ルーシーのアート通信 スザンヌ・アーチャーの「Thrumming and Drummin」

ルーシーのアート通信

オーストラリアのアート業界で活躍中のコラムニスト・ルーシーが
オーストラリアを中心に活躍するアーティストと彼らの作品をご紹介。

第11回 スザンヌ・アーチャー
(Suzanne Archer)
「Thrumming and Drumming」

‘Thrumming and Drumming’, 2017, oil on canvas, 200cm x 361cm
‘Thrumming and Drumming’, 2017, oil on canvas, 200cm x 361cm

スザンヌ・アーチャーは、自身の作品について「比喩的かつ抽象的」で、表現力豊かな物語の中においてはしばしば自身の範疇(はんちゅう)を超えていると述べる。イギリスのサリー州に生まれたスザンヌは、20代の始めに来豪して以来、シドニー近郊のウェダーバーンという低草原地帯にある街に30年間住んでいる。若いころは白い家をペイントしたり、新聞紙など安価な素材を使用せざるを得ず、ポスターの文字を切り取り、ブラシを使って着色するコラージュ・アートを制作していた。

1969年、シドニー・クルーン・ギャラリーで開催されたスザンヌにとって初の個人展覧会でコレクションが披露され、大成功を収めた。彼女の作品は、瞬く間にテレビやニュースで取り上げられ多くの関心を集めると、その成功は後年も続き「Wynne 賞」や「Dobell 賞」などアート界で名高い賞を次々に獲得した。

スザンヌの自宅周辺の森林は、彼女にとって創造とひらめきの源泉だという。「節のある格子状の枝やごつごつとしたガムツリーから形成されるでこぼこの森、岩間に水溜りがある深い渓谷が風景を作り、そこへキンショウジョウインコやロックワラビー、コアラなどが頻繁に訪れ、蝉が鳴き、鳥が歌い、葉がささやく」と彼女は語る。初めて山火事を見た時には、青々として豊かな森が一瞬にして煙と共に灰になってしまう姿、そしてオレンジ色に染まった空が鮮明な印象として残ったという。山火事の余波から垣間見た自然の更新と再生という喜びに満ちた状態は、今日彼女が探究している死というテーマに影響を与えている。彼女の近年の作品には骸骨(がいこつ)の像や死んだ動物などがキャンバスを埋めているが、スザンヌは美しい像よりもむしろ複雑で挑戦的、かつ力強く永続的な印象を残すようなものを好んでいる。

死というテーマに関心を置くことは芸術家にとって彼ら自身の死生観と向き合う1つの方法であると言われている。特に「Thrumming and Drumming」のようなスザンヌの最近の作品では、テーマがダークでより一層ゴスの存在感を帯びており、暗い背景に昆虫や植物の形と影を演出する画法が用いられている。右上隅に浮かんでいる不気味な形象は、彼女自身が数年前に交通事故で骨折した際の骨盤だという。鑑賞者にとって楽しいものであるとは限らない作品だが、画家自身の自己更新と創造性の深化を感じ取ることができる。

スザンヌの作品は、9月12日〜5日にシドニーのキャリッジワークスで開催される「Sydney Contemporary Art Fair Australia」で展示される。

Web: www.nicholasthompsongallery.com.au/artists/suzanne-archer


ルーシー・マイルス(Lucy Miles)
オーストラリアと日本のアート業界で25年以上の経歴を持つ。クイーンズランド・カレッジ・オブ・アート並びにグリフィス大学でファイン・アート(ペインティング)の美術学士、クイーンズランド大学では美術史の優等学位を取得。現在、QLD州のサウスポートを拠点にファイン・アート・コンサルタントとして活躍中。
■Instagram: lucy_nsky
■Web: www.luceartbrands.com.au

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