松山ケンイチさん

第58回シドニー国際映画祭・上映特別インタビュー

松山ケンイチさんと映画『ノルウェイの森』の魅力に迫る

6月8~19日に開催される第58回シドニー国際映画祭で、公式ノミネート12作品に日本映画『ノルウェイの森』が選ばれ、注目が集まっている。同映画祭に先駆け、先月は 主演女優の菊地凛子さんに独占インタビューで登場していただいた。そして今月は、主演男優の松山ケンイチさんに作品への想いを伺いながら、同作品の魅力に迫る。

学生運動の時代を背景に、主人公の青年ワタナベと、17歳で自殺をした友人の恋人である直子の恋、喪失感などを描く映画『ノルウェイの森』。ベトナム系フ ランス人のトラン・アン・ユン監督がメガホ ンを取り、村上春樹氏のベスト・セラー小説『ノルウェイの森』が映画化された。
そして、ワタナベ役には映画『デスノー ト』『デトロイト・メタル・シティー』など多くのテレビ・ドラマや映画で活躍する俳優、松山ケンイチさんが、そして直子役には映画『バベル』で脚光を浴びた女優、菊 地凛子さんが抜擢された。
同作品は森や雨、川などが作り出す、 しっとりとした流麗な世界観が印象的。 それがオーケストラ音楽やザ・ビートルズ の「ノルウェーの森」などとともに交わり、観客を独特な映画の世界へと誘う。

 

品格がある作品

映画の幕が開くと、スクリーンには無邪気に遊ぶ高校時代のワタナベ、彼の友 人であるキズキ、そしてその恋人の直子がたちの初々しい姿が映し出される。しかし、しばらくすると幸せな光 景が一変。キズキが自殺したのだ。そのことで、心にぽっかりとした穴が空いてしまったワタナベと直子はその後、悲しく切ない青春時代を過ごすことになる。
映画が始まった瞬間から、その独特の世界観に思わず吸い込まれていきそうになるが、主役の松山さんは演じ手として、この作品をどのように見つめるのか。

「映像は誰が見ても美しいと言っていただけると思います。音楽も映画の一部となり、まるで一緒に生きているようでしたし、キャラクターの1人ひとりにも品格があり、感動しました。これはトラン監督の演出のおかげですね」

同作品の原作を読んだのは撮影に入る前だったそうだが、松山さんは読み終えて何を感じたのか。

「“愛”という普遍的なテーマを描いた作品でしたので、どの世代の人が読んでも共感できますし、だからこそ全世界で読まれているのだなと思いました。そして実際に撮影中にも、原作の独特の世界がうまく映画に投影されていましたね」

 

トラン監督の演出

東京で大学生になったワタナベ。彼はキズキの死後、ずっと直子と会っていな かった。しかし2人はある日再開し、そこ から愛を育んでいくことになる。彼らが 初々しく微笑み合う様子は、木々の間から差す木漏れ日のように、美しく描かれる。
そして同作品の名場面の1つと言われる、直子の20歳の誕生日に2人が結ばれるシーン。原作での 生々しい性描写とは違い、映画では2人の表情に焦点が当てられており、彼らの熱く切ない気持ちが伝わって くる。これこそ松山さんが言うトラン監督の「品格がある」演出なのだ。そのおかげで、松山さんはベッ ド・シーンに抵抗なく臨むことができた。 この場面を踏まえ、監督について以下のように語る。

「監督自身がとても品のある方で、それ はどの演出にも反映されていました。一番印象に残っているのは、監督が1つ1つの仕草に意味があるから、それを考え ながら演じてくれと言われたことです。 こうして細部まで気を使って演出をされ ていました。そして監督が考えているイメージを率直 に自分の言葉で伝えてくれたおかげで、私たち役者はそのイメージに合う感情を自分で見つけていくことができました」

 

