紀伊國屋書店「リアル書店だからできること」

コミュニティーインタビュー
山田拓也さん(支配人)
「実際に店舗を持つ私たちだからこそできるいろいろなことがある」

 

■オーストラリア紀伊國屋書店開業11周年特別インタビュー

リアル書店だからこそできること

 
 シドニー在住の日本人なら誰もが訪れたことがあるだろう、巨大なフロア規模で、シドニーCBDに敢然と店を構える日本を代表する巨大書店チェーン、紀伊國屋書店。インターネットやデジタル化の波に押され、不振にあえぐ出版界において「紙だからこそ、リアル書店だからこそできることがある」と気を吐き、オープン以来11周年を迎えたオーストラリア紀伊國屋書店にインタビューを敢行した。

 
── 開業11周年おめでとうございます。本が売れなくなっている時代ではありますが、その中でがんばっている紀伊國屋書店さんには私たちもたいへん勇気付けられています。シドニーで本屋をやられているということで、いろいろと日本とは違った苦労もあるのではなかろうかと思いますが、そのあたりはいかがでしょうか。
 

コミュニティーインタビュー
大田光穂さん(和書担当マネジャー)
「発売される雑誌の季節が逆だという点はシドニーならでは」

大田 やはり、シドニーならではということで季節が日本とは逆ということが挙げられますね。夏なのに冬の時期の雑誌、逆に冬なのに夏の時期の雑誌が入ってきて、さらにそれを日本よりも高い値段で売っているのでなかなか大変な面はありますね。
 
── 季節もそうですが、価格設定が高くなってしまっているという点ではご苦労されていることと思います。
 

大田 そうですね。日本の場合は返品制度があるため、売れ残った商品の多くは返品しますが、海外では流通関連コストが非常に大きいので発注はよりシビアです。日本だと取次会社によって自動的に本が書店に届く仕組みが整っていますが、海外の場合、自動で送られてきてしまうと在庫が過剰に増えてしまうリスクがあるんです。
山田 それ以外にも日本の再販制度のしばりに乗ることができないので、その分のリスクを含めた価格設定にどうしてもなってしまいます。
 
── とはいえ、日本と同じように実際に棚で新しい本を手に取りながら選び、気に入ったものをその場で購入できるというのは本当に嬉しいです。海外にいながらその体験ができるのは、本好きにとっては、乗せられているコスト以上の満足度が得られますよね。
 

海外書店だからこそできるキャンペーン

 

── 日本では再販制度の問題があって値下げなどはできませんが、紀伊國屋ポイント・カードなどが発行され、若干緩まってきた感がありますよね。そのあたりの事情はこちらではどうなのでしょうか。

コミュニティーインタビュー
毎回10%引きで本が買えるようになる会員カード。値引きができない日本の書店ではできないサービスだ(年会費$15)

 

山田 日本で始めたポイント・カードをそのまま使うようにすることは、為替と税金の問題があってできないです。ですが、シドニーでは会員カードを発行しており、カードをお持ちの方には通年10%オフで本が買えるようなシステムを導入しています。
 
── そうなんですね。これまで何度も通いましたが会員カードの存在は知らなかったです。本を毎回ディスカウントで買えるカードの発行というのは日本ではできないすごいシステムですね。
 
山田 実はレジの後ろに英語で書いてあるんですが、日本語書籍の売り場に行くと、マインドが日本語になって、英語の情報が入らなくなるんですよ。そのため、知らない日本人のお客様が結構いるんですよね。和書の担当者にはもっとPRしてくれと言ってるんですが(笑)
大田 すみません。実は一応日本語の案内もあるのですが、目立たないんですよね。もっとアピールしなければと思います。
山田 海外の和書店に関しては価格操作をしながらプロモーションができるので、例えば、特定の本の割引キャンペーンをするなど、日本よりもフレキシブルにいろいろなことができます。
 

