シドニーFC 森安洋文選手

インタビュー
鹿島選手とボールを競り合う森安(中央)

諦めない気持ちがある限り

“試合”は終わらない

シドニーFC  森安洋文選手インタビュー

 

 サッカー・クラブのアジア王者を決めるアジア・チャンピオンズ・リーグ(以下ACL)の予選が、今たけなわだ。現在、豪プロ・リーグAリーグ唯一の日本人選手・森安洋文が所属するシドニーFC(以下・シドニー)は、予選H組で強豪相手に予選突破を虎視眈々と狙う。今やチームの主力として活躍する森安選手を、5月10日の鹿島アントラーズ戦を前に直撃した。(文中・敬称略)
取材=植松久隆(本紙サッカー特約記者) Photo by Moto/ Mega Expression Pty Ltd

 

鹿島で測る“現在地”
  昨季のAリーグを不本意な結果で終えた森安洋文(以下・森安)の所属するシドニーは、ACL予選をその鬱憤を晴らす場にするべく高いモチベーションで臨む。昨季のJリーグ王者・鹿島アントラーズ(以下・鹿島)や中・韓の強豪が同居したH組で、4戦消化の4月19日時点で水原三星(韓国)、鹿島の両チームに勝ち点差1の3位に着け、残り2試合の結果次第では予選通過の可能性も十分残る。
 3月の東日本大震災の影響で日程と会場に大幅な変更があり、急遽開催された4月13日のホームでの鹿島との対戦は、鹿島に「チームとしての質の違い」(森安)を見せつけられ、0-3と圧倒された。森安はこの試合に臨んだ心境を「母国・日本のチームで、しかも強豪の鹿島相手でかなりワクワクしていた」と語り、「日本屈指の選手と同じピッチに立てたのは良い経験」という試合後の感想には、敗戦の中にも得たものの大きさを感じさせる。
 「鹿島は、(チームとして)韓国や中国のチームの一歩先を行っている感じ。(具体的には?)チームとしての組織的な連動性。1つ2つのプレーで終わらない」と森安が語るその質
の違いは、彼のチームメイトも口をそろえていたという。「中盤、特に小笠原さんと野沢さんは上手かった」と鹿島の中盤の質の高さを認めつつ、その言葉の裏には、個人としては負けられないという自負心が覗いているように感じられた。
 さらに、森安は試合後に鹿島の複数の選手から「頑張れ」と声を掛けられたことを教えてくれた。これは、鹿島の選手が海外でプレーする“海外組”としての森安の存在を認め、その日の彼の働きが称賛に値するものであったことの証左であろう。
 4月13日に初めて肌を合わせたJリーグ選手との“距離感”、そしてそこで測った自らの“現在地”。次の5月10日の国立競技場での対戦では、進化した姿でさらなる活躍を見せるべく、森安は静かな闘志を燃やしている。

 

ロッカー室で実った “オージー・ドリーム”
  森安の豪州でのこれまでの経緯は、ワーキング・ホリデーから豪州のトップリーグAリーグの名門とのプロ契約を勝ち取ったサクセス・ストーリーとして捉えられる。それもあながち間違いではないが、彼の成功は、決して諦めない気持ちとたゆまぬ努力、それに少しだけの偶然に導かれたものだということも、きちんと理解しておく必要がある。
 森安は、サッカーを続けるかどうかというギリギリの状況で、なおかつ将来を心配する両親の強い反対を押し切って豪州にやって来た。幼少時の海外経験で英語を問題なく操る森安にとって、ビザ取得が簡単でサッカーのプロ・リーグがある英語圏の国は、豪州しかなかった。滞在地をシドニーに決めたのは、豪州で一番の大都市でカズこと三浦知良がプレーしていたシドニーFCの存在を知っていたという程度の、本人曰く「非常に安易」な選択の結果ではあった。それでも、「プロ・リーグがあること」を条件に入れていたあたりに、何とかこのラスト・チャンスに賭けようという決意が伺える。
 かくして森安は“約束の地”であるシドニーの地に降り立った。到着後すぐに、本人が言うところ「ほぼ飛び入り」の状態で受けた前所属APIAライカート(NSW州プレミアリーグ)の入団テストで、プレーの質の違いを見せるには、1日の練習で十分だった。「次の試合から頼む」のひと言で入団が決まり、入団後すぐに大車輪の活躍を見せ、その活躍ぶりがシドニーFCの目に留まる。
 誰もが羨むシドニーの練習参加のチャンスをつかんだ森安は、ここでもきっちりと結果を残し、イングランド・プレミア・リーグの名門エバートンとのプレ・シーズン・マッチのメンバー入りを果たす。その試合では、かつてのシドニーのエースでゲスト・プレーヤーとして参加していたドワイト・ヨークとの交代で出場を果たし活躍を見せた。
 そして、そのエバートン戦終了後のロッカー・ルームで「契約したい」とのオファーを監督から受け、森安の“オージー・ドリーム”が実ることになる。「その後、シャワーを浴びてから日本の両親に電話で報告したら、『良かったね』って180度態度が変わりましたね(笑)」と思い出しながら語る森安の声には、その時の興奮や歓喜の余韻が残っているように聞こえた。

