ワイルドライフ診療日記・ペリカンのブルース

 オージー・ワイルドライフ 診療日記

 第4回 ペリカンのブルース

大きなくちばしと白い体に黒い羽が特徴のコシグロ・ペリカン(オーストラリア・ペリカン)は、オーストラリア沿岸部や湖、河川などに広く生息しています。大きな魚を丸ごと飲み込んでしまう姿は圧巻で、定期的に餌付けを行って人気のアトラクションとなっている場所もあります。しかし、こうして人に慣れていることが時には命取りとなってしまうこともあるのです。

くちばしから釣り糸を垂らしているペリカンがいるという知らせを受けた野鳥保護士のマリーさんは、NSW州北部を流れるツイード川でカヌーでの救助にあたりました。当のペリカンはマリーさんが助けようとしていることなど理解できるはずもなく、逃げようと暴れた時に、釣り針がついたままの魚を1尾、のどの奥から吐き出しました。さらにもう1本、釣り糸がのどの奥に見つかり、引っぱっても抜ける様子がなかったため、病院に連れて来られました。

ブルースと名付けられたこのペリカンは、病院に着くとすぐに麻酔をかけられ、レントゲン撮影によってお腹の中に10センチ以上もの長さの釣り針があることが確認されました。既に食道を通って胃に達してしまっているため内視鏡による摘出は困難と判断し、開腹手術に臨みました。ブルースの胃からは、未消化の魚が1尾と、そのエラに刺さったままの大きな釣り針、そして何重にもからまった釣り糸が摘出されました。幸いにも術後の経過は順調で、手術の傷跡が治った1週間後にブルースは野生に返されました。

釣り針による被害はペリカンだけでなく、魚をエサとするほかの海鳥や亀にも及びます。針が食道や胃を貫通してしまったり、飲み込んだ異物のせいでエサを食べられず飢えて命を落とす動物もいます。使った釣り道具は皆さんしっかり片付けて持ち帰っていることと思いますが、ビーチへ出かけた時などにもし釣り餌や道具が放置されているのを見つけたら、付近のゴミ箱に捨てるなどして、ブルースのような被害者が増えないようにご協力をお願いします。

 
 
■床次史江(とこなみ ふみえ)

クイーンズランド大学獣医学部卒業。カランビン・ワイルドライフ病院で年間7,000以上の野生動物の診察、治療に携わっているほか、アニマル・ウェルフェア・リーグで小動物獣医として勤務。

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