書店で本を選ぶという体験

 
── 昨今、インターネット、電子化など出版業界は厳しい状態にはあると言われていますが、やはり実感として感じる部分はありますか。
 
大田 影響がないとは言いませんが、ウェブで手早く探す情報と紙上でじっくり読む情報は違い、後者のニーズはやはり存在します。日本の紀伊國屋書店では、アプリ「Kinoppy」も存在しており、電子版でも、実際の本でも両方対応できるようにしています。海外店でもさまざまなお客様のニーズに応えるべく、現在提供できるサービスを模索しています。
山田 オーストラリアでは出版業界全体が下手をすると10%くらい、毎年、前年割れをしている状態なので確かに厳しく、実際さまざまな書店が閉店しています。ただ、紀伊國屋書店では、逆に問い合わせが増えている部分もあるんですよ。各出版社も今まで以上にさまざまなマーケティングをしていかなければならないわけですが、その中で広いスペースを持つわれわれの店が注目されています。例えば、近々では、ローカルの出版社と組んで、お客様に鶴を折ってもらうというような企画をやります。1,000羽の鶴ができたら、それをチルドレン・ホスピタルに500ドルの寄付金と一緒に送ります。お客様とともに社会貢献をできるような売り場を作れるというのはやはりリアル書店である私たちだからこそできることです。
 
── 本というのはそれ自体が手に入ればいいわけではなく、例えば、売り場をいろいろな本を眺めて歩く体験自体も重要ですし、それがなければ思いもしない本との出合いなどは生まれないですよね。日豪プレスも紙媒体を発行する立場として、紀伊國屋書店さんには今後とも大いに期待しています。本日はありがとうございました。
 


 

紀伊國屋書店、オススメの3冊

 本紙では、次号より紀伊國屋書店の協力の下、「本」にクローズアップした連載の開始を予定している。連載に先駆け、ここでは紀伊國屋書店の書店員が、今、オススメする本を紹介していく。次号からの連載もお楽しみに。

『僕は自分が見たことしか信じない 文庫改訂版』

内田篤人著 幻冬舎文庫
 6月4日、サッカー日本代表が5大会連続5回目のサッカー・ワールドカップ(W杯)出場を決め、来年行われるブラジルW杯の出場権を世界最速で手に入れた。
現在のサッカー日本代表で不動のサイドバックとして活躍している内田篤人。鹿島アントラーズに入団後Jリーグ3連覇を達成し、日本代表に選手され、2010年にドイツのシャルケ04に移籍し輝かしい実績を残している。
 2011年に発売され、フォトエッセイとしては異例の15万部を売り上げた『僕は自分が見たことしか信じない』。本書はその発売後の自身の低迷やケガのことなど新たに文章を大幅加筆した、文庫改訂版である。
 多くのファンを持つ彼は、端正な外見だけではなく、男らしい一面を持ち、誰よりも優しい心を持っている。まえがきで「サッカー選手はサッカーのみに真摯に取り組めばいい」と書かれているように、誰よりもサッカーに対して真摯である。内田篤人が自分の内面を素直に綴った1冊。
(村山)

 

『日本・世界地図帳』

朝日新聞出版
  家にいて手持ち無沙汰な時間に、何をしますか? 私はぼーっとしたり、インターネットをいじったり、テレビを見たり、要は漠然と過ごしています。この道にかけてはかなりの通と自負しています。ただ、無為に時間を過ごすにもバリエーションが必要になってくるのですが、なんとなく知識を吸収しているようで前向きに感じられてお薦めなのは、地図を眺めることです。 縮尺の細かいものであれば、ある道を通った時のことをふと思い出したり、旅行に行くとしたらどのルートを取れば効率的かを検討したり。縮尺が大きいものであれば、見聞きするニュースと位置を照らし合わせて、考える材料を探したり。 今回ご紹介するのは、『日本・世界地図帳』の2 013-2014年版です。日本全県が54ページ、世界各国が48ページの構成になっています。特に日本は大都市については詳細もあるので、実用的でもあります。巻末には日本各県・世界各国別の基本データなど、興味深い各種データも掲載。イエナカ・ライフの充実にぜひ。
(河合)

 

『聖なる怠け者の冒険』

森見登美彦著 朝日新聞出版社
 1年ほど前に現れた、珍妙な格好ながらも困っている人々を次々と助ける「ぽんぽこ仮面」(フジモトマサル氏のイラストが表紙になっています)。彼が跡継ぎに目をつけたのが筋金入りの怠け者、社会人2年目の小和田君。宵山(祇園祭前夜)にあたる、ある長い土曜日に京都で繰り広げられた物語。 新作の発表が止まって3年、ファンとしてはどうしたものかとやきもきしていたところに、ついに出ました。全国の非活動的文化系の星、森見登見彦の長編小説です。朝日新聞連載を全面改稿、内容もかなり変わっているそう。当時連載を追っていた方も楽しめるのではないでしょうか。また、違う作品を読んでいる方にはニヤリとできる仕掛けもあります。久しぶりの軽妙な語りを満喫ください!
(河合)

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