【年末対談】小野伸二×雁屋哲

年末特別企画

 対談

ウエスタン・シドニー・ワンダラーズ小野伸二 ×『美味しんぼ』作者雁屋哲

2013年もいよいよ年の瀬を迎え、年末にゆったりと読めるような企画が紙面でできないかと考えあぐねていた折(もっともオーストラリアにいると感覚的になんだか年の瀬という言葉もしっくりこないが)、長寿漫画『美味しんぼ』の作者である雁屋哲氏(シドニー在住)のブログを拝見する機会を得た。雁屋氏はどうやら大のサッカー好きで、昨シーズンは家族総出で小野伸二選手が所属するウエスタン・シドニー・ワンダラーズの試合に何度も足を運んでいたとのこと。しかし、そのことを当の小野選手自身は知らないに違いない。なるほど、それならばオーストラリアを代表する著名な日本人である2人を引き合わせてみようか。

 ふとしたアイデアから両人にお声がけしたところ、ともに快諾いただくことができた。11月某日、オーストラリアで最も有名な日本人とも言われる和久田哲也シェフにもご協力いただき、「TETSUYA’S」で対談を開催。本特集では「TETSUYA’S」の素晴らしい料理の数々とともに、小野選手、雁屋氏の対話を紹介していこう。2013年の年の瀬に思いを馳せつつ、2人の歯に衣着せぬ対談をゆったりと楽しんでいただければと思う。 (編集部)

サッカー談義

「今は目の前のことに1つ1つ集中して やっていきたい」

おの しんじ
2012年10月よりサッカーAリーグ、ウエスタン・シドニー・ワンダラーズに所属。名実ともにチームを引っ張る存在として活躍し、昨シーズンはチームをレギュラー・シーズン優勝に導いた。元日本代表MF。

雁屋哲氏(以下、雁屋)「僕がサッカーを本格的に観るようになったのは1994年のドーハの悲劇を観てからです。東京のホテルで酒を飲みながら観戦し、それ以来夢中になった。98年以降、そこでの開催自体が反対だった南アフリカ大会以外は、ワールドカップは欠かさず見に行きました」

小野伸二選手(以下、小野)「ブラジルでのワールド・カップにも行かれるんですか」

雁屋「はい。既にいろいろと手配を始めています」

小野「ブラジルと言えば、6月に行われたコンフェデレーションズ・カップにはゲスト・コメンテーターとして出演させていただいたんですよ」

雁屋「そうでしたね。しかし、コメンテーターとしての登場ではなく、小野さんにはまた代表でプレーしてほしいなと思っています」

小野「今、日本代表はいいチームができ上がってますからね」

 

——雁屋さんは、オーストラリアに長く住まれていますが、その間、こちらのサッカーを熱心に見てこられたのですか。

雁屋「シドニーではラグビーが一番人気ですから、サッカーは正直あまり盛り上がっていませんでした。代表チームは強いですが、リーグはそこまで強くなかった。しかし、小野さんが来てから、僕も欠かさず見るようになりました。小野さんが来ると聞いた時は信じられなかったです。ビックリしました。まさかと思って」

小野「僕も全くイメージしてなかったのでびっくりしました。まだシーズンの途中で、しかも突然でしたから。当時はどうしようかと迷いましたが、今は来て本当に良かったと思っています」

雁屋「いやぁ、良かったどころじゃないですよ。もう大英雄ですからね。小野選手の人気はものすごいですよ。この前、シドニー・モーニング・ヘラルドでは3日間、小野選手の記事ばかり扱っていました」

小野「でも、あれは引退とかそういう方面の話でしたけどね」

雁屋「あれはメディアが変な受け取り方をしてしまったんだろうね」

小野「ここにいたいという気持ちを伝えただけで引退したいとはひと言も言ってないです。ですが、こちらのメディアにそのような取り上げ方をされ、それを今度はそのまま日本のメディアが取り上げてしまった」

雁屋「そういう意味で発言したわけではないということは私は分かっていましたよ」

 

——小野選手が来られて以来、毎試合ご覧になっているそうですが、ワンダラーズのサッカーをどう思われますか?

雁屋「小野さんがいる時といない時だと、チームの雰囲気がまるで違いますよね。いる時は小野さんを中心に皆一体になって動くけれど、いないと皆バラバラになってしまう印象があります。小野選手がいるとネットワークができるんだよね。1人の選手の力がこんなに大きくチームを変えるんだ、すごいなと思って見ています」

 

——今年で2年目を迎えましたが、小野選手、今シーズンの感触はどうですか?

