絶品ドルチェにブオニッシモ! 美食のリトル・イタリ – Haberfield & Leichhardt

シティから1時間以内で行ける異国
特集 マルチカルチュラル・タウンinシドニー

絶品ドルチェにブオニッシモ!
美食のリトル・イタリー

Haberfield & Leichhardt

第2次世界大戦後、敗戦で荒廃した祖国を離れてシドニーに移り住んだイタリア人は、西郊のハーバーフィールドとライカート一帯にコミュニティーの拠点を築いた。現在では孫やひ孫の世代が中心となり、イタリア系オーストラリア人のアイデンティティーは薄まっている。だが、今も2つの町には本場の伝統的な料理を出すリストランテや秀逸なパスティッチェ(ケーキ屋)、バル(軽食店・酒場)などが集まり、情熱の国の美食文化はしっかりと息づいている。(リポート:守屋太郎)

ライカートの老舗カフェ「バル・イタリア」(Map⑩)でくつろぐ地元の人たち
ライカートの老舗カフェ「バル・イタリア」(Map⑩)でくつろぐ地元の人たち
ハーバーフィールドの人気ケーキ店「パスティッチェリア・パパ」(Map②)の店内。本場のドルチェを楽しむ大勢の客で常に混雑している
ハーバーフィールドの人気ケーキ店「パスティッチェリア・パパ」(Map②)の店内。本場のドルチェを楽しむ大勢の客で常に混雑している
「パスティッチェリア・パパ」(Map②)の店内に並ぶスイーツの数々
「パスティッチェリア・パパ」(Map②)の店内に並ぶスイーツの数々

アクセス
Haberfield 2045 NSW:シドニー中心部から「438」、「439」、「440」、「M20」などのバスで約30分。オパール・カード料金は$3.73
Leichhardt 2040 NSW:シドニー中心部から「438」、「439」などのバスで約40分。オパール・カード料金は$3.73

豪州の食文化に大きな影響

イタリア人が持ち込んだ豊かな食文化は、簡素な英国式の食生活に慣れていたオーストラリア人の胃袋に大きな変化をもたらしたと言える。最も影響が著しいのは、イタリア発祥のエスプレッソ文化だろう。都市部ではそれぞれの町に地元に密着した小さなコーヒー店がある。客は好みのバリスタが淹れるエスプレッソを毎日飲みに来る。バリスタは聞かなくても常連客が飲むエスプレッソ、砂糖の有無を覚えている。そんな習慣が根付いている。

米国シアトル発の大手チェーン、スターバックスが2014年にオーストラリアから撤退(現在はオーストラリア企業がスタバの看板を借りて経営を継承)したのも、そうしたイタリア人仕込みの本場カフェ文化に勝てなかったからだ、という説が有力だ。ちなみに、全世界に約3万店を展開するスタバが、エスプレッソの本場イタリアにようやく1号店をオープンしたのは約1年前のことである。

ただ、広く普及しているピザを除いては、本格的なイタリア料理がオーストラリアに根付いているかと言うと、必ずしもそうではない。近年、料理の水準が高くなったとされるシドニーでも、一般的なレストランでパスタを頼むと大抵茹で過ぎで、ソースもベトベト。イタリア風スイーツも、砂糖入れすぎで甘すぎることが多い。本場の味に忠実な店は意外と少ないのである。

その点、古くからあるイタリア人街であるハーバーフィールドやライカートには、イタリア人によるイタリア人のための料理やスイーツを出す良店がいくつもある。

ペペロンチーノに感激

間口の狭い古いテラスハウスが並ぶハーバーフィールドの町並み
間口の狭い古いテラスハウスが並ぶハーバーフィールドの町並み

19世紀初頭、英国で生まれた理想の郊外住宅地の理念「田園都市」をモデルに宅地化されたハーバーフィールド。中心街は、ダルハウジー·ストリート(Dalhousie St.)とラムジー・ストリート(Ramsay St.)の交差点から約50メートル四方の小さなエリアだ。

まずは老舗のリストランテ「ドルチッシモ」(Map①)へ。イタリアのラガー「ペローニ」(8ドル50セント)で乾ききったのどを潤す。そして白のハウス·ワイン(8ドル)と「スパゲッティ·アル·アーリオ·エ·オーリオ」(18ドル90セント、通称「ペペロンチーノ」)を注文した。オリーブ·オイルでニンニク、チリを熱して、スパゲッティーをソテーした基本のパスタ料理。「すし屋の卵焼き」的な、店の真価が問われるメニューだ。

ハーバーフィールドの中心にあるレストラン「ドルチッシモ」(Map①)の「スパゲッティ・アル・アーリオ・エ・オーリオ」
ハーバーフィールドの中心にあるレストラン「ドルチッシモ」(Map①)の「スパゲッティ・アル・アーリオ・エ・オーリオ」

