オーストラリア経済の動き

オーストラリア経済の動き

オーストラリア経済の動き
(2009年7月~2009年8月)
鳥居税務会計事務所代表 鳥居育雄

景気回復の兆しの見えるオーストラリア

 

鮮明になった景気回復

ほとんどの経済先進国が不況にあえいでいる中、数少ない例外国であるオーストラリアの経済が回復基調にあることが一段とはっきりしてきた。世界最大の米国経済の趨勢はまだ不透明であるが、ドイツやフランスの経済も成長に転じたことが明らかとなり、また、8月17日に内閣府から発表された4-6月四半期の数字が実質成長率で対前期比0.9%のプラスに転じた日本経済も5四半期ぶりに拡大するなど、世界経済も全体として、100年に1度といわれた、大不況を脱しつつあるようである。

8月14日に開催された連邦議会の委員会に出席し、証言したグレン・スティーブンス連邦準備銀行(連銀)総裁は、金利の上昇が予想よりも早く、間近に迫ってきたと発言し、景気回復が本格化してきたことを示唆した。同時に、失業率も底打ちしたものとし、今回の景気後退における失業率の上昇が過去の不況に比較して、大きくならない見込みであることを明らかにした。これらの状況が事実であるとすれば、連邦政府による思い切った財政政策と連銀による果敢な金利の引き下げは、その政策効果を発揮してきたといえよう。

 

いくつかの経済の動き

豪州経済全体としては、明らかに上昇過程にあるが、経済における個々の動きはさまざまであり、回復に反する動きも見られる。

7月20日に発表された6月四半期の生産者価格統計によると、対前期比で0.8%落ち込み、約10年前に始まったこの統計では、過去最大の下落幅となった。生産者の段階で価格が落ち着いていることは、消費者物価にも影響を与えることになり、インフレの鎮静が長引くことにもなろう。

事実、7月22日に公表された6月四半期の消費者物価指数(CPI)は、この1年間で1.5%の上昇という、近年にない低いものとなった。6月四半期の動きだけを見ると、生鮮食料品や金融関連価格が下落に寄与している半面、運輸や家財サービスなどは上昇した。医療や教育関連は、引き続いて上昇傾向にある。

一般的に、物価関連指数は、経済の現状に反応する一致指数とされているので、これだけを見ると、経済の現状は依然として低迷しているといえる。しかし、先行指標とされる消費者動向指数調査(ウエストパック・メルボルン研究所)では、大きく落ち込んでいた数字が、8月までの3カ月では28%も上昇し、過去の景気後退時における立ち直りよりも、力強い回復を示したものとなった。連邦政府による一時金の支給や投資減税政策の効果が明確にうかがえるものになっている。問題は、これが自立的なものとなり、持続するかであろう。

先に述べた通り、連銀は、近い将来での金利の引き上げを示唆しているので、引き上げのタイミングが問題となろう。ミニ住宅ブームともいえる現状が落ち着き、金利の引き上げが小幅に収まれば、回復が順調に進むことも考えられる。反対に、住宅市場が過熱すれば、急激な金利の引き上げが行われ、一気に消費意欲が減退することにもなろう。

 

BHPビリトン社新会長の横顔

オーストラリア出身者としては数少ない世界的大企業の経営者である経験を持つジャック・ナッサー氏(元フォード社社長)が、オーストラリア最大の企業ともいえるBHPビリトン社の新しい会長に就任することになった。

日本では、大企業の取締役社長(President)は、ほとんど例外なく、取締役会長(Chairman)に就任する。これに対し、オーストラリアの大企業では、その社長(Managing DirectorまたはChief Executive)が会長になることはなく、その社出身者が就任するのも極めてまれである。現実に経営に携わっている経営陣(Management)を監視・指揮するのが取締役会(Board)の役目というのが徹底されているからである。取り締まられる側の社長がすぐに取り締まる側の会長になるのは好ましくないということである。

この点、日本では、取り締まる側とその相手側が混同している、と言われてもしょうがないであろう。

オーストラリアの大企業の場合、取締役の多くは社外取締役のケースが多く、非常勤であるのが通例である。その中で、会長職は極めて重要である。取締役会の主宰と株主総会での議長役が主な職務であり、実質的に経営陣の人事権を握っているといえよう。そのために、常勤職に近い会長職もある(Executive Chairman)。

したがって、大企業会長職の適格者は、多数の株主を納得させるだけの経営実績のある者ということになり、ほかの大企業経営者として成功した人がなるという傾向が強く、過去に携わった業種はあまり関係がないようである。

今回就任したナッサー氏は、1947年生まれの62歳。レバノン出身で、オーストラリアに移住し、メルボルンのRMIT大学を卒業した後、フォード・オーストラリア社に入社し、急速に頭角を表わした。その後、南米や欧州で経営に携わった後、本社副社長を経て、1999年にフォード本社社長に就任した。氏の俗称である“Jac The Knife”は、その猛烈なコスト削減経営に由来するが、ナッサー氏は、経営の多角化、世界的戦略などにも目を配った。

後に経営戦略を巡ってフォード家と対立し、2001年に実質的に追われることになるが、いまだに氏の経営手腕を高く評価する声もある。ナッサー氏は、同じレバノン系として、日産会長のゴーン氏とも親交がある。

