
妊娠期間中から知っておきたい!
授乳におけるセルフケア
「哺乳」は、赤ちゃんとママにとって初めての協働作業であり、大事な生命維持活動だ。これをどのように迎えるか、オーストラリアにいるからこそ知っておきたい授乳に関するセルフケアや知識を紹介する。
■記事監修=澁井祥子さん(母乳相談 Oya&Co/IBCLC® 国際認定ラクテーション・コンサルタント)
直接授乳*は、産前からのセルフケア知識が大事!
直接授乳はいつから始めるか?
答えは「出産した瞬間から」。経腟(けいちつ)分娩も帝王切開の場合も、できるだけ早く母子接触(Skin to Skin Contact)が勧められ、直接授乳の第1歩がスタートする。赤ちゃんの心身の安定や母体の回復だけでなく、母乳関連ホルモンにもメリットが多いためだ。
とはいえ、母乳が始めから溢れるように出る人はまれで、多くはじんわりにじむか、ポタリと出る程度。母乳がたくさん作られ、赤ちゃんが飲み取るためには早期の母子接触に加え、産後すぐからの効果的な授乳姿勢や飲み方が必要となる。
産後の数日間は、おっぱいも赤ちゃんの様子も時間ごとに変化しやすく、その後の母乳育児をつかさどるゴールデン・タイム。施設によっては、出産後数時間~当日退院もあり得るオーストラリアでは、刻々と変化するおっぱいへの対応と赤ちゃんへの授乳方法のセルフケアが一層求められる。
ママのおっぱい、赤ちゃんの体、授乳リズムはリンクする!
次に産後のママのおっぱい、赤ちゃんの体、授乳リズムにおけるそれぞれの変化を以下の通り詳しく見ていく。
産後のママのおっぱい
おっぱいを吸う刺激がママの体に届くと、母乳関連ホルモンが働き母乳が産生され始め、乳房が張り出す。ホルモンの影響で一時的に張り過ぎることもあるが、徐々に赤ちゃんの哺乳(需要)と母乳産生(供給)のバランスが取れ、飲みたい分だけ作られるようになる。
一方、効果的に飲み取ってくれないと、刺激が届かず、母乳関連ホルモン値も低下しやすくなる。姿勢や飲ませ方によっては、乳頭に傷ができる「乳頭損傷」や「乳腺炎」などのおっぱいトラブルの原因にもなり得る。
赤ちゃんの体
赤ちゃんは生後数日で一時的に体重が減る(=生理的体重減少)。摂取量に比べ、排泄などで出る水分の方が多いためだ。哺乳ができてくると、生後2週目まで(WHO/UNICEF基準)には出生体重に戻る。出生体重や生まれた週数にもよるが、体重減少率*が7%を超えると、おっぱいを吸う体力への影響も心配される。眠りがちになり、哺乳に時間が掛かることもある。直接授乳の場合、効果的な姿勢で頻繁に飲ませられれば母乳産生量も増え、大幅な体重・体力低下が防げる上、授乳リズムも付きやすくなる。
授乳リズム
母乳の場合、生後数カ月間(特に生まれて間もない時期)は1日に8~10回以上飲ませたいところ。こまめに飲ませることで、赤ちゃんの胃の大きさや消化、母乳産生などとバランスを保つことができる。
母乳で育つ赤ちゃんの場合、頻繁に欲しがることがあるが、母乳は消化・吸収が早く、赤ちゃん自身で飲みたい量を調整できるため、欲しがる時に欲しがる分だけ、満足するまで飲ませてあげよう。
フォーミュラ*の場合、一定時間を空けると消化に負担が掛かりにくいが、1回に飲める量も哺乳欲も、毎回同じだとは限らないので、時間はあくまでも目安に。赤ちゃんの様子に合わせて調整してあげよう。

Q. 初めてしたうんちが緑色で心配です。
A. 驚かれる人が多いのですが、生まれたての赤ちゃんのうんちは、緑色や黒緑色をしています。哺乳し始めると、お腹の中にいた時の腸内環境から変化し、うんちの色が黄色や黄土色になります。うんちの色の変化は、飲めているかどうかの1つのサインにもなります。
Q. 効果的な直接授乳というのは、どのようにするのでしょうか?
A. 大きな口で、乳輪まで深く含んでもらう飲み方が効果的とされています。乳頭(乳首)に痛みや傷ができる場合、乳輪深くまで含んで、あごをしっかり動かして飲んでいるかチェックしてみてください。
Q. 直接授乳をしているのですが、母乳が足りているのか分かりません。
A. 直接授乳の場合、飲んでいる量が見えないため心配になる人もいるでしょう。赤ちゃんにとって母乳が足りているサインには、以下のような例が挙げられます。
- 元気で、皮膚の色も健康であり、授乳と授乳の間は、穏やかに満足している様子
- 授乳中、眠りがちではなく、途中でコクンと飲み込む音を立てながら飲み取っている
- 1日に6回以上、薄黄色のおしっこをする
- 生後4日目までに、うんちが黄色や黄土色になった。また、毎日うんちを出している(特に新生児期)