細めのパスタは、博多ラーメンで言えば「バリカタ」なアル·デンテ。エキストラ·バージン·オリーブ·オイルは、刻み唐辛子でサーモン·ピンクに染まり、視覚も鼻腔も刺激する。そしてオイルに溶け込んだニンニクのうま味、パセリの香味、コシの強いパスタの食感が高い次元で融合している。

この店は、「WA州産スキャンピー(アカザエビの一種)のグリル」(時価)、「ジョン·ドーリー(マトウダイ)のグリルのエキストラ·バージン·オリーブ·オイル、レモン、パセリ和え」(39ドル90セント)などの魚介料理もうまい。

リコッタ・チーズの魔法

食後のデザートは、こちらも老舗のケーキ店「パスティッチェリア·パパ」で。4メートルはある陳列ケースに数十種類のドルチェが並ぶ店内は圧巻だ。レジには持ち帰りの客で長い行列ができていて、25席ほどあるカフェも午後4時過ぎにもかかわらず席はほぼ埋まっている。

「パスティッチェリア・パパ」(Map ②)の看板商品「リコッタ・チーズケーキ」
「パスティッチェリア・パパ」(Map ②)の看板商品「リコッタ・チーズケーキ」

この店の看板商品「リコッタ·チーズケーキ」(7ドル)と、「マキアートのダブル·ショット」(4ドル)をレジで先払いして注文。全く甘さが感じられず、なんともあっさりと上品な味わいだ。柔らかいタルト生地に包まれ、豆腐のようにふんわりとした、乳脂肪分の低いリコッタ·チーズに白い粉砂糖が振りかかり、まるで雪景色のよう。

隣には、本格的な食事ができる「リストランテ·パパ」も併設。「キングフィッシュ(ヒラマサ)のカルパッチョ」(23ドル)、「手作りニョッキ 和牛ラグー(煮込み)和え」(27ドル)、「タコの天ぷら サフラン風味のマヨネーズ添え」(26ドル)など日本のイタリアンを意識したようなメニューが並んでいて、興味深い。

同店によると、イタリア南部シシリア島出身のケーキ職人、サルバトーレ·パパ氏は80年代にシドニーを訪問。その際、イタリアの伝統的な味覚が一般に浸透していないことを知り「子どもの頃から親しんでいるレシピでケーキを作る店を創業した」のだという。現在では本店の他、東郊のボンダイ·ビーチと西郊のファイブ·ドックにもケーキ店とカフェを出店。いずれも繁盛しているそうだ。

店を出ると、ピッカピカの真っ赤な「フェラーリF430スパイダー」が駐車場に鎮座していた。新車時の税込み価格が50万ドル以上という、イタリア製の超高級スポーツ·カーだ。車体色と同じ真紅のナンバー·プレートには白字で「PAPA1」の文字が……。パパさん、ケーキ作りでオーストラリアン·ドリームをつかんだんだね。

イタリア食材も買って帰ろう

ハーバーフィールドにはこの他にも、ピッツェリア(ピザ専門店)やリストランテの良店が点在している。記者の知人で食にめっぽううるさいイタリア人が昔教えてくれたのが、ナポリ・ピザの名店「ナポリ・イン・ボッカ」。窯焼きの本格的なピザはもちろん、伝統的なナポリ料理が味わえる。

ラムジー·ストリートの「サン·バレンティーノ」(Map④)や「ラ・ディスフィーダ」(Map⑤)も、本場の料理を提供する繁盛店である。「ビストロ・ココット」(Map⑥)は、イタリアンではないが、フランスの家庭料理が手軽に楽しめる小粋なビストロだ。

本場のイタリア食材を豊富に取り揃えているスーパーマーケット「ラモニカIGAハーバーフィールド」(Map⑦)
本場のイタリア食材を豊富に取り揃えているスーパーマーケット「ラモニカIGAハーバーフィールド」(Map⑦)

この街には、本場イタリアの食材が買える小売店も点在している。スーパーマーケットの「ラモニカズIGAハーバーフィールド」(Map⑦)は、オリーブ・オイルやバルサミコ酢、ワイン・ビネガーなどのイタリア製調味料の品揃えが豊富なイタリア版「東京マート」。店内のデリカテッセンでは生ハム、燻製肉、塩漬けの豚肉、オリーブ、チーズなどさまざまなイタリア食材が並んでいる。

ハーバーフィールドと言えば、かつてマクドナルドが進出を計画したところ、「私たちの町にファスト·フード店は要らない」と住民の間で反対運動が起こり、メディアを賑わせたことがある。住民の声を受けて、当時のアッシュフィールド市(現在はインナー·ウェスト市に再編)は出店計画を承認しなかった。争いは法廷に持ち込まれた。結局、マクドナルド側が勝訴して開店にこぎつけているが、地元のイタリア系住民の食に対するこだわりを象徴する出来事だった。