小野「長い期間、同じメンバーでやってこられているので、メンバーの気持ちも分かりますし、昨年のスタート時と比べたら計り知れない違いがあります。新しい選手も迎えましたし、良い方向に向かっていると思います」

雁屋「昨年、小野選手が入ったばかりのころは、連携が上手くいってなかったような気がします。どうしてあんな良いパスが取れないんだと、もどかしく思う時もありました」

小野「そうですね。でも、今シーズンは既に意思疎通ができているので、それをベースにどんどん進んでいきたいです」

雁屋「シドニーに来て25年、こんな楽しいシーズンはないですよ」

小野「僕も、長くいられるようにがんばらないと」

雁屋「いてくださいよ、絶対に。Aリーグをあれだけ盛り上げてるんだから、本当に意義のあることだと思います。このまま行くとパラマッタのスタジアムも建て替えられるんじゃないかな」

小野「そういう噂はありますよ」

雁屋「デル・ピエロも大スターだけど、彼より小野選手の方がAリーグを盛り上げてると僕は思いますよ。ワンダラーズは皆ものすごく注目してますから。こんな時が来るなんて夢にも思わなかったです」

シドニーでの生活、そして「食」

「来年はなんとかして日本を盛り返せるような活動をしていきたい」

かりや てつ
大人気漫画『美味しんぼ』作者。1988年よりシドニー在住。『頭痛、肩コリ、心のコリに美味しんぼ』(遊幻舎、2010年)、『シドニー子育て記シュタイナー教育との出会い』(遊幻舎、2008年)など著書多数。

雁屋「僕は、以前『シドニー子育て記』(遊幻舎)という本を出したのですが、そこにも書いた通りオーストラリアに来たのは子どものためだったんです。日本の教育は受験勉強ばかりで僕は気に食わなかった。競争の生き方はよくないですよ。
 良い大学を出て、良い会社に入るのがいい人生。それはないだろう、もっと楽しい生き方があるだろうと思っていました。日本の教師は自分たちの学校の成績やクラスの生徒がどれだけ良い大学に入れたか、そういうことばかり考えている。それができることが教師としての能力だと思われている節がある。そのために子どもたちをいかに仕込むかということを教育だと思っている。僕はそれが嫌だった。
 この地では、子どもたちがいかに自分らしく生きるかというような考え方で子どもを伸ばしてくれる。しかし、そういったことは日本でやると仲間外れみたいになるので海外に出ることを考えたんです。ちょうど『美味しんぼ』の人気が出始めたころですね。いろいろ調べたあげくシドニーに決めたのですが一発で気に入りました」

小野「僕もオランダ、ドイツと住みましたけど、シドニーは環境が良く、すっとなじめました。すぐに長くそこに滞在していたような親しみを感じました。将来住みたいなとも思いました」

雁屋「住んでくださいよ。移住というのを大げさな気持ちでとらえるのではなく、いつでも帰れるというような気持ちでいるといいと思います。僕も最初は2〜3年でいいかなって思っていて、気付いたらもう25年。小野さんもお子さん2人おられるんでしょう?」

小野「そうです。2人です。でも次のシーズンのことが決まらないので連れては来られないですね」

雁屋「お子さんが行ったり来たりじゃかわいそうですもんね」

小野「契約の期間がはっきりと分かれば、こっちに連れてきたかったんですけど」

雁屋「お子さんとは離れてるの?」

小野「そうです。寂しいですけど、休みになれば帰ってますから。今年の年末年始はこちらで一緒に過ごせると思います」

雁屋「それはいいですね。奥さんやお子さんが来たら何をしますか」

小野「妻が観光が好きなのでどこか連れて行ってあげたいです。去年来た時は、観光らしいことと言えば実はオペラ・ハウスを見たくらいなんです。子どもたちはプールに行くのが好きで、去年は毎日、オリンピック・パークのプールに行っていました。
 後は美味しいレストランに連れて行ってあげたいですね。雁屋さんはこれまでシドニーでもいろいろと食べられたと思いますけど、どこのお店が美味しいですか?僕は行くところが限られているのでよろしければ新しいお店も教えてほしいなと」

雁屋「中華は行きますか?」

小野「中華も好きです。試合の後は中華をよく食べたくなりますね」

雁屋「最近僕はもっぱらアジアの店、特に中華ばかりなんです。チャイナタウンにあるマリゴールドなどはアワビのしゃぶしゃぶを最初に始めた店なのですが、あのしゃぶしゃぶは美味ですよ。
 シドニーの食は、昔は冴えなかったのですが今と昔では雲泥の差。私たちが来た時は食べられるものを探すのも大変でしたが、93年ごろから香港の料理が来て、味がだいぶ変わりました。
 当時は世界的なレストランなんてほとんどなかったですが、今やシドニーは食の都と言っても過言ではない。そのくらい美味しい店がたくさんありますよ。東京も多国籍にいろいろ食べられますが、シドニーではそれ以上にやはり東南アジアとか日本ではあまり食べられない中東のお店などがあるのが嬉しいですね。僕もここに来て、初めてレバノン料理を食べました。小野さんもスポーツ選手だと、食事には気を使うでしょう」

