2015年3月 ニュース/総合


2月9日、辞任を求める動議が否決された後、会見するトニー・アボット首相(Photo: AFP)

アボット首相、政権基盤に大打撃

辞任案否決も、約4割不信任

トニー・アボット首相(連邦自由党党首)が、就任以来最大のピンチに立たされている。緊縮策への国民の反発や低支持率を背景に求心力が低下、自由党内から党首辞任を求める動きが噴出した。同党が2月9日に開いた議員総会では、政権運営に不満を持つ「バックベンチャー」(政府の役職に就かない陣笠議員)らが提出した党首辞任の動議はひとまず否決されたが、政権基盤への打撃は大きい。

動議に対する投票の結果は、参加した101人のうち反対票61、賛成票39、棄権1だった。閣僚や政務次官など政府の役職に就く「フロントベンチャー」は全員、アボット首相を支持した。党首選となった場合、最も有力な対抗馬と見られたマルコム・ターンブル連邦通信相もアボット氏への支持を表明し、ほかに党首候補に名乗りを上げた議員もいなかった。しかし、バックベンチャーの半数以上が不信任を突きつけたことから、党内に反アボットのうねりが広がっていることを強く印象付けた。

 

緊縮策で支持率低迷

アボット氏は2009年に野党代表に就任した。13年9月の前回連邦選挙で当時与党の中道左派・労働党に勝利し、6年ぶりの保守連合(自由党、国民党)政権を樹立した。労働党が推進した炭素税や資源税の廃止、難民船の阻止といった主な選挙公約を達成するなど一定の成果を上げた。

しかし、昨年5月の最初の予算案で打ち出した一般診療医(GP)診療費の一部有料化、ガソリン税の実質引き上げなどの緊縮策が国民の反発を招いた。与党が過半数に満たない連邦上院では法案通過ももたついた。昨年11月のVIC州選挙、1月31日のQLD州選挙で、いずれも保守連合政権が連敗。連邦のアボット政権の不人気が州レベルに浸透している状況が明らかになった。

政権支持率が浮上する兆しは見えない。9日付の全国紙「オーストラリアン」が掲載した調査会社ニューズポールの世論調査(6〜8日実施)によると、各党別支持率で保守連合は35%と前回調査比で3ポイント下落、野党労働党は41%と2ポイント上昇した。党首支持率に近い「どちらが首相にふさわしいか」の設問でも、アボット首相は30%(3ポイント下落)とビル・ショーテン労働党党首(48%=4ポイント上昇)を下回った。

 

もって数カ月との予想も

アボット氏は9日、議員総会後の会見で「今日から良い政府が始まる」と仕切り直しを強調したが、先行きは不透明だ。5月の来年度予算案発表に向け緊縮策の見直しに着手すると見られているが、オーストラリアンのポール・ケリー編集局長は10日付の論説記事で「自由党は回復不可能な混沌の中に落ち込んでいくだろう」とした上で、16年中の実施が予想される次期連邦選挙までアボット氏が政権を率いることは考えにくいと指摘した。同紙のデニス・シャナハン編集委員は「(辞任案の否決で)おそらく数カ月の時間を稼いだにすぎない」として、失策が1つでも表面化すれば致命傷になるとの見方を示した。

「アボット降ろし」が再燃した場合、台風の目となるのはターンブル通信相。立憲君主制の維持を主張する保守本流のアボット氏に対して、かつて共和制移行の運動を主導したターンブル氏はリベラル派。09年に党首選でアボット氏に敗北して党首の座から引きずり降ろされた経緯がある。現時点ではリベンジを封印しているものの、反アボット派の待望論は根強いとされる。

「どちらが党首にふさわしいか」を聞いたニューズポールの設問では64%が支持したターンブル氏が、25%のアボット氏を大きくリードした。ただ、ターンブル氏は野党支持者に人気があるのが特徴で、与党支持者に限ればアボット首相の後塵を拝している。

女性のジュリー・ビショップ外相も一定の人気があり、有力候補の1人とされる。ただ、過去の発言から「経済音痴」とされるのがマイナス・ポイントだ。

いずれにしても、アボット氏が壊滅的とも言えるダメージを受けたことは間違いない。緊縮策の「主犯」としてジョー・ホッキー財務相の更迭を求める声も報じられていて、政局が一気に流動化する可能性がある。