イタリア人の食へのこだわりはとても深い。昔、記者が借りていた家の庭で、シシリア島出身の大家さん、セリーナお婆ちゃんが一生懸命にカタツムリを採っていたので「なぜカタツムリを集めているの?」と聞いた。お婆ちゃんはこう答えた。「1週間、何も食べさせずに排泄させて内臓を奇麗にしてから、更に1週間ワインに漬け込むの。それからオリーブ·オイルでソテーして、パセリとレモン汁をかけて食べると最高においしいのよ!」

お婆ちゃんに最後に会ったのは、若い時に数万ドルで買ったというその家が80万ドルで売れた時。「最後の車になるわ」とそのお金で買った真紅のアルファロメオ(イタリアの車メーカー)の新車を見せに来てくれた。イタリア人は皆、祖国を愛しているんだね。

イカスミのうま味に感動

ノートン・ストリートとマリオン・ストリートの角にあるライカート・タウンホール(Map⑧)の時計台
ノートン・ストリートとマリオン・ストリートの角にあるライカート・タウンホール(Map⑧)の時計台

ハーバーフィールドの東に隣接しているライカート。町を南北に貫くノートン·ストリートは、シドニーを代表するイタリア人街として有名だ。

ただ、近年は昔からあったイタリア料理の銘店が次々と看板を下ろし、タイ料理やスシ·ロール、中華料理の店が増えた。町のシンボルであるライカート市庁舎の時計台(Map⑧)からノートン・ストリートを北に歩いていくと、閉店して借り手がつかない物件が目立つ。家賃が高騰して経営が成り立たない店が増えている。「リトル・イタリー」として栄えていたかつての面影はない。

そんな中で、生き残っている老舗店もある。ノートン·ストリートの北端にある料理店「グラッパ·リストランテ·エ·バル」(Map⑨)。1999年創業のこの店は、シンプルで上品な味付けが絶妙で、記者は20年近く通っている。メイン(主菜)もオントレ(前菜)サイズで注文でき、多彩な料理をシェアしながら、ワインを飲んで楽しむ、といった洋風居酒屋的な楽しみ方ができるのもうれしい。

オントレにチョイスしたのは「ズッキーニ·フラワー·フォー·チーズ」(23ドル)。花の中に、ペルミジャーノ、リコッタ、ペコリーノ·サルド、タレッジョの4種類のチーズを詰め、軽く衣を付けて揚げてある。ズッキーニのサックリ感と、とろけた上質なチーズのまろやかさが出色だ。

ライカートの町の外れにあるレストラン「グラッパ」(Map⑨)の「ズッキーニの花とチーズ4種のフリット」
ライカートの町の外れにあるレストラン「グラッパ」(Map⑨)の「ズッキーニの花とチーズ4種のフリット」
「グラッパ」(Map⑨)の「イカ墨のリゾット」
「グラッパ」(Map⑨)の「イカ墨のリゾット」

メインには、オントレサイズで「イカ墨のリゾット」(28ドル)をオーダー。コウイカとエビ、白身魚のうま味が硬めのイタリア米に染み込み、キリリと冷えたマルボロのソーヴィニヨン·ブランに良く合う。他にも、「ミナミマグロのカルパッチョ」(26ドル50セント)や「SA州産ボンゴレと白ワイン·ソースのスパゲッティーニ」(28ドル)など魅力的なメニューがいっぱいだ。

ライカートの「バル・イタリア」(Map⑩)名物のジェラート
ライカートの「バル・イタリア」(Map⑩)名物のジェラート

ラストは、1952年創業の老舗「バル·イタリア」(Map⑩)へ。バル(Bar)と言っても酒場ではなく、気軽なカフェ・レストランといった感じ。料理は今ひとつでお薦めできないのだが、同店の本領はジェラートとコーヒー。ショーケースに並んだ約20種類の中から、ティラミスとパッション·フルーツをチョイスし、エスプレッソを注文して、緑が生い茂った中庭で一息付いた。

ところで、イタリア料理と日本料理には共通点が多い。例えば、和食では昆布と鰹節でだしを取ることでうま味成分(グルタミン酸やイノシン酸など)を抽出するが、イタリア料理も「グルタミン酸が豊富なトマトとパルミジャーノ(·レッジャーノ)を多用する」(雑誌「あまから手帖」2010年4月号)。パンチェッタ(豚バラ肉の塩漬け)もイノシン酸を豊富に含むという。複数のうま味成分で相乗効果を引き出す手法は、和食もイタリア料理も同じなのだ。また、素材の良さを引き立てるイタリア料理のシンプルな調理法も、和食と似ている。

そのためか、日本発祥の「イタリア料理」も少なくない。例えば、もともと生肉料理だったカルパッチョに魚の刺身を初めて使用したのは、日本のイタリア料理の巨匠·落合務氏。マグロやサーモンなどのカルパッチョは本国に逆輸入されて世界に広まり、シドニーでも提供している料理店は多い。

日本人も大好きなイタリア料理。シドニーで本物の味に飢えている人は、ぜひハーバーフィールドとライカートを訪れてみては?新鮮な感動が味わえることだろう。

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