心配であれば、直接授乳の姿勢を見直すか、助産師やラクテーション・コンサルタントに相談すると安心でしょう。
Q. 母乳は誰でもあげられますか?
A. 赤ちゃんやママにとって、母乳を与えることで影響のある疾患や感染症がない限り、誰でもあげることができます。
Q. 乳腺炎とは、どのような症状ですか?
A. おっぱいトラブルの症状を把握しておくことは、赤ちゃんとママ自身を守るセルフケアの1つです。中でも、よくある相談が「乳腺炎」です。これは、授乳中のママなら誰でも起こる可能性がある一方、防げる症状でもあります。
疲労や母乳の飲み残しがあるなど複合的な要因が重なると、母乳が流れにくくなります。その後、「痛み」「赤み」「腫れやしこり」「悪寒」「発熱」などの症状が急に現れた場合、乳腺炎を疑うと良いでしょう。
乳腺炎には、以下の2種類あります。
うっ滞性乳腺炎
母乳が滞っている状態。頻繁な授乳や、母乳の流れを良くするなどの早期のケアで、外科治療なく軽快することが多い。
感染性乳腺炎
うっ滞性乳腺炎の症状に加え、乳頭の傷から細菌が入り、乳腺が感染した状態。飲み残しや傷ができやすい直接授乳の姿勢などが続くことで、乳腺炎を繰り返したり、初期治療が遅れたりすると炎症が再発しやすく、うみができる恐れがある。その場合、うみを直接注射針で抜くか、切開して出すケースもある。
乳腺炎は、効果的な直接授乳の姿勢を心掛けることで予防につながります。もし症状が現れた場合は、早めのケアによって悪化を防ぎましょう。
コラム:授乳は親子のコミュニケーション・タイム
唯一の栄養摂取源である授乳(母乳・フォーミュラ)を通し、赤ちゃんは日々、心と体を成長させていく。今回は哺乳方法に注目し、「肌と肌の触れ合う密着度=密着時間」を考えてみよう。
授乳は、赤ちゃんが他者に対し基本的な信頼感を獲得する時期に、1日何回×何カ月にも及ぶ。出産に1つとして同じストーリーがないように、授乳もママと赤ちゃんで作るオリジナルのものであり、正解はない。ボトル哺乳*やカップ/スプーン・フィーディング*が必要な場合も多いだろう。同じママでも、兄弟・姉妹によって異なる授乳方法の時もある。ただ、直接授乳以外の授乳方法でも、意識ひとつで肌と肌の触れ合う抱っこは可能だ。また、愛情ある抱っこで、パパも子どもと「触れ合い」を楽しめる。
授乳は、赤ちゃんとのコミュニケーションの1つ。どのような授乳方法であっても、子どもの温もりを感じられる抱っこを通し、心と体の成長・発達をサポートしながら、授乳コミュニケーションを楽しんで欲しい。
授乳関連用語
*直接授乳/直接母乳(Breastfeeding):おっぱいから直接、母乳を摂取する授乳方法。
*体重減少率:【体重減少率=出生体重(グラム=g)-現在の体重(g)/出生体重(g)×100(%)】で計算できる。
*フォーミュラ:人工乳。粉ミルク。
*カップ/スプーン・フィーディング/ボトル哺乳:コップやスプーン、哺乳瓶を使う哺乳方法。
出産前から知っておきたい!
センターリンクの補助内容
我が子の誕生を心待ちにする一方で、今後の子育てに一体幾らお金が掛かるのか不安に思う人もいるだろう。オーストラリアでは一定の要件を満たせば、市民権を持っていなくても、育児に関するさまざまな公的支援が受けられる。本記事では、社会保障サービスを提供する政府機関「センターリンク」で申請できる給付金や申請方法などの概要を紹介。子どもが生まれてから慌てないよう、出産前から準備しておこう。
※本記事の受給額や受給条件の情報は2019年5月末時点のもの。随時変更される可能性があるため、申請の際にはセンターリンクのウェブサイトで要確認。
Family Tax Benefit A
オーストラリアの永住権を持ち、0~19歳(16~19歳はフルタイムの学生のみ適用)の子どもを養育している保護者は、政府から子ども手当に相当する「Family Tax Benefit(FTB)」を受給できる。FTBはAとBの2種類ある。
FTB Aでは、子ども1人当たりに対し、2週間ごとに基準額(ベース・レート)の58.66ドルが支払われる。世帯収入や子どもの数に応じて受給額が変動するため、収入の多い家庭では受給額が基準額を下回る場合がある。受給方法は、①2週間に一度、②年度末に一括、③基準額を2週間ごとに受け取り残額を年度末に受け取る3通りあり、各自で選択が可能。
夫婦の収入を合わせた世帯年収(調整済み課税所得=adjusted taxable income)が5万3,728ドル未満の場合、最高で2週間ごとに0~12歳の子ども1人当たり182.84ドル、13~19歳のフルタイムの中高生1人当たり237.86ドルが上限として支給される可能性がある。
一方、世帯年収が5万3,728~9万4,316ドル(※19年7月から9万8,988ドル)の家庭は収入が1ドル上がるごとに20セント、9万4,316ドル(※同上)以上の家庭は30セントそれぞれ減額される。
また世帯年収が8万ドル以下の場合、年度末に追加給付金として「FTB A Supplement」が子ども1人当たり、最高で737.30ドルが支給される場合がある。こちらも、世帯収入や子どもの数などにより受給額が異なる他、子どもが定められた予防接種を受けていることや、4歳までの健康診断を受けていることなどが受給の条件となる。詳細はウェブサイトから計算するか、センターリンクへ問い合わせを。
