“内部被曝”という現実──ルポ・原発問題②

ルポ:シリーズ・原発問題を考える②

“内部被曝”という現実


世界有数のウラン輸出国として原発産業を支えつつ、自国内には原子力発電所を持たない国オーストラリア。被爆国であるにもかかわらず、狭い国土に世界第3位の原発数を誇る原発大国・日本。原発を巡る両国のねじれた構造を、オーストラリアに根を張る日系媒体が取り上げないのはそれこそいびつだ。連載「原発問題を考える」では、原発を取り巻くさまざまな状況を記者の視点からまとめていく。
取材・文・写真=馬場一哉(編集部)


福島県郡山市の中学生からの言葉に聞き入る生徒たち

11月21日、記者はシドニーCBDから北に40分ほど車を走らせた緑豊かなテリー・ヒルズにある日本人学校を訪れた。この日、被災地支援活動家の小玉直也さんがYear5、6の小学生向けに行う講演を拝聴するためだ。

小玉さんは、「放射能とは何か」「どのくらいの危険性があるものなのか」といった話を質問を交えながら話した後、自身が被災地で撮影した写真を紹介した。

教室の前面に吊り下げられたスクリーンに写真が映し出される。最初の写真は2012年の七夕の日に福島県にある幼稚園に訪れた際、撮影された写真だった。そこには福島県の幼稚園児たちが願いを込めて書いた短冊が数多く映っていた。

「早くおうちに帰りたい」

「地震がなくなるように」

「放射能がなくなりますように」

「大人になるまで病気になりませんように」

これが今の幼稚園児が書く願いなのか。呆然と写真に写された短冊に見入っていると、児玉さんが言う。

「これは、小学校に上がる前の幼稚園児が書いたものです。みんな、自分たちがこのまま健康に生きていけるかということをすごく不安に思っているんです。これが福島の子どもたちの実態です」


10月26日、日本の「原子力の日」にシドニー市内では小規模な
がらデモが行われた

記者はこれまで心情的には例え許しがたく思っていても、原発に対して「NO!」と実際に声を張り上げることはしなかった。政治、経済、社会生活などさまざまな面で原発によって利益を得ている側面が少なくない現状、すぐさま原発をゼロにすることの難しさもまた理解できるからだ(もちろん、この点に関しても記者は詳しく追求していかねばと考えている)。だが、小さな子どもたちが実際に不安を覚え、おびえている姿を目にするにつけ「なぜ、人間はこんなものに頼ってしまったのだろう。何というバカなものを生み出してしまったのだろう」とどうしても思ってしまう。

しかし、「NO!」と声を挙げてしまわず踏みとどまっているのは、1つには自分がメディアの人間だから、というのがある。立場を選んでしまった時点で事実を伝える側の人間としての資格を失うと思っているからだ。また、どのような立場を取るにせよ、事態の本質を知ることなく選んでしまっては、より深く事態を知った時に自分の意見が反転する可能性も想定できる。すべてを知らずに声を挙げてしまう無責任なことは記者には今はまだできない。それをもって、「所詮、お前はただの傍観者だ」と言われればその批判は的を射ているかもしれない。だが、傍観者であるならば、誰よりも熱心な傍観者でありたい。事実を丹念に調べ、知り、見えてきたものを紹介することで、無関心層の気持ちを少しでも動かしたい。そういう気構えでこの原稿も書いている。もちろん記者もまた、取材を通して自分の中での判断材料がそろった暁には、いち個人として自らの信念に基づいた行動を選びたいと思うが、それを公言することはしないだろう。

「私たちのことを忘れないでください」


「毎日、ご飯の時に一瞬でもいいから福島の子たちが安全なご飯を食べていることを願ってあげてください」と小玉さんは講演の最後を締めくくった

「皆さん牛乳飲みますよね。その牛乳が危険だということ、想像できますか?」

小玉さんは子どもたちに問いかける。

「福島の牛さんのおしっこやうんち、牛乳から多量の放射性物質が出ているんです。なぜなら牛さんは放射線の数値が高い地面近くの牧草を食べているからです。ですから牛乳を飲むと内部被曝します」

