第7回 原発ゼロの国NZの地熱発電

豪リークス

民放現役通信員の豪リークス

在豪16年、現在TBSのシドニー通信員を務める筆者が、オー ストラリアの“ホット”な話題を独自の視点で分析する。 あっと驚く“裏情報” や“暴露(リーク)情報も!?

第7回 原発ゼロの国NZの地熱発電

東京電力福島第1原発事故後、太陽光などの再生可能エネルギーの開発に注目が集まっているが、日本と同様地震国のニュージーランドは、原発を持たず地熱などの再生可能エネルギーで電力をまかなう政策をとっている。環境に優しく安全な発電システムとして有望視される地熱発電をニュージーランドではどのように推進しているのだろうか?

◇森の中の地熱発電所

牧牧草地と針葉樹林を通るなだらかな勾配の1本道を登り切ると、前方に吹き上がる白煙が見えてくる。工場から突き出る噴煙とは違い、水分を含んだ雲のようにふんわりと湧き上がるその煙は、ニュージーランド最大規模の地熱発電所から出る水蒸気だ。

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手で触れることもできるワイラケイ地熱発電所のパイプ

ニュージーランド最大の都市オークランドから車で約4時間。NZ北島のほぼ中央のタウポ火山帯に位置するワイラケイ地熱発電所は、1958年に運転を開始した世界で2番目に古い商業用地熱発電所で、出力17万キロワット、約17万世帯に電力供給が可能だ。

発電所敷地内に張り巡らされた全長70キロに及ぶメタリック・シルバーのパイプの中には、摂氏約200度の熱水と蒸気が流れているが、特殊加工により外側に熱が放出されることはなく、実際にパイプに触らせてもらうと、ほどよい温かさで頬を付けることさえできた。

地下1,000〜3,000メートルにあるマグマ溜まりに熱せられた地下水と水蒸気でタービンを回転させ発電するこの地熱発電は、福島第1原発事故後、ますます脚光を浴びる発電システムだ。地球内部の熱の移動や放射性物質の崩壊により生み出される地熱エネルギーは、膨大かつほぼ無限。燃料を地上で燃やさないためCO2の排出量は極めて少なく、発電に使った地下水は冷却され再び地下に戻され、原発のように危険な使用ずみ燃料を出すこともない。また、太陽光や風力発電のように天候や気象条件に左右されず24時間電力を安定供給することが可能で、まさにいいことづくめの「再生可能自然エネルギー」だと言える。

今年2月に発生したクライストチャーチ大地震の記憶も新しい地震国ニュージーランドは、国内に原子力発電所を1基も持たず、水力や風力などの再生可能エネルギーで電力の7割以上をまかなっていて、そのうち地熱発電は総発電量の13%を占めている。しかもNZ政府は、2025年までに国内電力の9割をこれらの再生可能エネルギーに転換させるという目標まで立て、新しい地熱発電所の建設も続々と推し進めている。

また、ワイラケイ発電所周辺には、日本の富士電機が地熱タービンを設置した単機容量世界最大のナアワプルア地熱発電所や、東芝が発電設備を受注した2013年開業予定のテミヒ地熱発電所などもあり、多くのニュージーランドの地熱発電所に日本企業の高度な技術が採用され、多大な貢献をしている事実に少々驚かされた。同じ火山国日本における地熱発電所の建設は、遅々として進んでいないからだ。

◇先住民マオリも協力

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復元された先住民マオリ族の温泉場 (筆者撮影)

環太平洋火山帯に位置する日本の地熱資源量はNZをはるかに超え、アメリカ、インドネシアに次いで世界第3位の2,347万キロ・ワットで、原発20基分に相当するという。しかし、日本国内の地熱発電所は大小18カ所のみで、総発電量のわずか0.3%しか占めておらず、2000年以後1カ所の新設もない。

日本の火山地帯の8割が国立公園に指定されているため開発が困難で、温泉源の枯渇を心配する周辺の観光業者の反対などが地熱発電所建設を推進できない主な理由だというが、状況はニュージーランドでも大して変わらない。山を切り開いてパイプを張り巡らせたワイラケイ地熱発電所の景観は、お世辞にも“美しい”とは言い難いし、発電所の建設当初は、地元先住民マオリ族の反対などもあった。

