炭素税、約500社が徴収対象に

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小平直樹・時事通信社シドニー特派員
オーストラリア経済の動き

炭素税、約500社が徴収対象に

ギラード政権は、日系企業を含む約500社を対象に来年7月から炭素税を課す計画だ。同時期には資源企業を対象とした鉱物資源利用税(MRRT)の導入なども予定されている。ただ、最大の貿易相手国である中国の景気減速などで、豪経済の成長見通しがやや弱まっており、それが新税導入論議に微妙な影響を与える可能性もある。

政府の想定によると、二酸化炭素(CO2)排出1トン当たり23ドルの炭素税は、導入初年度に消費者物価指数(CPI)を0.7%押し上げる見通し。GDP(国内総生産)成長率は向こう40年間にわたって年0.1ポイントの押し下げ要因になると推定。これにより、この間の成長率は年2.6%になるとみられている。

連邦議会がまとめた資料によると、炭素税の課税対象になりそうな企業(CO2換算で年間2万5,000トン以上排出)では、NSW州が保有する発電事業者マッコーリー・ジェネレーションを筆頭に、鉄鋼大手ブルースコープ・スチール、英豪系資源大手のリオ・ティントやBHPビリトン、カンタス航空などが上位に並ぶ。

日系関連ではBHPと三菱商事との合弁会社であるBHPビリトン三菱アライアンス(BMA)の事業会社のほか、出光興産子会社の出光オーストラリアリソーシス、キリンホールディングス傘下のライオンネイサン・ナショナルフーズ、トヨタ自動車の豪州法人であるトヨタ・モーター・コーポレーション・オーストラリア(TMCA)などの名前も。

 

◇閉鎖を余儀なくされる炭鉱も

資源業界の炭素税への反応は批判的だ。リオは「投資や雇用の伸びの妨げとなるのは避けられない」と警告。豪資源業界は「競合相手にはない、かなりの追加コストに直面している」としている。業界団体ミネラルズ・カウンシル・オブ・オーストラリア(MCA)は、資源産業は12〜20年の間に250億ドルのコスト増に直面すると推定している。

特に石炭部門では、温室効果の大きいメタンガスを石炭層に多く含む炭鉱もあり、そうしたところでは大幅なコスト増が見込まれている。豪石炭協会は炭素税の導入による採算悪化で「最大18炭鉱が閉鎖することになろう」と予測。業界には、鉱物資源利用税(MRRT)と炭素税による二重の打撃を懸念する声や、炭鉱から発生するメタンガスへの課税は世界で例がないとの批判もある。

ギラード首相は、メタンガスの発生量の多い炭鉱に対し、排出削減に報償を与える13億ドルの影響緩和策を用意したことを強調。また、豪マッカーサー・コールが米石炭大手ピーボディー・エナジーと鉄鋼大手アルセロール・ミッタルの2社共同による買収提案を受けたことは「企業家が豪州の石炭産業に明るい将来を予想していることを示すこの上ない例だ」と懸念に反論した。石炭協会も、引き続き大いに利益を上げる炭鉱もあろうと認めている。

ただ、13億ドルの影響緩和策の実現性については微妙な部分もありそうだ。政権への影響力を拡大する緑の党は、CO2発生量の多いエネルギーとしての石炭に否定的で、炭鉱のメタンガス課税をめぐる影響緩和措置は不要との考えを示しているためだ。


資源大手リオ・ティントのWA州ケープ・ランバート港での鉄鋼石積み出し作業。同社も炭素税課税対象企業として上位に名を連ねる(Photo: Rio Tinto)

鉄鋼業界は、4年間で3億ドルの支援措置が盛り込まれたことに歓迎の意を示している。ブルースコープは、政府はとても実践的に鉄鋼メーカーの懸念に耳を傾けたと評価している。鉄鋼は、国際競争力低下や雇用喪失を防ぐために無償排出権が付与される影響緩和措置対象業種に含まれ、当初3年間、排出負担の94.5%相当の支援も受けられる。

カンタス航空は、ニュージーランドや欧州連合(EU)と違い、航空業界への支援や緩和の措置がなく、影響がそのまま即座に及ぶことへの不満を訴えている。同航空では、13年6月期の通期業績で1億1,000万〜1億1,500万ドルのコスト増を想定。国内線片道平均で3.50ドル程度値上げし、利用者にコストを転嫁する方針だ。

TMCAの安田政秀社長は、炭素税について、最大で年1,500万ドル、現地生産車1台当たりでは約112ドルのコスト増要因になると推定。クリーン・エネルギーの未来ビジョンを支持する一方で、豪州での生産が輸入車と比べて不利な立場に置かれるなどと指摘。導入時の炭素税はトン当たり10〜15ドルが望ましいと訴えた。

小売業界には、電気料金上昇などに見舞われる家計への支援策として、年金給付の増額分の一部が来年半ばにまとまって支払われることへの期待がある半面、炭素税の脅威を強調する反対運動が消費マインドをさらに損なうとの懸念もある。政府は家計への減税や給付金増によって、3分の2の世帯では暮らし向きは悪くならないと説明している。

政府は、炭素税の計画と併せ、クリーン・エネルギー融資公社を創設し、同公社を通じ、再生可能エネルギー産業などの支援で100億ドルの投融資を行うことなども発表した。太陽光や風力、波力といったクリーン・エネルギー分野のビジネス育成を狙ったものだ。

 

◇年内利下げの見方も

豪準備銀行(RBA、中央銀行)は7月の理事会議事録で、「11年の実質GDPの伸びはこれまでの予測ほど強くならないだろう」と指摘。欧州の債務問題などで世界の景気に下振れリスクが高まったことや、インフレ対策で金融引き締めを継続する中国の成長が鈍化したことなどを背景に、豪経済は中期的には強いとしながらも、目先の景気見通しを弱めている。

7月の議事録では「ある時点」での利上げが必要になるとの文言が盛り込まれなかったことから、RBAは利上げにらみの従来の姿勢をやや中立的にシフトさせたものとの見方が広がった。これまでのRBAの声明などから追加利上げを予想していたエコノミストらの間では、早期の追加利上げ観測が後退。コモンウェルス証券は次の動きは利上げとなる公算が大きいが、少なくとも11月までは据え置くと予測した。

一方、利下げ観測も一部に浮上している。ウエストパック・インスティテューショナル・バンクは、RBAが今年12月に0.25%の利下げに踏み切り、12年末までに計1%の引き下げを行うと予想。欧州の債務問題の世界金融市場への波及などが、利下げのきっかけになる公算が大きいとし、鉱業部門以外の豪経済の状況を踏まえると、金利は高過ぎ、引き下げ調整が必要になるなどと説明している。

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