Family Tax Benefit B
FTB Bは、シングル・ペアレントや両親のどちらかが就労していないなど、共働きでない世帯の支援を目的とした給付金。受給額は一番下の子どもの年齢や、世帯年収(メインとなる稼ぎ手の課税所得が10万ドル以上は受給対象外)に応じて変動するが、今年5月時点の最高額は、一番下の子どもの年齢が0~5歳であれば155.54ドル、5~18歳の場合は108.64ドル。なお、FTB Bは育児休暇手当の「Parental Leave Pay」(後述)が支払われている間は受給できない。
受給方法は、①2週間に一度、②年度末に一括の2通り。タックス・リターン後の収入状況の確定により、自動的に補足分としてFTB B Supplementが最高357.70ドルまで一括支給される。
FTBの受給資格
【共通項】
- 所得審査の条件を満たしている
- 子どもの世話を35%以上している
- オーストラリア国内に居住し、かつ市民権、永住権、特別カテゴリー・ビザ、サブクラス820/309などのパートナー・ビザを取得している
【FTB A】
- 0~15歳の子どもを養育している
- 16~19歳までのフルタイム学生を養育している
【FTB B】
- メインとなる収入が1つの家庭で、13歳以下の子どもを養育している
- シングル・ペアレント、実親でない保護者、両親がおらず祖父母が18歳以下の子どもを養育している
Parental Leave Pay
勤務形態にかかわらず、出産した日からさかのぼって13カ月の間に10カ月間(計330時間以上)、勤務期間中に8週間以上の休みを取らずに働いていた母親に給付される育児休暇手当。最長18週間、週719.35ドル(税引前)を受け取ることができる。
受給できるのは出産後だが、子どもが産まれる3カ月前から申請が可能なため、余裕を持って申請しよう。申請可能な期間は産後52週目までだが、最長18週間分の給付金を希望する場合、産後34週目までに申請が必要となる。
なお、同給付金は後述するDad and Partner Payと併せて受給できるが、Newborn Upfront Payment and Newborn Supplementを受給する場合は、受給対象外となるので注意。
Parental Leave Payの受給資格
- 昨年度末の調整済み課税所得が15万ドル以下
- Parental Leave Payを受給する時期に就労していない
Newborn Upfront Payment and Newborn Supplement
14年に廃止されたベビー・ボーナスに代わる出産一時金。Newborn Upfront Paymentは、新生児1人につき一括で550ドル受給できる。
Newborn Supplementは、子どもの数や世帯年収によって受給額が変動するが、初めての子どもには最高1,649.83ドル、2人目以降は最高550.55ドルが支払われる。FTB Aの受給資格があることや、同じ子どもに対してParental LeavePayを受給していないことなどが条件となる。
Dad and Partner Pay
新生児の父親またはパートナーが、無給で育児休暇を取った場合に申請することができる最低賃金が保障された補助。最大2週間、週719.35ドル(税引前)を受給できる。個人の課税所得が15万ドル以下であることや、申請前の13カ月間に10カ月(計330時間)以上働いていたことなどが受給条件となる。
Child Care Subsidy
18年7月にChild Care RebateとChild Care Benefitが廃止され、Child Care Subsidyに一本化された。チャイルド・ケアに掛かる費用は、1日当たり100~120ドル前後と家計に大きく負担となっているのが現状だ。同補助金は、直接各保育所へ支払われ、保育料から補助金を差し引いた額が各家庭へ請求される仕組み。少なくとも2週間で2日間または14%以上子どもの世話をしていること、認可された保育園に通っていることなどが条件となる。
給付金申請の流れ
各申請はセンターリンクを通じて行う。申請の際には、世帯収入、パートナーの在留資格、申請者とパートナーのタックス・ファイル・ナンバー(TFN)、銀行口座番号、またオーストラリア国外からの移住者であれば、パスポート番号やオーストラリアに住み始めた日などの情報も必要となるため、余裕を持って準備しておきたい。
申請はセンターリンクのオフィスへ直接行くか、センターリンクのウェブサイトから可能。オンライン申請の場合、基本的な流れは以下の通り。
Centrelink
Web: www.humanservices.gov.au/individuals/centrelink
- センターリンクのウェブサイトにアクセス
- 「myGov」アカウントにサインイン
- Make a claimからStart a new claimを選択
- Familiesのカテゴリーから申請項目を選択
- 質問事項に回答し、Submit
- 「myGov」のメール・ボックスをチェック
シドニーで出生により日本国籍を取得するには……
記事監修=在シドニー日本国総領事館