ワイラケイ地熱発電所の隣に「ワイラケイ・テラス」という温泉リゾートがある。リゾート周辺にはかつて先住民マオリ族の戦士が傷を癒した「テラス」と呼ばれる河岸段丘状の天然温泉があったというが、発電所の建設による地盤沈下などで「テラス」の大部分が消失してしまったという。しかし、今では珪石(Silica)の黄みを帯びた乳白色の見事な「テラス」が復元され、真っ白い湯けむりの中から幻想的なその姿を現している。

発電所は、汲み上げた温水を地下に敷設したパイプを通して“お隣さん”のこのリゾートに提供し“共存共栄”を図っているのだ。先住民の歌と踊りのパフォーマンス・ショーも行うリゾートの共同経営者で、マオリ族のラエウィンさんは、「地熱地帯にはマオリが聖地と崇める場所もある。心の奥底では発電所に反対しているが、電力会社とお互い協力してやっている」と、我々に話してくれた。

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温泉リゾート「ワイラケイ・テラス」での先住民マオリ族のショー(筆者撮影)

前回このコラムで、オーストラリア北部のウラン鉱山開発に反対する先住民アボリジニの人々の話題を取り上げたが、NZでは政府や電力会社が先住民の理解と協力を得ながら発電所の建設などを進めている。発電所を運営する電力会社は、近隣のエビの養殖場や地元農家の温室、木材の乾燥、また病院の暖房などへの地熱の直接利用にも協力している。

◇原発ゼロの国NZ

ニュージーランドが地熱発電など再生可能エネルギー開発を積極的に推進しているもう1つの背景に、この国が堅持するユニークな「非核政策」がある。

1950年代からアメリカやフランスなどが南太平洋で繰り返し行った核実験は、ニュージーランド国民にとって脅威となり、当時の国際平和運動の高まりと相まって「反核」はNZ国民の悲願となった。

1985年には、フランスのムルロア環礁での核実験に反対した環境保護団体の船がオークランド港に停泊中、仏の諜報工作員によって爆破される事件が起き、NZ国民の「反核」感情はますます高まりを見せ、1987年ついに世界初の「非核法」が成立した。

NZの「非核法」は、外国の原子力艦船の入港を含む自国への核の持込を一切禁止し、原子力発電所の建設も認めないという徹底したもので、ワイラケイ地熱発電所から10キロ南の街タウポの住民に話を聞くと、全員が「原発反対」「非核政策賛成」と答えた。

日本で起きた原発事故後に質問して「原発賛成」と答える人を探す方が苦労するとは思うが、アメリカとの軍事同盟に亀裂を生じさせてまでも毅然と「核」を拒絶したNZ国民の気概に、日本人として頭が下がる思いがした。

気さくに我々のインタビューに応じたタウポのリック・クーパー市長も「NZ国民は“核エネルギー”を好まない。だから地熱など別の方法で電力を得る必要がある」と、誇らしげに語った。

「核」の脅威から軍事大国の「核の傘」を飛び出し、「核の平和利用」とされる原発にも「ノー」を突きつけたニュージーランドは、行く先乏しい化石燃料依存に終止符を打ち、地熱などの再生可能エネルギーで、国内電力の大半をまかなうという壮大な挑戦を開始した。

羊の数が人間より多いと揶揄される人口430万人の農業国と人口1億3,000万人の工業立国日本を単純に比較するのは愚鈍の沙汰ではあるが、“フクシマ後”の世界がこの南半球の島国の動向に注目していることも確かなのである。


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PROFILE
飯島浩樹(いいじま・ひろき)

日本の民放局でニュース番組のディレクターなどを経て来豪。豪SBSの日本語教育番組の制作などに携わった後、TBSのシドニー五輪支局現地代表となる。現在、TBSのシドニー通信員として多くのニュース・レポートを日本に送っている。オーストラリア人の妻、息子2人とシドニー北部に在住。

 

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