オーストラリア経済の動き

オーストラリア経済の動き

オーストラリア経済の動き
(2009年5~6月)
鳥居税務会計事務所代表 鳥居育雄

景気後退を免れたオーストラリア

世界的な経済の変調が続き、ほとんどの経済先進国(30国中24カ国)が景気後退(Recession)に陥っている中、比較的元気のあるオーストラリア経済の動向が注目された。

6月3日に連邦統計局から発表された今年3月四半期の国民所得勘定統計によると、この3カ月では、豪州経済は0.4%の成長(拡大)を示した(季節調整値)。景気後退は、2四半期連続のマイナス成長と定義されているので、0.6%のマイナス成長となった昨年12月四半期に続くマイナス成長を回避し、豪州経済は景気後退という判断を免れたことになる。経済先進国の3月四半期の数字を見ると、日本(マイナス4%。その後3.8%に修正)とドイツ(マイナス3.8%)が落ち込みが目立っている。この両国は、製造業が主力産業であり、特に商品生産部門での不振が裏付けられている。豪州でも、製造業は大きく生産が低下した。サービスが大きな比重を占めている英国(マイナス1.9%)や米国(同1.5%)では、比較的に小さな落ち込みですんでいる。豪州経済は、季節調整値では景気後退に陥らなかったものの、傾向値では0.1%のマイナス成長となっており、依然として厳しい状況が続いていることには大きな変化がないといえるものの、明るさが見え始めてきたといえよう。

 

反転なるか豪州経済

大半のエコノミストがマイナス成長を予測し、景気後退は不可避と見られていた豪州経済が、今年3月四半期でプラス成長に転じた要因には、輸入の減少や輸出の好調と個人消費の持ちこたえがある。国民所得勘定統計の発表前日に明らかにされた3月四半期の経常収支統計では、輸出が2.2%増加し、経常収支の赤字額が大幅に減少したことが判明し、マイナス成長を避けられる可能性を示唆するものとなった。

3月四半期の経済成長に貢献したのは、この輸入の減少、輸出の増加が大きく、経済成長に寄与した貢献度は、それぞれ1.6%ポイント、0.6%ポイントと計算された。このほかにプラスの要因では、家計の最終消費があり、0.3%ポイントの貢献とされている。この貢献では、税ボーナスや社会給付の増額を行った財政支出による支援策の効果が見込まれており、連邦財務省の試算では、一連の財政支出がなければ、経済成長がマイナス0.2%の結果になったとされている。

反対に、経済成長の足を引っ張ったのは、企業設備投資であり、マイナス1.1%ポイントの影響と計算されている。産業別では、非農業部門が0.5%成長した。産業別の寄与度をみると、製造業、資産ビジネス・サービス業や建設業の不振が目立っている。このほかの数字では、輸出の回復を裏付けるように、交易条件が大幅に改善されたことが目立つ半面、実質国内所得は、1.4%低下した。

豪州経済の鍵を握るのは、今や中国経済である。中国の工業生産高は、5月には年率換算で9%あまりの増加となり、一時の低迷から脱しつつある。自動車の生産も大きく伸びている。それに伴い中国がオーストラリアから輸入する工業原料素材、特に鉄鉱石、銅、アルミや亜鉛の数量が急激に増加している。これが先の貿易収支の好転にもつながり、豪州経済の成長にも寄与している。

中国は、リオ・ティント社への経営参加問題に見られるように、オーストラリアの資源に触手を動かし、価格交渉でも主導権を取るつもりである。鉄鉱石の価格交渉では、従来はプライスセッターであった日本の鉄鋼メーカーが、最近は中国に主導権を奪われていたが、リオ・ティント社と中国当局の関係悪化を契機に、いち早く35%の引き下げで妥協し、再び主導権を取り戻す動きも出てきた。これに関連しては、豪中間での軋轢も予想されるが、とにかく中国経済頼みの状況であることは確かである。

中国に次いで貿易相手として重要である日本の景気回復も、明るい材料であろう。6月16日に開催された日銀政策決定会合で、景気の現状判断を上方に修正し、「景気下げ止まりの動きが次第に明確になっていく可能性が高い」とした。遠回しの表現ながら、景気の底打ちを示唆したものであろう。日本の景気回復は、豪州経済にとっては大きなプラス材料である。

豪州経済の回復への足取りは、金利の動きでも出てきた。連邦準備銀行(連銀)は、6月2日に開催された理事会で、公定歩合の据え置きを決定した。連銀総裁は、声明書の中で、世界経済に安定化の動きが出てきたことを指摘し、世界の金融市場も落ち着いてきているとした。さらに、企業の設備投資意欲には減速が見られるものの、住宅投資の勢いは力強くなっているとした。その上で、インフレ状況の鎮静化により、今後必要があれば、一段の金利引き下げもあり得るとしている。しかし、豪州経済に回復の兆しが見え始めているので、歴史的に見て、異例に低い水準にある現在の金利がさらに下がる可能性は低いといえよう。

ただ、急激な金利水準の上昇は、景気の回復に水を差すことは間違いがない。調達コストの上昇を理由に住宅ローン金利を引き上げたコモンウェルス銀行の動きに対し、直ちにスワン連邦財務相は、「一方的で、正当化できない」と批判した。最大の住宅ローン貸手である同銀行の動きであるだけに、ほかの大手銀行やその他の金融機関が追随するのは必至であろう。