 

気負わず臨む日本逆上陸
  コアなサッカー・ファンでない限り、シドニーFCをいまだに「カズが所属したチーム」として認識する人も多いだろう。実際、シドニーにもかつてカズとプレーをした経験のある選手が数人残っており、彼らは異口同音に彼の人間性とプロフェッショナリズムを賞賛しているという。かつて少年時代にはFWとしてプレーしていた森安自身にとっても、カズは憧れの選手であり、そんな憧れの選手がかつて所属したチームに在籍していることを「同じ日本人として、カズさんが判断基準になるのはハードルは高いけど、本当に光栄なこと」と語る。
 そんな森安は、来る5月10日にかつてカズが身にまとったのと同じスカイブルーのユニフォームをまとい、“日本サッカーの聖地”国立競技場で鹿島相手の非常に重要な一戦に臨む。
 「日本での試合というだけで気持ちは高ぶるのに、自分がまだプレーしたことのない国立での試合。とてもモチベーションは高い」と森安。ただし気負いは感じられない。
 「国立で鹿島に勝って予選通過っていうのがドラマチックかもしれないけど、選手にしてみればできるだけ早くに決めたい」と予選通過を至上命題とするだけに、森安個人にもチームにとっても、国立での鹿島戦に先んじて5月3日に行われるアウェーでの水原三星戦が何よりも重要になる。
 大震災の影響での日程変更の結果、シドニーはこの予選の山場3試合がすべてアウェーという、一見かなり不利な日程を消化することになったのだが、森安は一向に意に介さない。「もともとこのチームにアウェーの苦手意識はない。シーズン中もアウェーで結構勝っているし、前の試合(上海申花戦)もアウェーで劇的な勝利をしたのもあって、むしろアウェーだからいけるという気持ちがあるくらい」と非常に頼もしい。

 

“目的地”まで走り続ける、 終わらない“試合”
  インタビューの最後で、今後のキャリアについて聞いた。森安は「まずはシドニーとの残り2年の契約期間で結果を残せば先が見えてくるはず」とした上で、「ほかの国でプレーしたい、日本でやれれば面白いと思う」と、日本のクラブへの将来的な移籍を視野に入れていることを明言した。
 今回のインタビューの中で森安は何度も「諦めない気持ち」というフレーズを使い、さらには「諦めたら、そこで試合終了」という、名作マンガ「スラムダンク」で出会ったという言葉を教えてくれた。
 諦めない強い気持ちとそれを表現できる英語力があったからこそ森安は、“試合終了”を迎えることなくこの国で今の地位を勝ち得た。プロ・サッカー選手である彼にとっての“試合”とは、プロ選手としてのキャリアそのものであり、自らのステップアップを信じて止まない森安の“試合”は、このままでは終わらない。豪州で応援する人々にとっては少々残念ではあるが、シドニーは彼のキャリアにとって“通過点”でなければならない。鹿島との対戦で見極めた“現在地”から、彼自身が目指す“目的地”まで森安洋文は走り続ける、決して諦めることなく。


インタビュー
(Photo by Moto/ Mega Expression Pty Ltd)

森安洋文(もりやすひろふみ)
◎豪Aリーグ・シドニーFC所属のMF。途中加入した昨シーズン、すぐにチームの欠かせない存在となり、今や不動のレギュラーとしてACLを戦うチームを支える。来季のさらなる飛躍も期待される26歳の活躍から目が離せない。

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