小野「僕、1日1食なんですよ。2食の時もまれにありますが。朝は食べず、昼を食べたら夜は食べないです。昨日はお昼にチキン・ロールとマッシュ・ポテトだけでした」

雁屋「よくそれで持つね。お腹空かないの?」

小野「空かないです」

雁屋「筋肉大丈夫なの?」

小野「大丈夫です。もう5〜6年この生活をしているので。朝は全然食べないですね。練習前はコーヒーだけです。夜はお腹空いたなって感じたら、水を飲みます」

雁屋「いや、すごいですね。お肉はあまり食べないんですか」

小野「あまり食べないですね」

雁屋「そうなんですか。僕がいつも食べてるオージー・ビーフは最高ですよ。牛は草食動物で胃が4つあるでしょう。草を食べて、それをいかにタンパク質に変えていくかという、いろいろな工夫が彼らの体にはあるんです。だから本当は草食動物には草しか食べさせちゃいけない。草だけで育った牛肉は匂いと香りが全然違います。どんなに噛んでも肉の味が消えません。お店で『GRASS FED』という表示があったらぜひ試してみてください。また、食べ物でお薦めの場所として推したいのは、タスマニアに行く途中にあるキング・アイランドという島です。あそこの肉とチーズは本当に美味しいです。潮風で塩がついた草を食べてるからですね」

 

——食の追求をしている雁屋さんが、今後『美味しんぼ』の連載を通して伝えたいことは何でしょう。

雁屋「僕はもともと有機野菜や本物の食べ物・調理法などに興味があって、それを試しに書いてみたのが『美味しんぼ』です。すると1983年ごろは食に関する本もあまりなかったこともあり、思わず人気が出たという感じなんです。
 今は『食』が遊び、ファッションのようなものになっていると感じるので、郷土料理をしっかり残すなど、しっかりと味の文化を残していってほしいと思いますね。日本では郷土料理に目が向けられているのでそれはありがたいと思います。
 今は多文化で一見、世界が広がっているように見えますが、世界中で食材の質はものすごく落ちてると僕は感じます。ですから、食材を買うところから自分でしっかり選ばなければならないですし、うっかり考えもなしに外食なんて本当はできないですよ。自分で週に1回市場に行って、自分で食材を買ってきて食べる。良いレストランもたくさんありますが、逆に内容が貧弱なレストランも少なくない。
 食べ物の本質を訴えなきゃいけないと僕は思っています。いろいろなものが簡単に安く手に入るように見えますがとんでもないものも多い。そういうものばかり食べていると成人病になりかねないですし、そのあたりの意識を強く持ってほしいですね」

オーストラリアのワイン

——オーストラリアはワインが美味しいと言われていますが、小野選手は普段からお酒は楽しまれますか?

小野「そうですね。もちろん、シーズン中は周りやチームに迷惑をかけないようにコントロールはしていますけど」

雁屋「偉いなぁ。僕が34歳のころは人に迷惑ばかりかけてたなぁ」

小野「家でもお酒は飲まれますか?」

雁屋「ほんのちょっと。本当は日本酒とかワインが好きなんだけど、良い日本酒は手に入りづらいから、大事な時にしか飲まないですね」

小野「オーストラリア・ワインはどうですか?」

雁屋「昔と比べてすごく良くなりました。世界のワインのオークションでも高い値段がつくようになった。ただ、フランスだと売った時に初めて税金がかかるため、自分の蔵に10年も20年も寝かすことができるのですが、オーストラリアは醸造してでき上がった時点で税金がかかります。放っておくと税金がかかるから、できた段階でワインをすべて売ってしまう。だから、ワイナリーに行って『このワインの10年、20年ものをください』と言ってもないんですよ。


対談後、雁屋氏はいちファンとして小野選手にサインをリクエスト。嬉しそうな笑顔が印象的だった。

 ではどうするのかと言うと、ワインのインベスターのところに行くのです。彼らはワインを買い占めて、10年も20年も取っておくんです。それから、オークションに出し、それが巡り巡ってワイン賞を取ります。そういったところはフランスとは全然違いますね」

