資源ブームとその後を視野に ― 11年度政府予算案

経済ハイライト

小平直樹・時事通信社シドニー特派員
オーストラリア経済の動き

資源ブームとその後を視野に

― 11年度政府予算案

オーストラリアのギラード労働党政権下で初めて策定された2011年度(11年7月~12年6月)連邦予算案。就業率向上などを目指した雇用政策と12年度の財政収支黒字化を打ち出した。具体的な政策内容や黒字化の実現可能性については野党などから批判や懐疑的な見方も出ているが、ギラード首相は「これは我が国の経済が現在必要とするものだ」などと売り込んでいる。

予算案策定に当たってベースとした今後の経済展望と戦略については、予算書「ステートメント4」で説明されている。

目下の課題として資源開発ブームにどう対処するか。そして、“ブーム後”の先をにらんで豪州はどのような成長戦略を採るべきか--。今後の中国やインドの中間階級急増がもたらすチャンスを生かすため「知識ベースで多様かつサービス指向の経済への転換」を長期的な方向として打ち出している。

まず対処しなければならないのは、11年度に過去最高の760億ドル、そして先行きでは計3,800億ドルの投資が計画される資源ブーム。資源価格高の恩恵を受けたブームは、技能労働者不足やインフレ加速といった懸念を引き起こし、その副産物でもある豪ドル高は資源以外の輸出関連業界には逆風となっている。豪ドルは、5月初めに1豪ドル=1.1012米ドルと、1983年の変動相場制移行後の最高値を更新した。

予算案では、資源企業の人材不足懸念に対応して、1万6,000人の地方技能移民受け入れ枠の創設を打ち出した。併せて長期滞在ビジネス・ビザ(サブクラス457)で2年間の地方で過ごした人は、さらに2年の地方雇用主の保証があればから永住ビザへの切り替えを容易にする措置を打ち出した。賃金インフレ加速の恐れが指摘される労働力不足問題に関しては、雇用訓練支援とともに就業への動機付けを高める税制改正を打ち出した。

ギラード首相は「ブームにもかかわらず、長期失業者がいて、高校生の子どもを持つ働けるシングル・マザーに職がなく、身体障害者が働きたいと思っても職を得る機会がないという状況は見たくない」と強調。政府は、労働への参加促進を通じてブームの経済的恩恵を隅々に行き渡らせていくことも狙っている。また、歳出の伸び抑制による財政黒字化は「インフレ圧力を増さないよう」にするために不可欠だと説明している。

かつて「羊の背に乗った国」とされた豪州。羊毛の輸出で栄えた後、世界のニーズの変化に対応して産業構造を遷移させてきた。予算書は、現状について、製造業の経済全体に占める比率がGDP(国内総生産)と雇用の両面で低下しており、金属など鉱業関連分野は比較的健闘しているが、繊維などの落ち込みは加速していると指摘。一方、雇用の4分の3を占めるサービス業への構造的なシフトが進んでいるとした。

中印の中間階級市場にターゲット

その上で、資源ブーム後に注目している変化として、中国とインドで大きな中間階級が出現して、その消費拡大が見込まれることに言及。予算書は、中国とインドのGDPは20年には合わせて世界の4分の1を占め、米国、日本、東南アジア諸国連合(ASEAN)5カ国合計に匹敵するようになると予測し、中国とインドの消費者の所得の向上に従って、嗜好品やサービスの購入が増え、需要が拡大することへの期待を示した。

その恩恵を受けると期待している分野の1つが、豪州最大のサービス輸出を担う教育産業。中印からの留学生数は既に急速に増加している。また、中国向けワイン輸出のシェアも5年前と比べて5倍に拡大している。観光分野も中印の海外旅行者急増の追い風を受けそうだ。中国から豪州を訪れる旅行者は08年度に日本を抜き、トップの米国に迫りつつある。豪ドル高の逆風でも中国とインドからの旅行者は増加見通しだとしている。

予算書は、こうした展望を示した上で、チャンスを生かすためには、就業率や生産性の向上が長期的には重要であり、人々の才能を活用する政策が必要だとした。知識集約型産業やサービス産業に長期かつ継続的な経済発展の道を見出していく戦略だ。個々の政策について野党や利害関係者から是非の声が上がっているものの、予算案の多くの政策を見るとそうした考え方で優先付けをしている様子がうかがえる。

印とFTA交渉開始で合意

エマーソン貿易相は5月12日、キャンベラでインドのシャルマ商工相と会談し、豪印間の自由貿易協定(FTA)締結に向けた交渉開始で合意した。6月末までに第1回交渉を行う予定。豪州にとってインドは、中国、日本に次ぐ第3位の輸出相手国。昨年まとめられた豪印の共同研究によると、FTAが締結されれば、20年間で双方の国内総生産(GDP)をそれぞれ300億米ドル以上押し上げる可能性があるという。

エマーソン貿易相は、インドとの包括的なFTAを実現することにより、商品貿易の幅の拡大やサービス貿易に関する非関税障壁の除去、投資促進などにつながろう、と期待を示した。豪州のインドへの主要な輸出品は金、石炭など。同貿易相は、中間階級の増加が見込まれるインドにとっては、食料安全保障も関心事になろうとの見方を示している。貿易相会合では、両国間の貿易を5年間で倍増させる目標でも合意した。

豪印関係は、08年にラッド豪首相(当時)が前政権によるインドへのウラン売却を認める方針を撤回したことや、豪州でのインド人留学生襲撃事件などで、もつれた。しかし、09年には戦略的パートナーシップで合意、安全保障協力に関する共同宣言に署名し、関係を深めている。FTA交渉開始は両国関係をさらに固めるもので、豪州にとっては中国への過剰な依存を減らすことができるとみられている。

世界初の浮体式LNG施設建造へ

英・オランダ系石油大手ロイヤル・ダッチ・シェルによる、世界初となる浮体式の液化天然ガス(LNG)施設建造計画が正式に動き出した。WA州沖合のガス田洋上に浮かべたLNG施設でガスを液化し出荷する「プレリュード」事業で、2016年ごろからのLNG生産開始を目指している。計画生産量は年360万トン。事業投資額は明らかにしていないが、100億米ドル超と推定されている。

施設は全長488メートル、幅74メートル、重量は貯蔵タンクを満たした状態で60万トンと最大級空母の約6倍。最強クラスのサイクロンにも耐えられる設計。韓国の造船所で建造される。

従来の沖合ガス田開発では、採掘したガスを陸上のLNG施設まで輸送するため長距離の海底パイプラインを敷設してきたが、ガス田の洋上に配置できる浮体式の採用により、低コストでの生産が可能になる。中小のガス田開発に向いた方法として期待されている。

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