1年半ぶりに利下げ

政策金利2.25%に−景気刺激と通過安狙う

オーストラリア準備銀行(RBA)は2月3日、今年最初の金融政策決定会合を開き、現行制度下で既に過去最低の政策金利をさらに0.25ポイント引き下げて2.25%にすると発表し、翌4日実施した。前回利下げした2013年8月以来据え置いていた。1年6カ月ぶりの再利下げで、鉄鉱石などの資源価格下落を背景に足踏みする景気のテコ入れを図る。

RBAの利下げに追従して、国内の4大銀全行が5日までに住宅ローン金利の引き下げを発表した。引き下げ幅は、いずれも標準的な金利変動型住宅ローンで、ANZ銀とナショナル・オーストラリア銀、コモンウェルス銀がそれぞれ0.25ポイント、ウェストパック銀が0.28ポイントとなっている。

オーストラリアの住宅ローンは金利変動型が主流であることから、利下げは景気のカンフル剤として即効性が高い。5日付のメディア大手ニューズの電子版によると、0.25ポイントの金利引き下げによって、平均的な総額50万ドルの住宅ローンの支払い額は1カ月当たり73ドル減るという。

加えて足元ではガソリン価格も大幅に下落している。ローンを支払いながら郊外の一軒家に住み、通勤に毎日数十キロ運転している平均的な勤労者世帯にとっては、1カ月当たりおおむね100〜200ドルの「減税効果」となっている可能性がある。

 

世界的な通貨安競争が加速

今回の利下げによって、3日の外国為替市場では豪ドル安が加速し、一時1豪ドル=0.7650米ドルと約6年ぶりの安値を記録した。年央にも利上げに踏み切ると見られている米国との金利差縮小を見据え、今年前半に1豪ドル=0.70米ドルを割り込むとの観測もある。豪ドルは13年上期まで3年近くほぼ1豪ドル=1米ドル以上の歴史的な高値圏にあったため、製造業や観光業などの輸出産業を疲弊させてきた。

利下げによって消費や住宅建設が刺激されるとともに、通貨安で輸出産業も息を吹き返せば、内需と輸出が車の両輪となって成長をけん引する。そうした回復シナリオは、資源ブーム後に長期トレンドを下回る成長が続く豪州経済にとって最善と言える。

もっとも、このところの低金利を背景にシドニーとメルボルンの2大都市では既に不動産市場が加熱気味。「ファースト・ホーム・バイヤー」(初めての住宅購入者)と呼ばれる若い世代には、マイホームはますます手が届かなくなっている。利下げはさらに一段の不動産価格上昇を招く可能性があり、格差の拡大につながるとの懸念も出ている。

世界的に見れば、今回の利下げは「通貨安競争」に飛び乗った格好だ。1月下旬以降、オーストラリアと同じ資源輸出国のカナダをはじめ、欧州中央銀行、シンガポール、デンマーク、ニュージーランド、ロシアなどが相次いで金融緩和に踏み切った。資源安やデフレ懸念を背景に、輸出競争力を高めるため自国通貨を競って引き下げている。


日本食品の対豪輸出、過去最高
2014年は94億円−背景に日本食人気

日本の農水省が2月10日に発表した2014年の農林水産物・食品輸出に関する統計によると、オーストラリア向け輸出額は94億円と前年比で17.5%増え、2年連続で過去最高を更新した。国・地域別では9番目だが、1人当たりの需要で見ると、食文化が似ている英語圏の主要国ではトップ・クラスとなっている。

日本産農林水産物・食品の対オーストラリア輸出額は、10年までの数年間50億円台で推移していたが、寿司など日本食人気を背景に11年以降右肩上がりに拡大。日本酒や米など近年急増している商品もあり、販路拡大を図る日本の政府系機関や地方自治体、民間企業がPRに力を入れている。

ただ、ほかの主要輸出先と比較してオーストラリアの食品検疫規定が非常に厳しいことから、畜産品や乳製品、卵製品、青果などの生鮮食料品を持ち込むのは難しい。このため、オーストラリア向け輸出品目の大半は、加工食品や冷凍食品に限られる。14年の上位3品目も、1位「清涼飲料水」(19億円、93.1%増)、2位「ソース混合調味料」(14億円、13.5%)、3位「しょうゆ」(5億円、22.8%増)が占める。

なお、世界全体の輸出額も6,117億円と11.1%増え、過去最高だった。国・地域別では、1位香港(1,343億円、7.5%増)、2位米国(932億円、13.9%増)、3位台湾(837億円、13.8%増)となっている。

日本政府は、いわゆるアベノミクス「第3の矢」の成長戦略の一環で、農林水産物・食品の輸出拡大策を強化している。20年までに輸出額を1兆円に拡大するとの目標を掲げている。

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