演技はいろんな人やものを通して 作り上げる

2人が結ばれたその日、ワタナベのある言葉が直子の閉じかけていた心の傷口を 再び開いてしまう。直子はまだキズキの死をひどく引きずっていたのだ。ヒステ リックになった直子はワタナベの前から 姿を消し、京都の山奥にある「阿美寮」 という療養所に入ってしまう。一方、ワタナベは同じ大学に通う「緑」という女 性に出会う。直子を守らなければいけな いとの責任感を感じながらも、彼は緑に恋心を抱くようになり、心が揺れ動く様子が描かれる。
今まで『デスノート』のL役など、斬 新でユニークな役を演じる役者というイメージが強かった松山さんだが、映画 『ノルウェイの森』では、ほかの作品とは違った、非常に繊細で複雑な感情表現 を成し遂げている。演技をする上で、彼 が心得ている理念とは何なのだろうか。

「演技のスタイルは独自のものを持つと いうよりも、いろんな人やものを通して作り上げるものです。というのも、芝居は相手の役者さんと のキャッチボールでもありますし、衣装 やメイク、監督の演出などの影響を受け ながら築かれていきます。ですので、自分にはこれといった演技 のスタイルはなく、むしろ撮影現場で感 じることや、監督がOKを出してくれる演 技こそが正解なのだと思っています」

 

松山さんと菊池さん

直子から久しぶりに手紙が届き、京都 の療養所を訪ねに行ったワタナベ。ある 日の早朝、直子はワタナベを薄く霧がか かった森の中へと連れ出す。そして2人が 野原に出ると、そこで直子は心の悩みを ワタナベに打ち明ける。
この場面については、前回のインタ ビューで菊地さんも触れていたが、松山 さんにとっても印象的だったそうだ。ず んずんと野原を歩くワタナベと直子を途 切れなく捉えるために、高原に敷かれた 120メートルのレールの上をカメラが移 動しながらの撮影。「こんなに長いレー ルがある撮影は初めてでびっくりした」 と、松山さんは思い出を語る。
さらにこのシーンでは、発狂する直子 に戸惑いながらもワタナベが必死に走っ て直子の後を追うのだが、特にこの場面 から2人の息がとても合っていたことが分 かる。松山さんにとって共演者の菊地さ んはどんな人だったのか。

「凛子さんは、現場で自分がどう見えて いるかを把握しているから、安心して息 を合わせることができました。監督が突然台詞を変えてくることもあ りましたが、何があってもちゃんとその 場で対応して、芝居として成功させる力 を持っていました」

 

映画を通して人生を学ぶ

直子がワタナベに心の内を明かし、2 人の心の傷は癒えていくのかと思われた が、ストーリーは悲しい結末へと向か う。それでもワタナベは、前を向いて強 く生きていくことを心に決める。
松山さんは同作品を通して大切なこと を学ぶことができたとともに、観客にも その素晴らしさを知ってほしいと言う。

「ワタナベの成長を追体験することで、 人生について勉強することができまし た。また、「愛」「死」に対する価値観 は人それぞれ異なりますが、人生で経験 する大切な何かを皆さんに感じ取っても らえたらいいですね」

最後に俳優でいて幸せだと感じるこ と、そして松山さんにとって「映画」 「演じること」とは何かを聞いてみた。

「映画は人に力を与えられる芸術であ り、演じることは人生の勉強。やはり役 を通じて自分の知らないことを学べると いうことが嬉しいです。そして、自分が 出演している作品を通して、観客の皆さ んに何かを感じてもらえた時は、とても 幸せですね」

松山ケンイチさんをはじめ、多くの人 が情熱をかけた渾身の一作『ノルウェイ の森』は、シドニーの観客にも大きな感 動を与えるだろう。

(インタビュー=編集部・森あずさ)


