつきを押さえている。一方、自然に一番影響を受けやすいのは、決まったブドウ園(単一畑)からしか収穫を行わないワイナリーだ。

しかし、この年々違った表情を見せるところにこそワインの魅力はある。ブドウ栽培者は、自然の営みとともに最高のブドウを作るため試行錯誤し、そしてそのブドウはこのコラムで紹介するようなあらゆる方法で醸造され、ボトル詰めされ、楽しみに待つ消費者である皆さんの元に届けられる。


ベン・ホルト
◎ヒルトン・ワールドワイド・マーケティング統括本部長(日本・韓国・ミクロネシア地区担当)。QLD大学で文学修士(日本語と韓国語)ならびに科学修士を取得後、在豪日系企業などで食品輸出、商品取引、マーケティングに従事。2002年~07年にオーストラリア・ワイン事務局日本代表、12年5月までオーストラリア政府観光局日本地区マーケティング本部長を務めた後、現職。

Web: www.holt-blog.com
Twitter: Mr_Riesling
www.facebook.com/Ben.Holt.69
 

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