当日、会場には小玉さんとともに福島県出身の中学1年生のJ君も訪れており、この話の後、小玉さんに促され登壇した。

「僕の趣味はサッカーです。中学校ではサッカー部に入部したけど、放射能のせいでグラウンドは使えないので、練習はいつも教室や廊下でやっています。たまに体育館が使えることもあるけど、全然練習できないから負けてばっかりです」

J君は照れ笑いを浮かべ、頭をかきながらちょっとだけ年下の生徒たちに向かって話し続ける。

「僕は牛乳が大好きなんですが、放射能が入っていることを知らなくてたくさん飲んじゃいました。で、検査したら尿から放射能が出ました。その後、僕のお父さんはNPOを立ち上げ、さまざまな野菜やお米から放射性物質が出ていないか調べています。お母さんは全国から野菜を取り寄せて、地元の人々に配っています」

教室がシーンと静まり返る。小玉さんが後を続ける。

「今から11日前、J君の家に『異常がある』という結果を記した手紙が届きました。A2判定という、これまでにないしこりが甲状腺に見られる下から2番目に重い判定です。チェルノブイリの事故の後、子どもたちが甲状腺のガンでいっぱい亡くなりました。100人や200人ではありません。だから、甲状腺に異常が出ることは子どもたちにとって怖くて怖くて仕方ありません。今、福島の子どもたちの40%に何らかの異常が見られています。そのうち、何人かは残念ながら亡くなってしまうかもしれない。そうならないように、僕たちはがんばっているんです。これから先、J君が長く生きられるように、僕たちは安全な野菜、安全な飲み物を届けなければならないのです」

例え、異常が見られても「ただちに問題はなく」、対処法としては「様子を見る」以外にない。何かしら問題が起こるまでは放置するしかなく、例えどこの病院に行っても「大丈夫」と言われる状況の中、誰もが「本当に大丈夫なのか」と不安に思っている。病院の医師の言葉を信用できない状況もまた深刻化しているという(この話については次回詳しく紹介する)。実は今回、J君がオーストラリアを訪れた大きな理由が、オーストラリアの医師に診断してもらい「セカンド・オピニオン」を得るためであった。例え「大丈夫」と言われるだけであっても、それによって得られる安心感は福島、いや日本の医師のそれとは雲泥の差なのだそうだ。

講演会の最後には、郡山市の中学校の女子生徒3人からのビデオ・レターが流された。

「皆さん、こんにちは。私たちは今いろいろと大変な状況にいます。放射能があって今年の夏はプールに入れなくて寂しかったですし、福島県では福島の食べ物しか売っていなくてそれを食べていいのか、心配です。将来、結婚できたとしても子どもが変な風に生まれてきてしまうか不安だし、今、楽しい時期なのに外で遊んだりとか、できないことがいっぱいあるので大変です。全国の皆さん、福島の中学生は不安を感じています。そんな私たちのことを忘れないでください」

これは私たちと同じ日常を送っている日本人の子どもたちの言葉だ。これを対岸の火事として見てはいないか。今1度、各人の胸に問いかけてみてほしいと思う。(第3回に続く)

講演を聴いて──日本人学校の生徒たちより

福島の幼稚園児たちが書いた七夕の短冊を見てびっくりしました。私が幼稚園児だったら、自分の将来の夢、やりたいことなどを書くけれど、福島の幼稚園児は放射能のことや命のことを書いていました。ピアニストとかサッカー選手になりたいと思うよりそういうことを短冊に書く幼稚園児がいるなんてすごい大きな問題なのだと思いました。(5年生 西原蛍樺)

僕は今回の話を聞いて、放射能がもっとこわく感じました。小玉さんは放射能のこわさを知ってて、被災地の人たちのためにボランティアに行く勇気がとてもすごいと思います。それに、被災地の人たちに放射能がかかっていない野菜を送るというすごいことをしているので尊敬します。Jくんもがんばってください。     (5年生 谷野夏輝)

ぼくは、小玉さんやJくんから地震の後、津波で家が壊されたりしたことや放射能で福島のおいしい柿が食べられなくなったということを聞いて、すごく驚きました。ぼくはそんな目にあう人たちを助けたいです。(6年生 加藤竣)

もし私が福島にいたら、学校では遊べないし、給食も100%安全かどうか分からない中で生活していたら…と考えると今の私たちはとても幸せなんだなと思います。また、今生きていることに感謝をしなくてはならないと思います。     (6年生 梶綾菜)

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