BHPビリトン社前会長のドン・アーガス氏は、ナショナル・オーストラリア銀行(NAB)頭取を退職後、BHP社(当時)会長に就任した。同銀行の元頭取も同会長に就任した経緯があり、BHP社のメイン・バンクであるNABの影響が強いとみられている。アーガス氏は、10年間の在任中、BHP社時代には米国銅鉱山の買収やWA州での精錬施設の建設などでの大失敗もあったが、BHP社と英・南アフリカ系のビリトン社との合併に成功し、BHPビリトン社を世界最大の鉱業企業にした実績がある。

今回の会長職後任者としては、エネルギー企業経営者としての実績もある、コモンウェルス銀行会長ジョン・シューベルト氏(現取締役)を推す声もあったが、結局、ドン・アーガス氏が強く推したこともあり、ナッサー氏が8月4日に就任した。失意のシューベルト氏は、銀行会長職を辞任することになった。

BHPビリトン社は、世界最大の鉱業企業として、特に鉄鉱石や製鉄用原料炭などの分野で価格決定力を強めており、リオティント社との経営統合を画策するなど、経営拡大に意欲満々とみられている。BHPビリトン社は合併の条件として、豪州連邦政府との合意により、会長職にある者は原則としてオーストラリアでの居住が義務付けられているので、これまでは、世界中を飛び回っていたナッサー氏もオーストラリアに腰を落ち着けることになろう。以前にはThe Big Australianといわれた、BHPビリトン社での同氏の会長職としての経営手腕が注目される。

 

強まる四大銀行の力

昨年来の世界的な金融危機の影響により、オーストラリアでは四大銀行がますますその地位を強固にしたものになっている。

6月決算であるコモンウェルス銀行の業績が8月11日に発表されたが、結果的には7%の減益となった。貸出金利と預金金利の差である利ざやの拡大により、本来の業務利益は拡大し、経費増大の抑制にも成功しているが、不良債権償却の増加により、最終的には、減益決算となった。特に同銀行の大きな収益源である住宅ローン関連では、今後失業率の上昇により、貸倒れが増加するものと見込まれ、収益の足を引っ張ることになろう。9月決算であるほかの3つの大手銀行も同じような傾向の決算になるものとみられる。

注目されるのは、ラルフ・ノーリス同銀行頭取が住宅ローン金利の上昇を明言したことであろう。住宅ローン金利は、これまでも連銀による公定歩合の引き上げ幅以上に引き上げられているが、同頭取は、今後もこの傾向が続くことになると発言した。この背景には、特に海外からの調達金利が上昇していることもあるが、反面では、四大銀行が住宅ローン分野でのシェアを高め、寡占的な地位を高めていることも影響している。

金融危機前には、貸出しシェアを高めていた住宅ローン専門会社は、調達金利の急激な上昇により競争力を失い、そのほとんどが四大銀行の傘下に入ってしまった。さらに、有力なライバルであった地方銀行も、そのいくつかは大手銀行に買収される事態となり、四大銀行のシェアはじりじりと高まっている、

コモンウェルス銀行は、経営危機に陥った親会社銀行の要請により、バンクウエストを比較的廉価で買収することに成功した。また、ウエストパック銀行は、セント・ジョージ銀行との経営統合を図った。この2つの銀行は、資金的な余裕に乏しいので、当面は次の動きにまだ出ないと見られている。これに対し、同じようにシェア拡大を目論んでいるANZ銀行とナショナル銀行は、資本増強を名目に大型の増資による資金調達を行っており、地方銀行を買収する資金的余裕は十分である。

買収対象となる地方銀行は、現時点では3つに減少している。Suncorp-Metway Bank、Bank of Queensland、Bendigo-Adelaide Bankである。このうち最も現実味を帯びているのは、Suncorp-Metway Bankであろう。同行は、銀行と保険を事業とするユニークな金融機関であるが、不良債権の続発、多発する自然災害や金融不安により、大幅な減益決算を強いられた。以前にも、同行は銀行事業部門を売却したい意向であったが、種々の事情から見送った経緯がある。特にナショナル銀行が食指を動かしているほか、ANZ銀行も可能性を探っているようである。

この2つの大手銀行にとっては、シェアを大きく拡大するためには、自然成長(Organic Growth)だけでは時間が掛かり過ぎるという焦りがあるようである。資金的にも余裕がある現在、残り少ない地方銀行を買収するという動きが現実化するかもしれない。

金融危機により、時限的ではあるが、連邦政府による最高100万ドルの預金保証が付けられた。しかし、銀行預金は、地方銀行やそのほかの金融機関から四大銀行にシフトした。この余勢をてこに、四大銀行はシェアの拡大に躍起となっている。

このほかの経済的ニュースとして、近い将来オンラインによるニュースに課金することをメディア王のルパート・マードック氏が明言したことや、鉄鉱石価格を巡る豪中間の問題にも関連し、シンガポール政府系のファンドの理事職からチップ・グッドイヤー氏(前BHPビリトン社長)が事実上更迭されたことなどが大きな話題となった。

新着記事

新着記事をもっと見る

新着イベント情報

新着イベントをもっと見る