松山ケンイチ×ワタナべ
プチ☆ インタビュー

松山さんは1985年3月5日に青森県むつ 市に生まれた。幼いころは泣き虫で、泣い たら何でも許されるだろうと思っていたら しく、現在の凛々しいイメージとは違い、 かわいらしい少年だったことが伺える。
幼いころは芝居に興味はなく、親友が将 来は大工になりたいと言っていたことか ら、松山さんもそれに合わせていたそう。
しかし高校時代に転機が訪れた。これ といった将来の目標がない彼を見た母 が、何か夢中になれるものを見つけてほ しいと願い、ホリプロ男性オーディショ ン『New Style Audition』に彼の申請用 紙を提出。すると2001年に彼はグラン プリを獲得し、芸能界に入ることになっ た。その後はモデルから役者へと活動域 が広がっていった。
「グランプリを受賞した時はまだ芸能界 に興味がなくて、単に東京に憧れを抱い ていたので、漠然と上京できければいいと 思っていました。けれども、モデルと並行 して芝居をしていた時、初主演映画『ウィ ニング・パス』に出演して、芝居って面白 くて素晴らしいんだなと感動しました。特 にモデルから俳優へ転身したという意識は なかったのですが、この作品が芝居を極め るターニング・ポイントになったんだと思 います」
松山さんが人気俳優として活躍できたの は、もちろん才能があったからなのだが、 彼自身はとても努力家でもある。特に役作 りは綿密に行い、映画『ノルウェイの森』 でも、さまざまな研究や思案の末、ワタナ ベの口調にこだわりたいと監督にも提案し たそうだ。そもそも、普段どのように役作 りをしているのか。
「本を読んだり映像を見たりしながら、 出演する作品の時代背景を勉強しています。『ノルウェイの森』では学生運動の時 代を研究しました。また、監督に役の参考 になる映画などを聞いて、その作品からイ メージ作りなどもしました」 松山さんは役作りや演技を通して、自身とワタナベとの間に共通点を見つけたのだ ろうか。
「ワタナベの他人との距離の取り方が、 僕のやり方と似ているなと思いましたね。 ただ、ほかには思い当たりませんが…」 そう言われると、同作品での松山さんの 演技がさらに気になるところ。詳しくは映 画館で確認したい。

 

『ノルウェイの森』 ストーリー

ワタナベ(松山ケンイチ)は唯一の親友であるキズキ(高良健 吾)を自殺で失い、知り合いの誰もいない東京で大学生活を始 める。そんなある日、キズキの恋人だった直子(菊地凛子)と 再会。2人は頻繁に会うようになるが、心を病んだ直子は京都 の病院に入院してしまう。そして、ワタナベは大学で出会った 緑(水原希子)にも惹かれていき…。

公開情報

原作:村上春樹『ノルウェイの森』(講談社刊)
監督・脚本: トラン・アン・ユン
キャスト:松山ケンイチ、菊地凛子、水原希子、高良健吾、霧 島れいか、初音映莉子、玉山鉄二、糸井重里、細野晴臣、高橋 幸宏、柄本時生
音楽:ジョニー・グリーンウッド
主題歌:ザ・ビートルズ「ノルウェーの森」
エグゼクティブ・プロデューサー:豊島雅郎、亀山千広
プロデューサー:小川真司
Web: www.norway-mori.com
上映時間:2時間13分 シネマスコープ/ドルビーデジタル
第67回ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門正式出品作品
第58回シドニー国際映画祭ノミネート作品
製作:アスミック・エース/フジテレビジョン
製作プロダクション:アスミック・エース エンタテインメント
シドニー国際映画祭 オーストラリア・プレミアム上映開催
日時:6月16日(木)6:15PM~
会場:ステート・シアター(State Theatre)
日時:6月17日(金)1:50PM~
会場:イベント・シネマズ(Event Cinemas in George St.)
チケット・問い合わせ
Tel: (02)9690-5390
Web: sff.org.au
プログラム詳細Web: www.sff.org.au/public/home
※8~9月にオーストラリアでも一般公開される(映画配給会社:キュリアス・フィルム/Curious Film)

まつやま・けんいち
◎プロフィル 青森県出身。1985年3月5日生まれ。2002年にドラマ『ごくせん』第1弾で俳優デビュー。2004年に映画『ウィニング・パス』 で初主演を務め、2006年に映画『デスノート』ではL役で日本のみならず、世界中で脚光を浴びる。2012年放送予定のNHK大河ドラマ『平清盛』では、主役の清盛役に抜擢され、現在役作 りに励んでいる。

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