景気の回復の障害となる要因のいくつかは、金利の高騰と豪ドル高などである。

豪ドルの対米ドル相場を見ると、昨年11月の水準よりは、30%近く上昇しており、輸出が苦しくなっているのは事実である(貿易加重指数TWIについてはおよそ25%、日本円に対しては、約40%の豪ドル高)。しかし、これを乗り越えてこそ、本物の景気回復である。豪ドル安頼りの経済体質では、本物の回復とはいえない。

景気後退の恐れに伴う最大の懸念は、失業率の高騰であろう。豪州の失業率統計は信頼性に若干の不安があり、4月の失業率は、前月の5.7%から5.5%に下落した経緯があるが、5月には再び5.7%となった。5月にはフルタイム雇用が2万6,000あまり減少した半面、パートタイム雇用は、約2万4,500増加し、差し引きでは1,700という大方の予想よりも少ない減少ですんだことになる。この数字が正しいとすると、景気の変調に際して企業経営者は人員削減ではなく、パートタイム雇用への転換で対応していることになる。

米国でリーマン・ブラザーズが経営破綻し、世界恐慌が現実化した昨年9月以降、世界各国とも人員削減が急ピッチで進んできた。米国では400万人を超える雇用削減があり、英国では20万人以上、日本でも派遣社員を中心に50万を上回る、事実上の首切りがあった。統計上では、豪州ではこの期間に逆に1万弱増えている。たとえパートタイム雇用転換による結果だとしても、豪州労働市場の底堅さや弾力性の強さを示すものといえよう。

これらの統計を見る限りでは、今回の景気変動による労働市場への影響は、1980年代や1990年代初めのような深刻なものにならずにすむことが期待される。

豪州株式市場では6月3日、普通株指数の終値で、昨年11月10日以降では、約7カ月ぶりに4,000台となった。連銀総裁の発言やそのほかの経済指標も合せて考慮すると、薄日が見えてきた可能性もある。オーストラリアは冬の季節を迎えようとしているが、豪州経済の春は先に来るかもしれない。

 

企業の栄枯盛衰 - ゼネラル・モーターズの場合-

米国連邦政府、労働組合や債権者団体とのぎりぎりの折衝を続けていたゼネラル・モーターズ(以下GM)は、連邦破産法第11条にも基づく申請を裁判所に提出し、事実上、倒産した。GMといえば、米国企業を代表するばかりでなく、長らく世界のトップ企業であったことで知られており、営利企業の栄枯盛衰、さらには、米国製造業の地盤低下を端的に示すものとなった。

ここに1976年に発刊された『世界の大企業』(岩波新書)がある(以下の統計では、金融関連企業は除外されている)。これによると、75年当時、売上高で見た政界のトップ200社の内、GMは第1位であった。73年の第一次石油ショックを契機に石油価格が高騰したために、エクソン社に第1位の座を譲ったものの、それまでは、GMが長期間にわたり第1位、しかも断然たるトップであった。

75年当時、GMの売上げは、トヨタ自動車の5倍、ビッグ3とされる、フォード自動車やクライスラー(同じく事実上倒産)もそれぞれ、3倍、1.5倍と、トヨタとは相当の格差があった。ところが、その後約30年を経過した2008年で見てみると(こちらは営業利益)、世界企業のトップは、石油企業エクソン・モービル社(2社が経営統合)であり、赤字続きのGMはトップ300社にも入っていない。自動車業界だけを見ても、トップ20社の国別内訳は、日本8社、ドイツ4社、フランス2社などとなっており、米国企業では、ビッグスリーの一角、フォード社が第6位に入っているくらいである。このころは絶好調であったトヨタ自動車が業界トップ、全体でも第15位であった。

長い間赤字を垂れ流し続けてGM社やクライスラー社が倒産したのも当然の結果といえよう。両方の統計でも、トップテンのほとんどは、エネルギー関連企業であるが、現在では、中国とロシアのエネルギー関連企業のトップテン入りが目についている。GMとフォードという2社が姿を消しているのに対し、両統計でベストテン周辺にいるエネルギー関連以外の企業は、米国ゼネラル・エレクトリック社のみである。

同社は、1975年当時は電機・電子機器産業に分類されているが、現在ではコングロマリットとされていて、各種素材産業のほか、金融関連にも大きな比重を置いている。また、現在の統計では、情報通信や携帯電話企業の上位進出も目立っている。

このように見てくると、世界的な大企業といえども、栄枯盛衰を免れることはできない。その意味では、現在のトップ企業も、30年後に生き残っているという保証は全くない。GM社が倒産し、中国の自動車販売台数が米国を上回るなどと、30年前に考えた人はいなかったであろう。平家物語のいう、『盛者必衰の理』である。

豪州経済にとってのGM倒産劇の懸念は、完全子会社であるGMホールデン社の行方である。同社製コモドアーは、車種別では毎年最多の販売台数となっているが、GMホールデン社は、ここ数年連続して赤字を計上している。

同社は、豪州連邦政府の支援も受けて、環境適合技術の開発や新小型車の生産に向けているが、それでなくても、比較的小さな市場(年間百万台規模)に多くの輸入車があふれている現状では、先行きは不透明であろう。同社の将来は、親企業GM社の新経営陣がどのように判断するのかに掛かっている。

このほかの経済的ニュースとして、中国の政府企業の全面的な資本参加を拒否したリオ・ティント社が、ライバルであるBHPビリトン社と鉄鉱石採掘事業で合弁したことや、旅行客の減少により、日本と豪州間の航空機便数がさらに削減されることなどが大きな話題となった。

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