小野「オーストラリア・ワインのオススメはありますか」

雁屋「オーストラリアはどこでもメルローが美味しいですね。銘柄としてはペン・フォールズは定番で、値は張りますがやはり美味しい。ただ、オーストラリア人は開拓精神が旺盛な分、決まった銘柄をなかなか維持できない面もあるのが残念なところですね」

2014年に向けて

——最後にお2人それぞれ来年に向けての抱負、思うところなどありましたらお願いいたします。

小野「僕にとって2013年は非常に良い年でした。チームもレギュラー・シーズンで優勝しましたし、ケガもなく健康な状態でサッカーができて良かったです。来年のことはまた来年になってから考えます。今は目の前のことに1つ1つ集中してやっていきたいと思います」

雁屋「今、オーストラリアでは一時期に比べ日本人の地位、存在感が低下しています。僕たちが来た時は日本人は天下を取ったような状況でした。経済力が全く違ったし、シドニーにある大きな建物の多くが日本の会社のものだったような印象です。しかし、今はすべて中国系に取って代わりました。また、昔は日本語を第2外国語に設定している学校も多かったのですが今はほとんどありません。国際的な存在感とこちらでの地位も当然直結していますから、日本の経済が苦しくなって以来、日本のコミュニティーは寂しい状況が続いています。
 また、原発問題もあります。僕は東日本大震災の後、被災地を巡り、福島県の真実を調べて歩きました。そんな中、日本という国は福島の扱い1つで、もしかしたらこのまま沈没してしまうのではないかという危機感を持っています。これ以上福島の原発が悪化しないことを願いますし、それに対して日本がどれだけ経済的に盛り返せるのかを危惧しています。
 日本の全盛期を知っている者として、それと比べるとどうしてもみじめに感じてしまう。何とか日本の国力を、文化的にも経済的にも今以上にしていかなければならないと、海外で暮らしているとなおさら感じます。日本の存在感が薄れると、海外にいる日本人の存在感も薄れてしまって、実につまらないです。年の半分は日本に住んでいますし、来年はなんとかして日本を盛り返せるような活動もしていきたいです。そんな中、小野さんのように日本人であることを誇れるような人がシドニーで活躍してくれるというのは本当に嬉しいです。いや、嬉しいなんて言葉じゃ言い表せないですね」

小野「僕ももっと頑張りますよ」

 

——本日はどうもありがとうございました。良い年をお過ごしくださいませ。

(11月5日、「TETSUYA’S」で)

取材協力=テツヤズ Tetsuya’s
「グッド・フード・ガイド」誌の最優秀レストランに4度輝き、世界ランキング4位にも選ばれたジャパニーズ・フレンチ・レストラン。オーナー・シェフ、和久田哲也氏が手がける料理を求め、オーストラリアだけではなく世界中から多くの人々が訪れる。著名人の来店も多く、予約が取れないレストランとしても有名。

529 Kent St., Sydney NSW
Tel: (02)9267-2900(要予約)
営業時間:ランチ土12PM〜、ディナー火〜金6PM〜、土6:30〜
Web: www.tetsuyas.com

 

Tetsuya’sインタビュー当日のコース・メニューはこちら

「友人でもある雁屋さんのお好みに合ったメニューを提供させていただきました」と和久田哲也シェフ。最近は小野選手とも親交を深めているそうだ


豆乳を使用し、ニシンの卵のスモークを入れた洋風茶碗蒸し「SAVOURY CUSTARD WITH AVRUGA」

うずらの胸肉をスモークし、カラマリを添えた「THE SMOKED QUAIL BREAST WITH PARSNIP & CALAMARI」

酢飯、タピオカ、刺し身を中心にした「SALAD OF THE SEA」

黒オリーブとアーティチョークを添えたラム肉のロースト「ROASTED LAMB RACK WITH BLACK OLIVES & ARTICHOKE」

クルミのオイルなどを使ったホタテのマリネ「MARINATED SCAMPI WITH WALNUT OIL & EGG」

イチゴとココナッツとともにいただくライチのグラニータ「LYCHEE GRANITA WITH STRAWBERRIES & COCONUT」

50 度くらいの温度でじっくり温めたTETSUYA’S を代表する1品「CONFIT O FOCEAN TROUT WITH A SALAD OF CELERY, WITLOF, APPLE & UNPASTEURISED OCEAN TROUT ROE」

濃厚なチョコレートをふんだんに使った「TETSUYA’S CHOCOLATE CAKE」

塩こうじを用い調理したひらめに野菜を添え
て「SHIO KOJI FLOUNDER WITH TOMATO & SUMMER GREENS」

食後のコーヒー・紅茶とともに「PETITS FOURS」

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