カンガルーの赤ちゃん

 オージー・ワイルドライフ 診療日記

 第8回 カンガルーの赤ちゃん

オーストラリアにしか存在しない動物は鳥類から哺乳類までたくさんいますが、お腹にある袋の中で赤ちゃんの成長を見守る有袋類は特に珍しい動物です。体高2メートルにも及ぶオオカンガルー(Eastern Grey Kangaroo)は東海岸全域に広く生息しています。

ある夜、ケガをしたカンガルーが道路で動けなくなっているという電話をもらい、野生動物レスキュー・グループのメンバーと現場に向かいました。見通しの悪い道路を懐中電灯を使って探していくと、茂みの中にその姿を見つけました。私たちの気配に気付くとすぐに立ち上がろうとしましたが、後ろ脚のケガにより倒れてしまい、必死にもがいていました。ゆっくり近づき毛布をかけ、鎮静剤の注射を打ちました。野生動物は追跡や騒音など極度の緊張やストレスがかかると、捕獲性筋疾患という筋肉が壊死して死に至る病気になってしまうため、少人数で短時間の捕獲を行います。また速やかにストレスから解放させるため、鎮静剤や麻酔銃も用いられます。

車にひかれたと思われ、かわいそうなことに、両後ろ脚の骨が皮膚を突きやぶるほどのひどい骨折をしていました。その脚の間から、お腹の辺りがモゾモゾと動くのが見られ、中には、まだうっすらとしか毛が生えていない赤ちゃんがいたのです。残念ながらお母さんは骨折だけでなく肺からも多量の出血があり、手の施しようがなく、安楽死を行いました。

赤ちゃんはお母さんの袋の代わりの枕カバーに移され、すぐに病院へ運ばれました。体中にアザがあったものの、お母さんが守ってくれたためか骨折もなく元気な様子。お母さんを亡くしたカンガルーの赤ちゃんは保護士さんの元で育てられます。保育器の温度や湿度をできるだけお母さんの袋の中の環境に近づけたり、2~3時間置きに代用ミルクを与えたり、トイレの世話をしたりと、本当に大変なことを何カ月も続けなければいけません。

野生動物の保護、治療、リハビリをする過程で私が獣医として関わるのはほんの少しだけ。ボランティアで動物の捕獲やリハビリ、人工保育を行ってくれる保護士さんなくして、野生動物の治療は成り立たないのです。

Wildcare Australia
Web: wildcare.org.au

 
 
■床次史江(とこなみ ふみえ)

クイーンズランド大学獣医学部卒業。カランビン・ワイルドライフ病院で年間7,000以上の野生動物の診察、治療に携わっているほか、アニマル・ウェルフェア・リーグで小動物獣医として勤務。

 幌北学園 blancpa novel-coronavirus nichigowine  kidsphoto

新着記事

新着記事をもっと見る

新着イベント情報

新着イベントをもっと見る